2013/9/8 日本インカレ
全カレちょっと感動した話題特集
C4年連続敗退の前田浩唯、そのモチベーションの高さ
4年続けて勝った者がいれば、4年続けて負けた者がいる。
最終日の女子1万mWでは勝ち続けたのが岡田久美子(立大4年)であり、負け続けたのが前田浩唯(立命大4年)である。前田の全カレの成績は1年時が3位、2年で2位、3年でも2位。そして最終学年も岡田が47分08秒70で優勝し、前田は47分29秒79で2位。8200mでスパートした岡田について行くことができなかった。
大学4年間で前田に、岡田に勝った記憶はほとんどない。
「昨年の高畠(20km競歩)で1回だけ勝っていますが、全敗と不戦勝という感じです」
2010年の世界ジュニアでも岡田が銅メダルを取り、客観的に見た2人の印象は岡田が明らかにリードしている。
だが、前田の話を聞いていると、岡田に“大きく差をつけられている”という感覚を持っていない。
「高3のインターハイで負けたときからずっと勝ちたいと思っていますし、ライバルだと思っています。井上(麗・天満屋)と同学年の3人はじゃんけんのような(三竦みの)関係です。3人いたら誰がかつかわからない。みんな負けたくないと思っているんです」
昨年10月の高畠は同学年トリオで上位を占めた。1位・井上麗=1時間35分42秒、2位・前田=1時間36分09秒、3位・岡田=1時間36分10秒。1秒差で岡田に競り勝ったことは、それなりのインパクトがあったのだろう。
客観的に見ていて前田が岡田に負けていない、と感じたのは今年の2〜3月だった。
2月の日本選手権20km競歩では大利久美(富士通※)が1時間30分45秒で優勝し、岡田が1時間32分22秒で2位、前田が1時間33分14秒で3位と続いた。大利はモスクワ世界陸上の有力候補になったが、渕瀬真寿美(大塚製薬)が出場していなかったことと、岡田のタイムが派遣設定記録(1時間29分31秒)に遠かったことから、代表入りがどうなるかはわからなかった。
※今週末の全日本実業団がラスト・レースウォーク
3月の全日本競歩能美大会は渕瀬が1時間30分27秒で優勝し、2位に前田が1時間32分25秒で続き、大利が1時間33分49秒で3位。岡田はケガ(感染症)で欠場した。競歩の世界陸上選考にトラック&フィールドのような日本選手権の優位性はなく、両大会の重要性は同じとされていた。渕瀬の代表入りが濃厚になった。
難しいのが3人目の代表だった。日本選手権で2位の岡田か、能美で2位となった前田か。直接対決の日本選手権では岡田が勝ったが、能美の前田は日本選手権優勝の大利に勝っている。タイム的にも両選考レースの2人は3秒しか違わなかった。
選考の行方が注目されていたが、代表に選ばれたのは大利と渕瀬の2人だけ。3人目は選出されなかった。A標準の1時間36分00秒は2人とも大きく上回っていた。その点を2人はどう思っているのか。
「仕方がない」という表現をしたのは岡田である。「派遣設定記録に近づかないと代表はないと思っていましたし、私自身、1時間32分ではなく1時間30分を目指しして日本選手権は歩きましたから」
「選ばれないのは当たり前」と言ったのは前田である。「1時間30分を切らないと世界では戦えません。1時間32分で喜んでいいケースではありませんでしたから」
これは井上を含めた3人の共通認識のようで、「今年の夏、一緒に合宿したのですが、この3人でレベルを上げていかないといけない、と話し合いました」(前田)という。
同学年3人の違いはどんなところにあるのか。競歩ということで、歩型の違いが気になったので前田に聞いてみた。
「岡田は本当に綺麗なフォームで、競歩の見本のような歩きをします。井上も、岡田とはまた違った綺麗なフォームです。1人だけ実業団選手なので、学生とは違ったプロ意識も感じます。私は失格にはなりませんが、ガツガツ行く歩きで無駄が多いですね。その分、伸びしろも多いと思っているんです」
同学年の3人がそろって強くなったケースは、女子競歩では過去になかったような気がする。
ただ、切磋琢磨しているのは決して悪いことではないが、それだけでは何かが足りていない印象もある。代表の3人目が選ばれなかったことにそれが現れている。昨年第一線を退いた川崎真裕美、大利、渕瀬の3人とは、大きな開きがあるのが現実だ。
それは3人も意識している。
「(夏の合宿で)渕瀬さんを3人で倒したいね、と話し合いました。でも、練習量では勝てません。現状では、同じメニューをやったらつぶれてしまうでしょう。レースでも渕瀬さんが飛び出したら、それにつく力はまだありません」
現時点の力の差を率直に認めた前田。レースで3人が共闘するのか、それとも練習段階で3人で刺激し合う計画があるのか。具体的には明かさなかったが、何かを考えているのだろう。
「打倒・岡田の前に日本のレベルを上げないと。彼女に勝つことが一番ではなく、タイムを上げることが一番なんです」と、4連敗した直後にもぶれないコメントをしていた。
岡田は来春関東で陸上競技部をスタートさせる会社の、選手第1号となる予定だ。一方の前田も関西で来春陸上競技部をスタートさせる会社に入社する。
五輪&世界陸上の代表になったことのない選手が新しい実業団チームで陸上競技を続ける。2人の関係者が手を尽くした結果だと思うが、競歩に期待する気運が世間でも大きくなっているのではないか。
社会人となる前に、20km競歩での学生最後の戦いが待っている。2月の日本選手権20km競歩には2人とも出場することを表明した。日本インカレこそ岡田が4連勝したが、岡田絶対優位の雰囲気はあまり感じられない。
2人は「1時間30分を狙います」と異口同音に、そして力強く意気込んだ。
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