2013/3/16 全日本実業団ハーフマラソン前日
名門エスビー食品のラストレースを締めるのは上野裕一郎!
初ハーフが上野自身の転換点となる可能性も


 今月末で幕を閉じるエスビー食品陸上部最後のレースが、明日の全日本実業団ハーフマラソンとなる。上野裕一郎と長谷川裕介がエントリーしていたが、長谷川は欠場。上野が1人でエスビー食品最後のユニフォームで走る。大任だが、開会式に姿を現した上野は「瀬古(利彦)さんがスタートさせたエスビーを、僕が締める」と、いつもの明るい口調で話した。

 レースプランは明確だ。
「5kmまでは上りですし、そこで力んだら終わってしまいます。5kmまでは自重して、上りが終わったら自分で行きます。5kmから15kmまでの10kmは28分30秒で押せる」
 国近友昭コーチも上野の好調さを認めている。
「冬期に入る前に予定していた通りの練習をやって来られました。元々、ポテンシャルは抜群に高い。昨日、1000m2本で最終刺激を行いましたが、かなり良い状態です。動きはゆっくりに見えてもスピードが出ていました。いつも練習を見ているスタッフの目からも、良い試合前の動きができていた。それと本人の感覚です」
 外国人選手も多く出場するので独走とはならないが、エスビー食品のカナディアンレッドのユニフォームがテレビ画面狭しと躍動するか。

 だが、種目はハーフマラソンである。上野が2009年世界陸上に出場した5000mでも、日本選手権で勝ったことのある1500mでもない(付け加えるなら、佐久長聖高時代に高校最高をマークした1万mでもない)。
 しかも初ハーフ。20km以上は箱根駅伝で4回走っているが、「ベストコンディションで走ったことはない」(上野)と言う。
 不安はつきまとうが、「もう長い距離から逃げない」と上野は覚悟を決めている。「これが終わったら1万mとマラソン」に軸脚を移す。
「1回ハーフを経験したら、結果が63分でも64分でも、マラソンを考えていきます。来年は30km(のレース)とか、25kmまでのペースメーカーをして、29歳の終わりくらいに初マラソンを考えています」
 国近コーチは「昨年の日本選手権がダメでオリンピックに行くことができず、彼の中で“苦手な部分にも目を向けないといけない”と感じ始めた。年齢的にも、学生のようにスピードだけではできなくなっています。アプローチを変えるときになった」と背景を説明する。

 練習もしっかりとこなしてきたし、長い距離に向き合う覚悟も固まった。だが、上野本人のコメントからも、15kmまでは持たせることができる感触を得ているが、それ以降は未知数ということがわかる。
「(15km以降は)ここまでやってきた練習でどこまで走れるか。15分かかっても、16分かかっても粘ります」
 国近コーチも上野の潜在能力を認めながらも、明日の結果を保証しているわけではない。
「冬期トレーニングの一環という位置づけです。世界陸上は5000mも考えていますが、5000mと言ってしまうと1500mでつくってしまいます。1万mをやりながら5000mも、という考えはあります」

 上野自身のキャリアという点で見ても、明日の初ハーフが転換点となる可能性がある。
 だが、世間的に見たらエスビー食品最後という点が一番注目を集めるのは確か。
「一番に良い位置でフィニッシュしたら、みんな喜んでくれますよね」(上野)
 瀬古利彦局長が満面の笑みで、上野に握手を求めるシーンが見られるだろうか。


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