陸上競技マガジン2004年4月号
2004日本・中国対抗室内
森千夏
4年連続の室内日本新


 男女砲丸投の室内日本新が記録された日中対抗室内天津大会。ともに屋外の日本記録保持者でもある。片や6年前に18m53を出しながら、その後2度のヒジの手術を経て復活してきた野口安忠(九州情報大ク)。もう1人は昨年女子砲丸投選手としては初めて世界選手権に出場、記録的にも17m80と大台に迫る投てきを見せた森千夏(スズキ)。2人の軌跡が天津で交わった。
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 最初に登場したのは野口。最終投てきの4回目で18mラインを越えた。18m07で18m48の張奇(中国)を抜くことはできなかったが、昨秋3年ぶりにマークした大台の18m05を、室内で2cm上回った。この記録をこの時期に出せた理由を、野口は昨秋からの延長だと言う。手術をしたヒジの状態も、それと関係していた。
「自分は練習で投げられないので、試合での感覚がすごく重要なんです。技術的にも部分、部分でしかできなくて、練習では一連の流れにまとめることができません。去年は11月3日が最後の試合で、ファウルでは18mを越えていました。あと2〜3試合あれば日本記録も狙えると感じていたんです。イランで投げてみるとその感覚が残っていて、修正すべき点もわかった。それを継続していって天津の4投目に記録が出たんです。自分では18mに、それほど驚いていません」
 野口が試合を終えると、入れ替わりで女子の砲丸投が始まった。横浜に向けてウエイトをやりに、ウエイトルームに行こうとした野口だったが、試合を見ることに。森も野口同様、最後の4投目で記録を伸ばし、17m46と室内日本記録を66cmも更新して2位。
 野口と違って森には、自身、若干の驚きがあった。というのも、天津の3日前に上海の室内競技会に出て、16m29しか投げられなかったのだ。
「天津の4回目のビデオを見たんですが、その一投だけ左脚の使い方がうまくいって、全身の力の入り方も良かった。スピードもちょっとだけ上がっていましたね」
 森は昨シーズン蓄積した疲労が大きかったため、例年と違った冬期練習の入り方にしたという。
「冬期練習というより、練習をやりながら身体を馴らしていった感じ。でも、休んだせいか、ウエイトのマックスが上がったんですよ。だから砲丸投の記録が上がるわけではないんですけど、ちょっと自信になりました」
 恒例になった上海体育学院での合宿は、今回は2月1日から3月25日までの長期間にわたるもの(したがって横浜大会には不参加)。天津まではそれほど投げ込まず、昨秋の延長線上の技術。それでも「上海に来ていますから、教えてもらったことをそのままやっているだけで記録が出たんでしょう」と、あっけらかんと言う。
 自己の持っていた16m80の室内日本記録は、1年前に同じ天津で出したもの。今の状態でそれを大幅に更新した。天津後が本格的な冬期練習で、新しい技術も取り入れて、どんどん投げ込んでいく。
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 横浜アリーナに登場した野口は、気合いが入っていた。
「日本の観客の前で記録を出したいと思っていまし、横浜の方が調子も良くて、トライアルでも飛んでいました」
 それが災いして、1回目にスピードを上げすぎてしまった。もう少し直線的な動きをしなければならないところで、回りすぎてしまったという。
「ヒジにガツンと衝撃が来てしまって…。それでも17m77ですから、いつでも17m後半は出せるということです」
 ひときわ大きな身体の張が、ひときわ大きな声で19m03を突き出して2連勝。2位・野口との差は開いた形になったが、野口も収穫は大ありだった。
「日本記録は屋外でも出しますよ。元々、19mを目標にやってきました。19mの放物線を描きたいんです」
 かつて、日中の記録差は4〜5mもあった女子砲丸投だが、森がどんどん記録を伸ばして、その差を縮めている。天津で優勝した程暁艶との差は11cmだった。野口がつかんだ自信の大きさを考えると、男子の差も実質的には縮まっているのかもしれない。


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