2001/6/8 日本選手権1日目
女子やり投外伝
前日本記録保持者・小島裕子の挑戦
「三宅の記録こそ、本当の日本記録」

「三宅の記録こそ、本当の日本記録」
 なんとも潔く話してくれたのは、女子やり投前日本記録(57m79)保持者の小島裕子(東京陸協)である。
 5月6日の水戸国際で三宅貴子(ミキハウス)が61m15の日本新、世界選手権A標準突破の大アーチを北総の空にかけたとき、小島は目の前で自分の日本記録を破られたわけである(正確には三宅の5投目の57m86のとき)。その後、三宅を取材している際に、水戸の試合では「小島さんのやりを借りて投げた」という話を聞き、運命の皮肉を感じただけでなく、機会があったら小島の話を聞いてみたいと思っていた。そのチャンスが、日本選手権の試合後に幸運にも訪れてくれた(福島民友と福島民報の記者と一緒に話を聞くことができた)。
「私の日本記録は、やりの規格が変わった99年に出したもので、たまたま年度ランキングが1位で、その記録が日本記録になったんです。(それまで残っていた)記録を更新して記録保持者になったわけではないので、(その記録を破られても)それほど悔しくありません。三宅の記録こそ、本当の日本記録です。新規格のやりで、旧規格のやりより飛ばしたわけですから」
 貸したやりで自己の日本記録を破られても、実に清々しい前記録保持者だった。

 小島といえば、昨年までは三英社の所属だったが、同社が昨年12月で休部。今は東京陸協登録で試合に出ている。
「12月10日付けで陸上部がなくなって、12月11日から三英電業でフルタイムで働いています。5時20分までですね。そのあと、平均して2時間くらい、日大で練習をさせてもらっています。以前より時間が少ない分、練習の質は上がっています。冬の間は思ったよりできたのですが、シーズンに入ったらもうちょっと欲しいと感じ始めました。学生と一緒になれば、平日でもナイターで投げられるのですが…。土日だけではなかなか、補えないですね。私の場合、投げて覚えていくタイプなので」
 次の大きな試合は9月末の全日本実業団。「練習時間はたっぷりある」と言う小島の投てきが、楽しみである。

 ところで、勤務場所こそ千葉と東京で異なるが、男子ハンマー投の海老原亘も同様の立場。昨年、自己の日本歴代3位記録を72m47まで伸ばしたが、今年はまだ70mスローがない。東アジア大会で68m55の3位に終わったあとの記者会見でのコメントが印象的だった。
「有給休暇を4日間とって来たのですが、その割には結果が出ず、残念です」
 アマチュア云々を論じるつもりはないし、境遇のいい選手に頑張れと言っているわけでもないが、2人のような境遇の選手たちが頑張っていると、嬉しくなりそうだ。