北京世界陸上スペシャル
SEIKOが推進する陸上競技観戦のエンタテイメント性


600m通過タイムの表示
 北京世界陸上で「これはいいな」と感じたシーンがあった。男女の800mにおいて600m通過タイムを、4つのコーナーに設置したトラックサイドクロック(写真1。SEIKO製)に表示していたことだ。日本では400m毎でしか通過タイムを出さない競技会が多いが、海外では1500mの1000m通過を表示するなど、柔軟に運用している(日本でも600mや1000m通過をアナウンスする陸協はある)。
 写真1 
 600m通過タイムが表示されれば、予選や準決勝なら、前の組の通過タイムと比べられる。「この組は通過が2秒速いから、プラス通過選手はこちらから出そうだ」などと、"予測しながら見る楽しみ方"ができるのだ。
 フィニッシュタイムも予測できるが、自分の予測より速ければ、「残り200 mを25秒で走ったのか!」など、選手のラストスパートのすごさを実感できる。
 トラックサイドクロックが北京世界陸上からLED化され、視認性が格段に向上したことで、観客は自身の意識へ数字のインプットを自然に行うようになる。速さのイメージを明確に持ちやすくなるのだ。

SEIKOの観戦サポート
 SEIKOは1985年に国際陸連とパートナーシップを結び、30年間も国際陸連主催大会のオフィシャル計時を担当してきた。北京世界陸上が170大会目にあたるという。
 正確に記録(タイム・距離)を計測し、迅速に場内に表示する。その基本的な姿勢は不変だが、近年はそこに、「観戦の質を高め、陸上競技のエンタテイメント性を満喫してもらう」(吉野周広報)ための機材を開発、提供するようになっている。
 風向風速表示盤と周回表示盤も今回からLED化されたが、20年前から3面表示の製品を開発し、スタンドの多方面からの視認ができるようにした。SEIKOの、ファンからの改善要望に応える姿勢の現れだろう。
写真2 写真3
 また、ファン・関係者から歓迎されたのが、2年前のモスクワ世界陸上から導入されたフィールドイベントボード(写真2)だ。選手名、記録、試技順、その時点の順位などの文字情報を大きく表示することに加え、グラフィック表示もできる(写真3は花火の動画)。
 観客は選手の顔写真や国旗を見ると、「この種目でアジア人は珍しいな」とか「この国旗はどこの国の選手だろう」と、興味を抱けば即時に、実際の競技に目を移すことができる。
 競技映像はスタンドの巨大スクリーンに映し出しているが(今大会は6面を主催者が設置)、今後はフィールドにも何かしらの映像を映し出すことで、新たな陸上競技の楽しみ方を創出できる可能性がある。

砂場種目を格段に見やすくしたビデオ計測システム
 走幅跳と三段跳のビデオ計測システムは2010年に開発され、世界陸上では前々回のテグ大会から用いられるようになっている。スタンドの上方2カ所にビデオカメラを設置し、審判が着地位置をモニター上で判定する。従来のように着地位置にマークの棒を刺し、砂場脇のレンズの位置をスライドさせたりする必要がなく、瞬時の記録測定が可能になった。
 特に参加人数の多い予選などでは、選手の待ち時間が短縮できるし、観客のお目当ての選手を待つ時間も短くなる。
 また観戦者は、砂場の脇のレンズ測定装置がなくなったことで、選手の踏み切りから着地までを、何も遮るものなく見られるようになった。テレビの横からの画像も、格段にすっきりした(写真4)。
 観客やテレビ視聴者の見やすさを改善することで、「この(三段跳)選手は、ステップが他の選手より大きいな」など、競技の特徴をより明確に理解できる。
「国際陸連が推進している"クリーン・ヴェニュー(すっきりした視界)"に合致した計測システムです。競技進行を速くすることで、エンタテイメント性も増すことになります」(吉野広報)
 写真4 

100m毎の通過タイムが表示できれば…
 トラックサイドクロックやフィールドイベントボードが将来的にも活用できる理由として、観客が視線を競技に向けたまま情報を入手できる点が挙げられる。情報を確認するためにスタンドの巨大スクリーンを見て、グラウンドから視線を反らすことがなくなれば、陸上競技でよく起こる"重要シーンの見逃し"が少なくなるはずだ。
 以前から、これが実現できたら観戦が今の数倍面白くなる、と考えていたことがある。それは200mや400m 、4×100mRで、100m毎の通過タイムと順位が、瞬時にわかる観戦システムだ。
 現在はどの選手がリードしているかは、目測で判断するしかない。巨大スクリーンの引き気味の映像を見ていれば精度は増すが、トラックの生の走りを見ているとせいぜい3〜4人の位置関係しか把握できない。シードレーン(中央の4つのレーン)か、自分の注目している選手を中心に見ることになるが、気がついたら外側や内側のレーンがリードしていた、ということは日常茶飯事だ。
 それが100mや200m、300m通過時に順位と記録(あるいはトップとのタイム差)が、競技を見ながら目に入れば、激戦の展開を正確に、予想外の選手の健闘も明確に把握してレースを楽しむことができる。スローのリプレイ映像などで後から確認することもできるが、リアルタイムの展開を同時に把握したときの興奮は何ものにも代えがたい。それこそが競技の別を問わず、生のスポーツ観戦の醍醐味だろう。
 トラックの近くに置かれたフィールドイベントボードにそういった情報が表示されたら、こんな観戦も可能になる。そんな予感を持てた北京世界陸上だった。


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