2015/1/31 別大マラソン前日
特徴ある日本人3選手。それぞれの注目点は?

B松尾良一
1万m30分ランナーが代表争いに加わるか?

 1万m30分05秒55の選手が、世界陸上選考レースの招待選手として記者会見に出席していた。
 かなりの驚きだったが、会見中の松尾良一(旭化成)からは意思の強さが感じられた。エリート選手ではないが、自分のやっていることに誇りを持っている。そうであるなら、その点を質問してもしっかり答えられるのではないか。
 予想に違わず、松尾の回答は明快だった。
「自分でもすごく不思議です。延岡マラソンで2時間12分を出したあとの1万mでも30分かかっているんです。(1万mは28分前後の選手より)2分も遅いので、マラソンになったら8分遅い計算になりますが、そうなりません。距離が長くなればなるほど、自分の強みが生かせる。(2時間12分は)マラソンなら戦えるタイムです。1万mの記録は気にしていません。相手は30分の選手に抜かれるわけですから、心理的に優位に立てるかもしれない」

 1991年生まれの23歳。学年でいえば大迫傑(日清食品グループ)、宮脇千博(トヨタ自動車)、設楽悠太(Honda)、設楽啓太(コニカミノルタ)、窪田忍(トヨタ自動車)らと同じゴールデンエイジだ。
 高校(大村城南高・長崎)ではインターハイは北九州大会止まりだが、5000mのベストは「14分35秒」(松尾)だったという。そこまで弱かった、というわけではない。その頃から、「練習でも長い距離のメニューが得意だった」と、トラックよりもロードに自身の適性を見いだしていた。
「将来は絶対にマラソンをやろうと考えていました。同級生たちよりも早く、マラソンを走りたかったんです」
 高卒で旭化成に進んだのは、それを実現する最適のチームと映ったからだろう。ニューイヤー駅伝出場はないが、マラソンはすでに7本走っている。

松尾良一のマラソン全成績
回数 月日 大会 成績 日本人 記 録
1 2012 4.15 長野 6   2.18.15.
2 2012 11.23 大田原 1 1 2.16.55.
3 2013 2.10 延岡 17   2.19.48
4 2013 4.07 パリ 21   2.16.28.
5 2014 2.09 延岡 2 2 2.12.11.
6 2014 4.20 長野 4 2 2.15.50.
7 2014 8.31 北海道 2 2 2.16.32.

 表のように入社3年目からマラソンに出場し始め、12年と13年は年に2本のペース。昨年は3大会に出場してすべて日本人2位。成績を調べた時点では、3大会連続2位は“負け続けた”と解釈していたが、取材をしていて2位に“食い込み続けた”のではないかと、こちらの考えを改めた。
 だが、国際大会選考レースは今回が初めてとなる。設定タイムは風の状況で変わってくるが、ペースメーカーが5km毎を15分10秒で30kmまで引っ張る。松尾にとっては初めて経験するスピードだ。
「(自己記録の)延岡は5kmの入りが15分30秒でしたが、今回は1km毎が3分2〜3秒と思って練習してきましたから、ビックリすることはありません。(ペースメーカーは)30kmまでですか!? それなら、30kmまでつけば僕にもチャンスが出てきます。チャンスが来たら、絶対に逃さないようにしたい」
 松尾の声は弾んでいた。

 トラックの1万mは30分でも、「練習の20km走で10kmを29分40秒で通過したこともあります」と話す。トラックになると苦手意識が出て上手く走れなくても、ロードではリズム良く走れるタイプなのだろう。
「マラソン練習を年中やっていますが、ロードの練習なら(1万mのタイムが上の)周りの選手に劣りません」
 “周り”にいるのは2時間9分台の佐々木悟や足立知弥、テグ世界陸上入賞の堀端宏行、前回の別大3位(日本人2位)の白石賢一らだ。
 北京世界陸上やリオ五輪に向けての豊富を問われると、迷う素振りはなかった。
「先頭集団でレースの流れに乗って、日本人1位争いに加わりたい。日本人に負けないように走れば、自ずと世界陸上、オリンピックにつながります」
 29分台前半の力はあると思われる。だが、1万mの正式記録が30分台の選手が代表になったら、やっぱり大ニュースだろう。


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