陸上競技マガジン2003年11月号
日本記録インタビュー  女子砲丸投17m80=アテネ五輪B標準突破
森千夏
「18mではなく、
18m55のアテネ五輪A標準が目標です」


――どんな気持ちで5投目に臨みましたか。
森 すっごく気合いを入れました。これでもかっていうくらいに。砲丸を持って気合いを入れて、フーッと息を出すときに脱力しすぎるといけないので、少し、フッと息を止める感じでやりました。それが良かったのかもしれません。同じやり方で、次も上手くいくとは思えませんけど。(リリース時の)声も大きかったですね。すっごい“キャー”でした。
――どんな投てきだったのですか?
森 いつもより勢いはありました。足にスピードもありましたし。それは冷静に判断できましたね。投げた瞬間、17m30くらいだろうと感じたので、17m80と知って「えっ、そんなに行っちゃったんだ」と思いました。
――世界選手権前から中国でやってきたことが、ここで結果に表れた?
森 中国のやり方でスピードはあったと思います。上海で繰り返しやっていましたから。でも、上半身や腕が、なかなかついていかなかったんです。日本に戻って一生懸命投げても、17mまで行かなかった。世界選手権から帰国後もずっと悪くて、アジア選手権もどうなるかな、と不安がありました。あまり考えすぎると良くないので、試合になったら考えないで行きましたが。
――それで、スピードだけは戻った?
森 そうですね。でも、春の17m53のときの方が、“上手く投げられた”感覚はありました。全身を使って投げられた感覚です。(今回と比べると)スピードがなかったから、それができたのかもしれませんが。(最初に17mを記録した昨年11月の)浜松で17m39を投げたときもそうで、16m80台を投げていたときの方が、動きのまとまりとしては良かったと思います。

――会場の雰囲気は?
森 スタンドはそれほど大きくなくて、浜松の競技場(四ツ池公園)くらいでした。コーナーの芝生の部分が階段席になっていて。観客は30〜40人くらいしかいなかったと思います。炭マグがなかったのでみんなで出し合ったり、砲丸は最初は2個しか用意されていなかったり。(練習投てきで)投げた砲丸を自分たちで取りに行ったりと、すごかったですね。
――去年の釜山アジア大会と同じ顔ぶれだったのですか。
森 中国の1人は違う選手でしたが、あとはタイの人も韓国の人も、同じメンバーでした。3投目が終わったとき、何番かなと記録を見せてもらったんです。そうしたら「あーっ、5番だ」ってわかって。去年はメダルが取れそうだったのに5位で(3位のクラサエヤン=タイ=が17m53で森は16m93の日本新)、「5番だったらアジア大会と同じだー」と思って。同じ人たちに、同じように負けるのが嫌だったんです。それで気合いを入れ直しました。5投目で2位に上がったんですが、6回目に中国の人に18mを投げられて、「また、やられた」と思いました。優勝した中国の人には一度も勝てていませんし。
――上海で一緒の選手ですか。
森 いえ、華北の人なんです。中国の選手はみんな似た投げ方ですが、微妙に違う部分もあります。

――今回も喜んでいない?
森 はい。30cm更新、18mまで20cmと言っても、自分の目標としている数字ではありません。18mではなくて、A標準(18m55)が目標なんです。今回の記録を世界選手権で投げても、それでも予選落ちなんです。来年のオリンピックにはどうしても出たいので、早くA標準を投げて、オリンピックまでにはもっともっと、投げておきたい。オリンピックはどの選手も合わせてくると思うので、レベルが高くなると思うんです。ホント、30cmは大したことじゃありません。21mを投げたら、本当に喜べますけど。
――タイと韓国の選手に勝てたことは?
森 それは嬉しかったですね。韓国の選手は19m台の選手ですし、タイの選手にも初めて勝てましたから。でも、世界選手権に行って、アジアだけを見ていたらダメだとわかりました。ただ、今回は日本選手がスーパー陸上に出るために、男女の砲丸投のタイムテーブルを入れ替えてもらったんです。わざわざそうしてもらって、迷惑もかけていますから、満足はできませんけど、日本新という結果を出せたのはよかったと思います。
――今後につながる収穫は?
森 世界選手権に行って、三宅(貴子・ミキハウス)さんと綾(真澄・グローバリー)さんに、腰を使えるようになるウェイトのやり方を教わったんです。そこを中心にして投げ出す感じの投てきが、少しわかってきました。(ウェイトでも投げでも)それを試すのがすごく楽しいんですが、世界選手権から帰国して、ずっと調整調整で、せっかくいい方向に向かっているのに、ちょっと(力が)下がり気味です。やっていて楽しいときが、一番身に付くと思うんです。まだ、それほどたくさん試せていませんが、これをやっていけば力も付いて、投げにもつながると思います。


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