2012/6/12 モスクワ世界陸上代表選考要項発表
トラック&フィールド編
新設の“派遣設定記録”突破者が日本選手権入賞で代表入り
来年の世界陸上の選考規定が発表された(代表選手選考要項)。トラック&フィールドでは国際陸連設定の標準記録ABの他に、日本陸連が“派遣設定記録”を新に設け、突破者は日本選手権の上位でなくても、入賞すれば「代表にする」という規定になった。
A標準突破者が日本選手権に優勝すれば、これまでと同様にその場で決定。AB標準記録突破選手が代表になるケースは、日本選手権の「3位以内」と各選考会の「日本人1位」と、表現が明確になった(従来は「上位」など)。
リレーの選考が「リレーの特性を考慮する」のは従来通り。
アジア選手権優勝者の扱いは、昨年のテグ世界陸上のときと同様である。
なお、「トラック種目の男女混合レースによる記録は標準記録の対象としない」ことになった。
“派遣設定記録”は具体的には、国際陸連が標準記録を発表する11月以降に決められる。「フィールドは本大会で決勝に行ける12位くらい。トラックでは短距離でいえば3組ある準決勝の4番くらい、全体でやはり12位くらい。トラックはA標準以上のレベル、フィールドはA標準前後になりそう」と陸連・尾縣貢専務理事。
この規定だと、先の日本選手権男子棒高跳の澤野大地(富士通)のようなケースが優先されて代表になるが、オリンピックと違い標準記録ABの組み合わせで出られる世界陸上なので可能な措置となる。次のオリンピックで“Bの日本選手権優勝者よりも、派遣設定記録の入賞者を優先する”ことになるかどうかは現時点では未定である。
澤野のことを踏まえての変更だったのか、という質問に対して尾縣専務理事は次のように話した
「少し以前から話が出ていたことで、澤野選手のことを踏まえての変更ではありません。4月、5月で素晴らしい記録、例えば100mで10秒00くらいの記録を出した選手が、若干調子を崩して日本選手権に向けて厳しくなったようなケースを想定しています。日本選手権に向けて、無理をして優勝を取りに行ってケガをするケースもあります。入賞で良いなら無理をしなくて日本選手権に出て、世界陸上に間に合わせることができる」
山縣亮太(慶大)が織田記念で10秒08を出した後にケガをしたケースをイメージしているのか、という質問には「色々な例がある」と話すにとどめた。
ケガを想定しているなら、日本選手権欠場でも選考対象としてもいいのでは? という質問も出たが、「ある程度の底力があれば入賞できる。日本選手権入賞がないと認められない」という見解だった。
これは日本選手権を盛り上げないといけない、という配慮もあるのだろう。“派遣設定記録”突破者が何人も欠場した場合、日本選手権の集客、ひいては陸上界全体の勢いに影響してしまう。
とはいえ、日本選手権優勝者を絶対的に位置づけたロンドン五輪とは、若干の違いが生じたのは確か。
「ロンドン五輪の選考のポリシーは以前から決めていたことで、そのポリシーで五輪の選考に臨みました。モスクワから新しい選手もどんどん出てくると思われるので、新しい力を吸い上げるのも狙い。海外マラソンを選考会に指定したのも同じ理由ですし、オリンピックの入賞者を世界陸上に内定しないのもその現れ。モスクワから仕切り直します」
2005年のヘルシンキ世界選手権の際には、B標準の日本選手権優勝者よりもA標準の上位入賞者を優先して選考する規定だった(ただし、適用ミスがあって選手に無用のストレスをかけた)。今回の基準変更は、選考に対する考え方も変化することの表れだろう。前述のようにオリンピックと世界陸上という違いもある。
かなり以前から「日本独自の基準(S標準記録や世界大会入賞など)を設けて、それをクリアした選手は国内選考会にこだわらずに代表入りさせるべき」という主張は繰り返されてきた(筆者も主張してきた)。室伏広治(ミズノ)や、今季でいえばディーン元気(早大)と村上幸史(スズキ浜松AC)、岸本鷹幸(法大)らのように明らかに突出している選手が、日本選手権1試合の不調で代表から漏れるのを防ぐためである。
選手層の厚い種目と、有力選手が限られている種目の選考は違ってしかるべきで、その考え方が今回の選考基準に少し取り入れられた。
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