2002/5/19 東日本実業団対抗
杉林、思い出の宇都宮で
9年前の走幅跳インターハイ優勝記録を上回る
“8m&17mジャンパー”にも意欲?
大会初日の三段跳を欠場した杉林孝法(ミキハウス)が、最終日の走幅跳には出場していた。
「左足の踵の状態がよくありません。踏み切り足ではないので走幅跳は大丈夫なんですが、三段跳の“ジャンプ足”なので、三段跳の方は大事をとったんです。走幅跳には助走のチェックのつもりで出場しました」
6回の試技内容は以下の通り。
6m98(-0.1)-7m21(+1.3)-F-F-F-7m62(+1.3)
最後の6回目の跳躍でトップに立ったが、中嶋豊(花輪高教)に逆転されて2位にとどまった。それにしても、最後の最後で記録を伸ばしてくるあたり、本職の三段跳と同じ。“試合の最中に技術を修正できる選手”たる杉林の面目躍如といったところだろうか。6本目の技術を前半で出すことができれば、後半にもっと記録を伸ばせるともいえるわけで、まだまだ記録を伸ばす余地のある選手、ともいえそうだ(走幅跳でも三段跳でも)。
「助走のチェック」という出場理由だったので、走幅跳と三段跳で助走がどう違うのかを質問してみた。
「ほとんど一緒ですが、感覚的に微妙に違います。走幅跳は素人なんですが、三段跳よりも躍る(踊る?)ような、乗るような助走なんです(※注)。外から見たら同じなんですけど。抑えなきゃいけないポイントは一緒です。最近、三段跳の助走に迷いがあって、吹っ切るためにも走幅跳がいいかな、と考えました。気楽にと言ったら走幅跳の選手に怒られるかもしれませんが、気楽さのなかからきっかけがつかめるかな、と。助走(のポイント)さえ押さえられれば、記録はどうでもよかったんです。でも、だんだん乗ってきたので、7m50〜60はいけそうな感じがありました。そういう意味では、いい仕事ができたと思います」
杉林は今でこそ三段跳のスペシャリストのイメージがあるが、インターハイではれっきとした走幅跳チャンピオン。同じ高3時には7m76の高校歴代3位をマークしている。そんな選手に「走幅跳は素人」と言われると、他の選手は立つ瀬がないのだが…。
それはともかく、杉林が優勝したインターハイが、93年の宇都宮大会だった。
「宇都宮はインターハイ以来、9年ぶりです。今日と同じピットで、同じ向きでした。でも、自分の記憶とはずいぶん景色が違いましたね。あのときは、周りが見えていませんでした」
同学年に、前年7m69の高2最高を跳んでいた渡辺大輔(八王子高・現ミズノ・8m12)や、翌年の世界ジュニアで銅メダルを獲得する田川茂(十日町高・現ミズノ・8m15)がいたが、杉林は「優勝を狙っていた」という意気込みで臨んだ大会。そういった当時の状況と、三段跳で17mジャンパーとなり、助走チェックのために“気楽に”出た今大会のギャップが、見える景色の違いとなって現れたのだろう。
インターハイの優勝記録は7m56。今回、そういった状況でも7m62と9年前を上回ったのは、杉林が大きく成長していることを証明している。
杉林は筑波大入学後、本格的に三段跳選手として成長してきたわけだが、高校時代から走幅跳の“8m”にも憧れを抱いてきた(「三段跳になんとなく向いている」とは高校時代から感じていたというが)。
日本人初の「8m&17mジャンパー」になりたい気持ちはあるようだ。それが、“どうしてもなりたい”なのか“チャンスがあれば”くらいなのか、“どうでもいいけど、はずみで出たら面白い”くらいなのかは、確認しなかった。
※注 走幅跳と三段跳の助走速度
陸上競技マガジン1997年10月号に掲載されているアテネ世界選手権のバイオメカニクスデータ(国際陸連発表)から、男子走幅跳と同三段跳の入賞選手各8人の平均助走スピードを求めた。
踏み切り11−6m前 踏み切り6−1m前
走幅跳 10.5275m/S 10.505m/S
三段跳 10.1475m/S 10.2625m/S
踏み切り11−6m前では明らかに走幅跳の方が速いのだが、秒速38cmの差なら杉林の言うように、ほんのちょっとの感覚の違いかもしれないし、その僅かの差は“躍る(踊る?)ような、乗るような助走”と表現できるかもしれない。しかし、実際に杉林の走幅跳と三段跳でどのくらいのスピード差があるのかは、手元に資料がない。
世界選手権入賞レベルの選手の“平均”として言えることは、三段跳は踏切板に近い「踏み切り6−1m前」でスピードが上がっているのに対し、走幅跳はほぼ同じ速度を維持している(若干、落ちている)。もちろんこれは、8人の平均の話。三段跳は8人全員が助走スピードが直前で上がっていて平均通りなのだが、走幅跳は直前で上がっている選手と下がっている選手に分かれる。
記事を読んだ後の杉林選手コメント
※杉林選手WEBサイト掲示板から抜粋
助走最後での平均スピードの違いは、助走そのものというよりは踏切前処理の種目差が影響してそうですね。
踏切6-1m前の平均速度ってことは踏切一歩前まで入っているので、幅の場合はどうしても落ちやすいですよね。ここで必要以上に減速しないのがンマイ人です。
幅と三段ではこういう違いはありますが、いわゆる助走の“流れ”というのは変わらないです。
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