2014/10/18 箱根駅伝予選会
村山紘太が日本人過去最高タイムの58分26秒
スピードと勝負強さで“20km”も手の内に
「そこは狙いたい、狙えるだろうなって考えていました」

 5km通過は14分31秒と速いペースだったにもかかわらず、村山紘太(城西大4年)は早めの仕掛けに出た。5kmから留学生の前に出てると、5.5km付近では前回優勝者のE.オムワンバ(山梨学大3年)に「来いよ」と手で合図。オムワンバが誘いに乗って来られないと見ると、6km付近からリードを奪い始めた。10km通過は28分45秒、5kmからを14分14秒までペースアップした。
「エノックの調子が悪かったのかもしれませんが、自分の走りをしようと思って行きました」
 独走態勢に入った村山は15kmまでのスプリットを14分41秒(通過タイム43分26秒)と持ちこたえ、20kmまでは15分00秒とペースダウンしたが、木原真佐人(中央学大)が2007年に出した58分40秒の予選会日本人最高記録を14秒上回った。

「アジア大会(5000mで5位。13分34秒57の自己新)もそうですし、今の自分の力を見たら出て当然かな、というのもありました。監督からは59分20秒でいいから確実に走ろうと言われましたが、僕のなかで記録を残しておきたい気持ちがあって、そこは狙いたい、狙えるだろうなって考えていました」

 記録を出すのと同時に、オムワンバを破ったことが評価された。前回予選会1位(57分57秒)のオムワンバは、トラック3種目の記録も村山を上回る。直接対決でも一度も勝っていない相手だった。
 それを可能にしたのは村山のスピードと勝負強さだろう。
 1500mでも9月の日本インカレで3分39秒56の学生日本人歴代2位を、「アジア大会への調整」の過程で出して見せた。勝負という点でも関東インカレ1部1万m優勝、日本選手権2位(アジア大会代表に)と、走るべきところできっちりと結果を出した。

 昨年の予選会はオムワンバら留学生に敗れて4位(59分17秒。日本人トップ)だったが、この1年の成長はどこに感じているか、という質問に次のように答えた。
「関東インカレから勝ち方を学んできました。それでここに来て、こういう結果を出せているのでしょう。自分のレースをできるように持って来られています。(スパートのタイミングがわかるようになったのか?)そうですね。あとは相手の様子をしっかり見られるようになりました」

 アジア大会(9月27日)から予選会までは3週間のインターバルだった。
「1週間は落として20kmか25kmの距離走を1回入れました。(正確な距離は?)確か20km…です。(1回で?)十分です」
 夏も30km走は1回だけだったという。
「スタミナの心配はちょっとありましたが、その分、スピードを研いてきました。スタミナの部分をスピードで補えたかな。今年に入って、そのやり方でいいと思いました」
 双子の村山兄弟は俗に言う“能力の高い”選手で、スタミナ寄りの練習が少なくても距離を走りきれるタイプなのだろう。そういう選手がスピードを研き、勝負のコツをつかんだ結果、“20kmの距離”を完全に手の内にした。

 20kmをスピードで押し切った形だが、この夏は、村山の中では過去3年間と比べてスタミナ寄りの練習をした。陸上競技マガジン増刊号の記事で次のように語っている。
「間違いなくこの4年間で、最もいい練習のできた夏合宿だったと思います。距離走も例年にないくらい走れましたし、櫛部(静二)監督の作ったメニューを完ぺきにこなせたのは自信になりましたね」
「自分は入学以来、スピードにこだわりを持っていて、あまり長い距離の練習を入れていませんでしたが、今年はキャプテンとしてチームのことを考え、そうした練習にも積極的に取り組むようにしたんです」

 スピード+勝負強さに、村山としては距離も踏んだということだろう。
 さらには“自信”“キャプテン”などの言葉が現在の村山を彩るキーワードとなっている。
「(兄の)謙太からも今のオマエならエノックに勝てるんじゃないか、と言われていました」
「前回の本戦は自分の走りができませんでしたから(2区区間18位)、予選会はしっかりと抑えていきたいと思っていました」
「(自信は?)この半年で全然違ってきています。考え方や意識の持ち方も」

 1500mで3分39秒56を出した日本インカレの取材時には、「5000mで13分20秒、15秒、10秒と切っていきたい」と来季以降のビジョンを話していた村山。次の目標である箱根駅伝よりもグレードが高いアジア大会で、すでに5000mの大目標に向けての一歩を踏み出している。
 だが、城西大という(スピードを優先できる)環境で4年間を過ごすことができたのは、箱根駅伝があったからでもある。アップダウンや風などロードへの対応が課題となるのだろうが、学生生活最後の箱根駅伝でしっかりと結果を出し、気持ちよく世界へ挑戦して行ってほしい。


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