2013/9/21 全日本実業団2日目
モスクワ世界陸上失敗も試験的なシーズン
地元リオ五輪を目指す杉町マハウ
「東京のことはリオが終わってから聞いてくれ」

 日本ウェルネス所属で活躍するブラジル人選手、杉町マハウが男子400 mHに49秒87で優勝。岸本鷹幸(富士通)を0.08秒差で抑えた。
 杉町は9台目で「もらったな」と思ったという。
「岸本君はハードルが上手いし前半が速いので、1、2台目は置いて行かれるのを覚悟していました。6台目で追いつきかけたのですが、向こうもゆとりがあって上げてきました」
 5台目までは12歩、後半もハードル間を13歩で走りきるストライドが武器の杉町は、ホームストレートで抜き去った。

 しかし、モスクワ世界陸上では終盤の強さが影を潜め、予選こそ運良く通過したが(5組6位=50秒00)、準決勝は3組6位(50秒27)で敗退した(同じ組で岸本は失格)。
 敗因は2つあった。
 1つは1レーンに対応できなかったこと。12歩の大きなストライドでは曲線を上手く走ることができない。「準決勝ではインかアウトになる。前半を13歩で行くことも考えている」。全日本実業団でも予選では前半の13歩を試していた。
 もう1つは6〜7月の転戦で、俗に言うところのタメがなくなってしまったこと。杉町の世界陸上までの試合は下記の通りである。

5月3日静岡国際陸上競技大会(エコパスタジアム)
5月5日セイコーゴールデングランプリ陸上2013東京(国立競技場)
6月8日,9日ブラジル選手権(サンパウロ)
6月30日ダイヤモンドリーグ バーミンガム大会(イギリス)
7月5日-7日南米選手権(コロンビア)
7月13日ワールドチャレンジ マドリード大会(スペイン)
7月17日ルツェルンGP(スイス)
8月12日-15日世界選手権(モスクワ)
※本人ホームページから


 今季は静岡国際で48秒79と好タイムを出したことでダイヤモンドリーグやワールドチャレンジミーティングなど、大きな試合に出る道が開けた。だが、試合の間に練習する拠点を見つけることができなかった。
「試合と調整の繰り返しで練習ができず、不安を持ったまま世界陸上に臨んでしまいました。こちらの方が大きな失敗でした」
 杉町の場合ブラジル選手権と南米選手権にも出ているので、日本→南米→ヨーロッパ→南米→ヨーロッパ→日本→ロシアという、超ハードスケジュールになった。杉町にしても初体験で、3年後のリオ五輪を考えると学ぶところの多いシーズンだっただろう。

 小学校2年時に来日した杉町はインターハイは走高跳で5位となったジャンパー(2002年)。日本ウェルネスに進んで400 mHに転向し、2008年北京五輪では準決勝に進出した。翌2009年には48秒67の自己新をマーク(国体)。
 だが、昨年のロンドン五輪は代表から漏れた。A標準を破りブラジル選手権にも優勝したものの、ブラジル陸連が定めた派遣設定記録に0.06秒届かず涙を飲んだ。
 直後は「悔しさ?虚しさ?パニック?」(本人ホームページ)という感情から進む道に迷ったが、自身を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちに気がついた。
「リオデジャネイロ・オリンピックまでは現役を続けます!」(同)
 強い気持ちで再スタートを切ったのが今季で、静岡国際で自己記録に0.12秒と迫った。

 2020年の東京五輪開催が決まり母国と、18年間暮らしている日本で、2つの五輪に連続して出場する可能性が出てきた。実現したら快挙である。ただ、2020年の杉町は36歳のシーズンだ。
「何十人という人からそのことは言われましたが(笑)、それはリオが終わってから聞いてくれ、と言っています。東京と考えてしまうと、リオが中途半端になる気がするんです。ロンドン五輪でサンチェスが35歳(のシーズン)で金メダルを取りましたから可能性がないわけではないし、気持ちとしては現役でいたいですけど…。リオが終わってから自分に聞きたいですね」
 注目の決断は、3年後である。


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