2014/5/14
春季国内シリーズで活躍した選手たち
File2 市川華菜(ミズノ)
福島の代役で世界リレー出場を決める快走
華麗というより力強い復活


3週間で8本、獅子奮迅の走り
 停滞が指摘される女子短距離では、昨年故障で低迷した市川華菜(ミズノ)の復活が明るいニュースだった。春季国内シリーズの成績は以下の通り。

日本選抜和歌山4×100mR:2位・44秒96 ※日本Bチーム4走
   〃      4×400mR:2位・3分38秒63 ※日本Bチーム2走(非公式ラップ52秒76)
織田記念100 m:6位・11秒86(+1.5)
   〃 予選1組:4位・11秒70(+3.5)
静岡国際400m:3位・54秒39=3組1位
   〃  200m予選1組:3位・23秒74(−0.3)
ゴールデングランプリ4×100mR:1位・43秒74 ※日本チーム4走
      〃      4×400mR:1位・3分34秒31 ※日本チーム3走(非公式ラップ53秒82)

昨季の故障でナショナルリレーチームから外れる
 昨年は2月にヒザを痛め、その影響か腰にも痛みが出てしまった。
「左半分が痛くて、ジョッグもつらい時期がありました」
 腰椎分離症という診断が下された。
 昨シーズン後にナショナルリレーチームが発足したが、ロンドン五輪代表だった市川の名前はなかった。
「結果を出していませんでしたから、仕方ありません。でも、(合宿などに)参加したかったら来ていいと言ってもらっていたので、3月の鹿児島合宿までに走れるようにして、(自費で)参加させてもらいました。そこでみんなと練習ができ、私も復帰しなきゃいけないと気持ちを強くしました」
 そこまでは、リハビリの毎日だった。
「先生に大学まで来ていただいたりして、本当に感謝しています」

リレーはBチームからAチームに
 しかし今季の市川は、和歌山のリレーは日本Bチームで出場するなど、文字通り一からのスタートだった。和歌山でもゴールデングランプリでも、2本のリレーを走るハードスケジュール。愚痴の1つも出るところだが、市川は前向きな姿勢で取り組んだ。
 特にゴールデングランプリは当初は4×400 mRだけの予定だったが、福島千里(北海道ハイテクAC)の故障欠場により、レース前日の夜に急きょ4×100 mRにも出場することになった。4×400mRの1時間30分後に4×100 mRというタイムテーブルである。
 しかし、2種目を走ったことの影響は? と問われると「ないですね」と言い切った。
「選んでもらえてうれしかった。期待に応えたいと思いました」
 故障で苦しんだ日々があったことも、市川の考え方に影響があっただろうか。

「福島さんが『頑張ってね』と握手してくれましたが、伝わってくるものがありました」
 ゴールデングランプリは女子短距離陣にとって、世界リレー選手権(5月24〜25日:バハマ・ナッソー開催)の標準記録を破る最後のチャンスだった。4×400mRは3分33秒00に届かなかったが、4×100 mRは43秒80を破ってバハマ行きの切符をゲットした。43秒74は日本記録(43秒39)とは少し開きがあるが、福島千里抜きのチームで出した最高記録である。
「これまではどこかで福島さんに頼っていた部分がありましたが、今回は福島さんがいなくてもしっかり記録を出したかった。昨晩のご飯の時に福島さんが『頑張ってね』と握手してくれましたが、伝わってくるものがありました」
 4×400mRで標準記録破りに失敗しても、市川のモチベーションが落ちることはなかった。
「マイルの後も身体は動いていましたし、自信を持って4×100 mRに臨みました。プレッシャーはすごくありましたが、(4×400mRも含め)長年経験されている先輩方が緊張をほぐしてくれました。オリンピックを走ったメンバー、日本記録を出したメンバーとも一緒です。みんなでハイタッチをしてトラックに向かいました。そして福島さんを絶対に世界リレーに連れて行くんだと思って走ったんです
 フィニッシュ後にメンバー4人で喜び合う市川の瞳には涙が光っていた。
※レース翌日に発表された世界リレー選手権の代表は市川、渡辺真弓(東邦銀行)、北風沙織(北海道ハイテクAC)、土井杏南(大東大)、藤森安奈(青学大)で、故障のある福島は外れた

「腰回りの筋肉を使えるようになった」と青戸コーチ
 市川の自己記録は100 mが11秒43(+2.0・2011年織田記念)、200 mが23秒51(+0.4・2012年日本選手権)、400mが54秒15(2010年千葉国体)。100 mはまだ少しタイム差があるが、200 mと400mは条件に恵まれれば更新できただろう。特に静岡国際は風の吹き方で、組によって記録への影響が違ってくる。
 青戸慎司コーチ(中京大監督)は、「腰回りの筋肉を使えるようになった」と、教え子の成長を分析した。ミズノのスタッフによれば、以前より硬いソールのスパイクが履きこなせるようになったという。
 日本選手権の出場種目は「200 mと400m…かな」と本人は話したが、ミズノのスタッフからは「3種目ですよ」と、冗談とも本気とも判じかねるコメントも出ている。
 はっきりしているのは今季の市川が、身体的にも精神的にも充実しているということ。
「リレーメンバーは団結力もあります。この勢いで日本の力をアピールしたい。個人でも全種目、自己新を出したい」
 市川の復活が、女子短距離全体を活性化する。


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