2015/9/11 日本インカレ・スペシャル
女子1500mは初出場の小山がサプライズV
高校の無名選手がどうやって頂点に駆け上がったのか?


予定通りのロングスパート
 女子1500mの小山香子(順大4年)の優勝には驚かされた。
 予選(2組1位)のロングスパートが鮮やかだったので注目はしていたが、決勝も残り350m付近からスパート。飯野摩耶(東農大4年)も予想していたのかすぐに対応して食い下がったが、両者の差はじわじわと広がり、残り100mでは約5m差。最後の直線では飯野が追い上げ、さらに後方の上田未奈(城西大1年)が一気に追い上げたが、小山が逃げ切った。

1 小山香子(順大) 4:21.33
2 飯野摩耶(東農大) 4:21.58
3 上田未奈(城西大) 4:21.61

「自分でもわからないくらいにビックリしています。(スパートは)先手必勝じゃないですけど、ラスト400 mから出ようと思っていて、その通りのレースができました。小林(美貴・4年)が1000mから一緒に前に出てくれたことにも助けられました。今までで一番のスパートができたと思います。3番に入りたいと思っていましたが、予選を走ったら調子が良くて、行けるかも、と思い始めした。でも、それが本当になっちゃって……実感がわきません」

肩甲骨とハーフマラソン
 驚かされたのはレース展開よりも、その競技歴である。
 3年時までは日本インカレだけでなく、関東インカレにも出場したことがなかった。北海道の札幌国際情報高出身。高校時代は「2分20秒と4分45秒」(小山)が自己記録で、インターハイは4×400mRで出場したが、ラップのベストも「59秒台」で、目立つ実績はまったくなかった。順大には一般入試で入学した。

「1〜2年時はまったく練習についていけませんでしたが、鯉川(なつえ)監督は『自己記録が毎年出るから』と声をかけてくれました。先輩たちが頑張っている“日本一の部活”だったので、先輩たちに追いつきたいと思って3年間、そこを目指してやってきました」

▼小山の1500m年次別ベスト
15/09/11 4.21.33
14/08/09 4.33.85
12/09/14 4.46.89
▼小山の5000m年次別ベスト
15/07/09 16.14.98
14/12/06 16.55.99
13/11/16 17.15.07
12/12/02 18.03.33
陸上競技ランキングから

 小山も懸命に競技に取り組んだ結果、昨年からタイムが伸び始めた。入学時の目標は「関東インカレに出ること」だったが、昨年初めて標準記録を破り、今年5月の同大会で9位。その関東インカレで初めて日本インカレの標準記録を破り、初出場の同大会で一気に頂点に駆け上った。まるで、シンデレラのように。

「何かを変えたわけではなく、自分の中で積み重ねてきた結果が出たのだと思います」
 小山は謙遜気味に話すが、強いて、ということで挙げてもらった変更点が肩甲骨の動きだった。
 小山の腕振りはかなり高い位置で、手のひらを下に向けて振る。ロードのスタミナ型に時折り見られる胴体にくっつけるような振り方ではなく、胸の高さで大きく振る。
「昨年の夏頃から、監督から言われて肩甲骨の動きを改善しました。上半身が動かないと、下半身も動きません」

 もう1つのポイントは、この冬にハーフマラソン2大会に出場していること。「ずっと800 m、1500mを中心にやって来ましたが、持久力とうまく噛み合った気がします」。この点は鯉川監督のコメントも後ほど紹介したい。

順大女子中距離ブロック
 小山が“積み重ね”を強調したのは、特定のトレーニングをしたことよりも順大という環境に身を置いたことが大きい、と考えているからだろう。

 1学年先輩には伊藤美穂がいた。小山と同じように一般入試で入学し、3年時には800 mで2013年日本選手権と日本インカレに優勝した。昨年は1500mで日本インカレを制した。
 現4年生では、全日中優勝の実績を持つ小林がキャプテンとして引っ張り、北根万由佳は昨年の日本選手権800 m6位など入賞の常連だった。
 学生たちに、努力を惜しまない雰囲気ができていた。シンデレラ的な登場の仕方だが、いきなり強くなったわけではなかった。

「本当に成長させてもらうことができました。最後まで楽しめる大学生活になったと思います。私でもここまでやれたのですから、後輩や、中高生に少しでも刺激になればいいですね」

 今後は「駅伝の5、6kmくらいまでは走る準備をしたい」と言うが、卒業後は競技は続けず、ワーキングホリデイなどを使って海外に行くプランを思い描いている。今後、小山が考えを変える可能性もゼロではないが、日本インカレが、個人種目では最後の大舞台となりそうだ。

 学生女子中距離界に突如現れ、一陣の風のように、強烈な印象を残して去って行くのだろうか。


鯉川なつえ監督が語る小山成長の背景
「ハーフマラソン出場が良かったと思います。1月の千葉マリンと3月の立川で、ハーフの選手にしたかったわけではないので、松江の学生ハーフには出しませんでした。入学した頃はひょろひょろで、体を支持するだけで目一杯でした。それを2年かけて、ようやく支持できるようになりました。しかし800 m以上の距離を走り切るには、肩甲骨を使えて、力を抜けないと無理だと思ったんです。ハーフマラソンの練習として10kmやクロスカントリーを4分くらいのペースでやって、力が抜けるようになりました。そこから、記録がどんどん伸びました」
「1年生の頃からインカレ優勝を狙えると、本人には真剣に言っていました。時間をかけて大事に育ててきましたが、予定ではもう1年早く強くなるはずでした。運動性ではなく、先天的な貧血があって、色々なアプローチをして改善できてきたのが3年生の頃からでした」
「これは伊藤もそうでしたが、入学したときから本人のやる気がすごくあったんです。小山は3学科併願して、順大で陸上をやりたいと言って入ってきてくれた。入学したら推薦も一般も違いはありません。“こうなりたい”と思って頑張る子には力を貸したいと思っています。小山は気立ての良い子で、3年生までのインカレは接待係をやってくれましたが、練習に関しては自分が納得しないとやらない意思の強さもあります。本人のペースに合わせながら、ウンと言ってくれるまで話し合いました」
「ゴールした瞬間、思わず涙が出てしまいましたが、そんなことは今回が初めてです」


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