■ケニア選手の流れに入れなかったゲタンダ
3区のゲタンダでトップに立ち、YKKに1分の差をつける。そのまま流れに乗って逃げ切るのが重川材木店の必勝作戦。そのためには2区終了時点で、YKKに30秒以内の差にとどめなければいけなかった。
しかし、実際は1分05秒の差。加えてゲタンダの近くには、中部地区の強いケニア選手がいなかった。最も近くにいたドゥング(八千代工業)でさえ、51秒も先に中継所を出ていたのだ。ケニア選手同士が作り出すハイペースに乗っかれば、ゲタンダも違った走りができたかもしれない。しかし、日本選手を数人抜いた後は、1人で走る展開になった。
来日後のゲタンダの1万mベストは28分09秒61。日本選手権で2番目にフィニッシュしたときのタイムで、9月に26分41秒75のジュニア世界新を出したS・ワンジル(トヨタ自動車九州)に28秒差と好走した。そのときは、ケニアから戻ってきた翌日のレースだった。
「強いケニア選手たちと、本気の競り合いをさせてみたい」
重川社長もかねがね、そう感じていた。
しかし今回も、そのシーンは実現しなかった。45分21秒で重川材木店初の区間賞獲得選手にはなったし、高田自衛隊を抜いて3分以上の差をつけた。だが、それは当然のこと。設定タイムの44分30秒には遠く及ばなかった。YKKとの差は32秒にまで縮めたが、トップに立つこともできなかった。
「もう少し前でタスキをもらいたかった」
ゲタンダはレース後、ついつい漏らしてしまった。オツオリ・コーチによれば、他のケニア選手たちが駅伝前に合宿をして速いペースの練習を行なっていることも、アドバンテージになっていると思えたらしい。
ゲタンダの置かれた状況は理解しつつも、それを走れなかった理由にすることを、重川社長は快く感じなかった。
「マサシ(スズキ)なら、あの位置でタスキをもらっても行っていた。言い訳するなっ!」
その後の展開が苦しくなったのが明確になった区間だけに、厳しい評価をせざるを得なかった。
3区のゲタンダは北陸地区では区間新&重川材木店初の区間賞 |
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■立て直せなかった4区
3区までが予定通りに進まなかったとき、立て直す可能性のある区間として期待されていたのが4区と5区である。3区でトップに立つことと比べれば期待度は低かったが、4区には4年前の箱根駅伝2区区間賞の原田正彦を、5区にはこの夏の練習が最もこなせた松本真臣を配置していた(第2回 初めての夏合宿を経て参照)。13.9kmと14.0kmの区間で、それなりに挽回ができる距離である。
しかし、この2区間でもYKKとの差は、逆に広げられてしまった。
4区の原田は最初の5kmを16分後半で通過した。コースが上っていることもあったが、原田の調子自体が上がっていなかった。YKKの姿は、愛知製鋼に抜かれた2km以降、見えなくなった。
原田は8月末に自転車で転倒し、2週間走れないケガがあった。練習を十分に積めない状態で国体のハーフマラソンに出場し、そこでダメージが残ってしまった。国体から17日で北陸実業団対抗駅伝。今の原田には、このスケジュールを乗り切る力はなく、調整の段階で調子を上げられない事実を突きつけられた。
「一番キーになる可能性もあった準エース区間。そこを任せてもらって、その期待に応えないといけない立場でした。どんな理由があっても、区間下位というのは許されません。(3年間在籍した)エスビー食品でほとんど試合に出られず、初めて実業団のトップ選手たちの胸を借りられる機会。その中で、少なくとも真ん中くらいでは走りたかったのですが…」
4区は9km手前に折り返し点があり、来た道を戻ることになる。そこから下り基調となるが、そこでは愛知製鋼との差を詰めた。最後に、少しの意地を見せたのだった。
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4区を任された原田だったが… |
■結果的にオーバーペースだった松本
5区の松本真臣は練習が積めていたことで、手応えも感じていた。YKKもエース格の西川哲生だったが、気持ちではひるんでいなかった。
タスキを受けたとき、愛知製鋼が12秒前にいたこともあり、速いペースで入って1.5km付近で抜き去った。5kmは14分34秒で通過。下りということを考えれば決して速すぎるタイムではない。だが、その後がよくなかった。「8kmの上りで動かなくなった」と悔しそうな表情を見せる。そこの1kmは3分20秒もかかり、それに続く下りでも3分10秒以上かかった。
「突っ込みすぎでした。それと、1人で押していく力がなかったと思います。夏場の距離走などはほとんど、集団で走っていましたから。最後の調整も、ちょっと慎重に行きすぎたかもしれません。練習を落として体重が少し増えてしまいました。中継してタイムを見たときは、“やってしまった”と思いました。設定タイムより1分も遅かったですから」
終盤の失速が大きく、愛知製鋼に詰められもしたが、最後はなんとか2秒差で逃げ切った。しかし、YKKとの差は3分55秒にまで広がり、残り距離(6・7区の2区間で23km)を考えると、絶望的な差になってしまった。