2014/3/7 名古屋ウィメンズマラソン2日前
“初マラソンの名古屋”で田中、水口らがデビュー
初マラソン選手の走りを楽しむ観戦法とは?


 初マラソン歴代1〜3位記録こそ大阪で出ているが、初マラソンで2時間30分を切った選手数は、筆者の調べた範囲では名古屋の23人が最も多い(大阪は20人。東京は3人)。
 そして初マラソン優勝となると名古屋が圧倒的に多い。下の表からもわかるように、96年の真木和、02年の野口みずき、05年の原裕美子、08年の中村友梨香、そして09年の藤永佳子。
 真木と中村は五輪代表を、原と藤永は世界陸上代表を射止めた。野口だけが代表獲りは翌年の大阪に持ち越したが、その後の大活躍は周知の通りだ。

 どうして名古屋で初マラソン選手が活躍するのか? コースの特性というよりも、実業団駅伝との兼ね合いで、経験のない選手が最も参加しやすい大会が名古屋ということだろう。

名古屋で2時間30分を切った初マラソン選手
所属に色が付けてあるのは、今回初マラソン選手がいるチーム
記録 選手名 所属 年月日 着順 年齢
2.24.19. 原 裕美子 京セラ 2005/3/13 1 23
2.25.35. 野口みずき グローバリー 2002/3/10 1 23
2.25.51. 中村友梨香 天満屋 2008/3/9 1 21
2.26.02. 小川清美 京セラ 2005/3/13 5 23
2.26.19. 尾崎好美 第一生命 2008/3/9 2 26
2.27.22. 山崎智恵子 天満屋 2005/3/13 6 27
2.27.32. 真木 和 ワコール 1996/3/10 1 27
2.27.44. 永山育美 デンソー 2001/3/11 8 26
2.27.55. 麓 みどり デオデオ 2000/3/12 4 28
2.27.58. 大山美樹 三井住友海上 2004/3/14 4 24
2.28.09. 坂下奈穂美 三井海上 2001/3/11 9 25
2.28.10. 田中めぐみ あさひ銀行 2002/3/10 3 26
2.28.13. 藤永佳子 資生堂 2009/3/8 1 27
2.28.14. 萩原梨咲 第一生命 2003/3/9 2 20
2.29.13. 伊藤 舞 大塚製薬 2010/3/14 4 25
2.29.20. 渡邊裕子 エディオン 2012/3/11 13 24
2.29.23. 平田裕美 資生堂 2008/3/9 7 26
2.29.24. 大平美樹 三井住友海上 2007/3/11 4 25
2.29.37. 飛瀬貴子 京セラ 1997/3/9 3 22
2.29.41. 小松ゆかり 天満屋 1995/3/12 2 21
2.29.48. 町田祐子 日本ケミコン 2006/3/12 5 25
2.29.50. 市橋有里 住友VISA・AC 1997/3/9 4 19
2.29.56. 藤田真弓 十八銀行 2009/3/8 4 25
※さすがに100%正確なデータとは言い切れません。漏れなどがあればお知らせください
2.31.04. 大江光子 日本生命 1992/3/1 1 22

 今大会も田中智美(第一生命)、松見早希子(同)、箱山侑香(ワコール)、水口侑子(デンソー)と、招待選手の中でも4人が初マラソン。最もアジア大会代表に近いのは、全日本実業団ハーフマラソンで12年、14年と2度優勝し、世界ハーフマラソンでも入賞している田中だろう。
 主催新聞には「2時間25分。アジア大会も狙いたい」と目標が掲載されているが、練習段階でそれをモチベーションに頑張っていた、ということのようだ。東海テレビのインタビューには「楽しみもありますが不安も出てきている。“知らない”ということの強さもあると思うので、怖がらずに行ける」と話している。
 そして直前となった2日前の会見では、「アジア大会には出られたら嬉しいのですが、深くは考えていません」と、語っている。どれも、その時々の田中の、偽らざる心境だろう。それが初マラソン選手である。

 水口も期待が大きい1人。学生時代に日本学生ハーフマラソンで優勝するなど、長い距離への適性を早くから見せていた。昨年の熊日30kmにも優勝している。
 だが、年末から1カ月半、思うように走れない期間があったという。
「最初から先頭について行く力はないので、(後方で走って)最後までペースを落とさない走りをします。2時間27分台を目指して頑張ります。アジア大会に出たい気持ちはありますが、初めてなので最後まで走りきることを一番に考えます」
 いきなりの優勝、日本人1位争いは考えていないようだ。

 見る側としても、初マラソンで結果を出すことだけに期待して見るのではなく、その選手の経歴や走りの特徴を踏まえた上で、その選手がどんな走りをするのかに注目すべきだろう。そしてその選手が、2回目以降のマラソンでどう成長していくのかを長い目で見続ける。
 期待してダメだったからもう見ない、ではなく、その選手の軌跡を見続ける方がよっぽど面白い。

 とはいえ、“初マラソンの名古屋”である。
 田中は2月の全日本実業団ハーフマラソンに1時間09分24秒で優勝。ハーフマラソンで“勝てる選手”であるし、ニューヨークやフィラデルフィアなど、代表以外の外国遠征でも安定して走る地力の高さがある。
 水口は2月の全日本実業団ハーフマラソンで1時間14分11秒だったが、5km毎のタイムを見れば、マラソンを意識したペース走をしていたことがわかる(三重大時代の恩師である杉田正明教授のご指摘)。その2倍のタイムでマラソンを走りきる可能性は十分ある。デンソーの若松誠監督によれば「試合で100%の力が出せる選手。本番での対応力が高い」(中日新聞3月3日記事)。

 初マラソン選手が上位を走ったときに、“楽しむことができる知識”を持って観戦する必要はある。


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