2013/10/19 日本ジュニア・ユース2日目
男子100m特別レポート
桐生に負け続けた3年生と、桐生に勝った2年生
@桐生不在のジュニアは小池、ユースは安倍が初V
桐生祥秀(洛南高3年)が欠場したジュニア男子100 mは、インターハイ2位(10秒38・+0.1)の小池祐貴(立命館慶祥高3年)が10秒43(+0.1)で優勝。中盤からの強さが目を引いた。
「インターハイは得意なところで(桐生に)離されて硬くなってしまいました。走り自体は今日の方が良かったと思います」
準決勝まで好調だった大瀬戸一馬(法大)は決勝も前半をリードしたが、50〜60mあたりで両脚が痙攣した影響で7位(10秒92)に終わった。
ユース100 mは国体少年A100mで桐生、小池に続いて3位だった安倍謙司(香川西高2年)が10秒68(+0.3)で制した。「端の8レーンでしたし、気楽に走ろう」と臨み、得意の後半で追い上げて6人が0.04秒差の中でフィニッシュした接戦を制した。
小池は“桐生の次”が定位置になっていた選手である。一昨年の国体少年B、昨年の日本ユース選手権、今年のインターハイ、そして今月の国体少年Aと2位。桐生と同学年だったゆえに負け続けてしまった選手である。
一方の安倍は東京国体予選4組で10秒77(−0.8)で1位。10秒83の桐生に勝っている選手である。予選や準決勝の対決は勝敗にカウントしないのが慣例で、勝ったというよりも“予選で先着した”と表記するのが正確だろう。桐生は明らかに全力を出していなかった。
だが、桐生に負け続けた小池と、予選でも桐生に勝った安倍が同じ日のレースで優勝したのは、偶然とはいえ不思議な巡り合わせだった。
A桐生とレースをする高校生選手の心境
「言いたくはありませんが、確実に負けるとわかってレースに臨まなければいけないんです」
10秒01という別次元の記録を持つ桐生と対戦する心境を小池が語った。
「練習中でも彼がちらつきますし、毎回、どうモチベーションを保ったらいいか、難しい面もありました」
だが、“同じ学年に桐生がいなければ”と、現実から目を背けるような気持ちに「本気でなったことはない」という。
「1年の国体では0.05秒差だったのに、2年、3年とここまで離されてしまいました。でも、それは彼にあって自分になかったものがあったからです。彼が突き抜けたから開き直ってレースができました。自分は今年、シーズン前の目標は10秒4台でしたが、彼がすごい記録を出したから10秒4では足りないと思って頑張れた。(桐生がいて)残念というより、ありがたい存在です」
10秒01の記録を持つ選手に挑まなければいけない高校生は、昨年までは存在しなかった。保つのが難しいモチベーションを、どう維持したのか。
「勝ち負けにはこだわりますが“2位で負けた”という意識でいると、レースに負けに行くと思って臨むことになります。自分の中で“次はこのレベルまで行けばOK”という基準を作って臨むようにしました」
だが、小池も勝負の世界に生きる人間の気骨は持っている。競技生活の最後まで、負け続けるつもりでいるわけではない。
「最終的には彼に勝たないと、世界で戦える選手になれません。今後、彼がさらに先に行ってしまうのかもしれませんが、自分がピークを持って行く年齢になったときには、勝負ができるようにしたい。それを今から考えてやっています」
B桐生を追った2レースに大きな変化
安倍謙司は8月のインターハイの準決勝が、今回の勝利の伏線になったという。準決勝1組で桐生が10秒32(+0.8)で1位通過。安倍は10秒81で最下位(8位)だった。
「桐生さんと同じ組になって飲まれてしまい、ガチガチの走りしかできませんでした。それがきっかけでメンタル面の重要さに気づいたんです」
国体は比較的早い段階で予選のスタートリストが発表され、桐生と同じ4組で走ることがわかった。
「最初は“またこの人と一緒か”と思いましたが、差が大きいのはわかっていましたから、自分の走りをすることに徹しました」
桐生がモスクワ世界陸上以来の実戦ということもあり、本来の走りができなかった。それに対して安倍は、特徴である後半の伸びやかな走りを見せた。予選4組の安倍は10秒77(−0.8)で1位、10秒83の桐生に先着したのである。
準決勝は1組で小池祐貴に続いて2位(10秒60・−0.1)で通過。決勝では10秒58(+0.1)の自己新で桐生、小池に続いて3位に食い込んだ。安倍がつかんだことは動きのヒントではなく、メンタル面をどうコントロールしたら走れるか、という部分だった。
「桐生さんとの差はまだ大きいと痛感しましたが、自己新も出せましたし、“この感じでいいんだな”と自信になった。勢いがついて今日(の優勝)につながったと思います」
予選や準決勝で強い選手が力をセーブするのはよく見られるシーン。そこで先着することに大きな意味はない。だが、先着した相手が桐生となるとインパクトは大きい。
「自分の中でプラスになったことはありませんが、周りが勝手に“桐生さんに勝った”と盛り上がったので、素直に喜んでいました」
国体の翌週が四国新人で、多くの知り合いが話題にしてくれた。
四国新人は100 m、200m、4×100 mR、4×400mRの4冠を達成。国体前から試合出場は続いていたため、今大会はコンディション的に万全でないと感じていたのだろう。「予選、準決勝、決勝と3本走れれば満足かな」と思っていた。
予選は10秒84(−0.4)で5組1位、準決勝は10秒66(+2.0)で1組2位。
「タイムもいまいち上がりませんでしたし、決勝は端っこの8レーンです。楽しく走れたらいいかな、と思っていました」
その状態ながら後半の混戦で持ち味を発揮して優勝した。安倍自身は「全国優勝した実感はない」と話すが、ベースとなる力が上がっていることを物語っている。
桐生に先着したこと自体は特に自信にはなっていないが、インターハイ後の自身の変化には手応えがある。
「来年の目標ははっきりと決めていませんが、インターハイで1番上を目指せたらいいですね。インターハイまでに10秒台前半を安定させて、少しでも桐生さんに追いつきたい」
日本ジュニアなどで走る機会があれば、国体からさらに進化した走りを桐生にも見せるつもりだ。
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