2013/2/17 日本選手権20km競歩
鈴木が日本人初の1時間18分台に迫ったレースを
写真と簡単な説明記事で紹介


レース後に日本記録を示すタイマーで記念撮影をする鈴木雄介(富士通)。トラック&フィールドではお馴染みの光景だが、鈴木がフィニッシュしてから女子20kmWの最終選手まで57分27秒間が空いたため、記者会見などを終了させてからの撮影に

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レース前日の記者会見場では富士通・今村文男コーチ(右)と東洋大・酒井俊幸監督が鉢合わせ。打ち合わせをしたのかどうかは不詳だが、翌日のレースでは鈴木と西塔拓己(東洋大)の2人が序盤から日本新記録ペースで歩いた

ジュニア男子10kmWはインターハイ5000mW2位の山西利和(左から3人目の赤いシャツの選手=堀川高)が41分14秒の大会新、高校歴代2位で優勝。山西はインターハイ2位だった2年生。最初にフィニッシュラインに到達した天川康太郎(右端=飾磨工高)は、自身もレース後に歩型を気にしていたが、失格となってしまった。インターハイ&国体優勝者の松永大介(横浜高)は日本選手権20kmWに回った

ジュニア女子5kmWは溝田桃子(先頭=伊豆中央高)が43分11秒で優勝。溝田もインターハイ2位の2年生という点は男子の山西と同じ。インターハイ優勝者の八木望(熊谷女高)は欠場した

スタート&フィニッシュ地点でアナウンサー兼解説者を務めたのは1992年バルセロナ五輪50kmW代表だった園原健弘さん。1983年の第1回世界陸上ヘルシンキ大会20kmW、87年の世界陸上ローマ大会50kmWの代表。日本記録も20kmWで1回、50kmWで3回更新した。明るい口調で競歩の面白さをアピールしていた

スタート直後の男子20kmW。鈴木F、西塔Aらと並んで日本インカレ優勝者の勝木隼人C(東海大)が積極的に前に。しかし、すぐに後退して第2集団にもつけず、1時間22分24秒で10位。昨年が4位=1時間21分14秒だっただけに、本人にとっては不本意な結果だっただろう

前回優勝者を示すゴールドナンバーを付けた藤澤勇(ALSOK)だが、最初から先頭集団につかなかった。後半に順位を上げたが6位。1時間20分50秒と記録的にはそこまで悪くないが、同学年ライバルの鈴木に1分48秒差をつけられてしまった。裄V哲コーチによると、今回は1km3分55秒ペースで押す力はないと判断し、大会前に後方でレースを進めることを決めたが「そのペースに対しても作り方が甘かった」(裄Vコーチ)

2kmまでは1km4分00秒ペースだったが、2kmを過ぎて鈴木と西塔が3分55秒にペースアップして集団から抜け出した。1kmを3分58秒イーブンで歩き通すと1時間19分29秒の日本記録となる。2人は終始、相手の後ろに付くことはなく、横に並んで競り合った

5km手前の鈴木と西塔。2人の5km通過は19分47秒で、第2集団は20分00秒。ともに裄V哲が日本記録を出したときの20分10秒を上回っていたが、裄Vは後半の10kmが19分40秒+19分40秒と大きくペースアップしていたため、この時点で日本記録更新の可能性はなんとも判断しにくかった

7km地点の第2集団。森岡紘一朗E(富士通)、谷井孝行D(佐川急便)、荒井広宙(北陸亀の井ホテル)という50kmWのオリンピック&世界陸上代表3人に、学生の高橋英輝G(岩手大)が加わっていた。高橋は昨年10月の全日本競歩高畠大会で1時間22分33秒。鈴木に3秒差と迫った選手。まだ2年生で、今後が期待される

岩手大は吉田琢哉も粘りの歩きを見せ、1時間20分47秒で5位。谷井と荒井を抜き去り、追い上げてきた藤澤にも逆転を許さなかった。4年生で卒業後は盛岡市役所に就職する。フルタイム勤務だが2016年の岩手国体に向けて競技は続ける予定だ。公務員ウォーカーの活躍が期待される

高校生の松永大介(横浜高)は5kmを20分10秒とハイペースで入り、10kmも41分06秒とジュニア10kmWの優勝タイムを上回る通過(高校歴代2位になると思われる)。後半ペースダウンしたが1時間23分56秒=12位と目標としていたモスクワ世界陸上A標準を4秒上回った。山崎勇喜の持つ1時間20分43秒はレベルが高すぎたが、谷井の高校歴代2位=1時間26分31秒は上回った。なお、山崎も早生まれだったが、高校最高記録を出したときは18歳。3月生まれの松永は17歳で、今回の記録は17歳日本最高となる

11km地点の第2集団。10km通過は40分03秒と森岡と高橋が4分ペースを維持したのに対し、荒井、谷井は遅れ集団は2人に。高橋は森岡と熾烈な3位争いを展開し、1時間20分25秒と学生記録に20秒と迫る好タイムで4位と健闘した
3日前の2月14日に30歳となった谷井は1時間21分06秒で7位。30歳代日本最高記録か……と思われたが、裄Vが31歳で1時間20分57秒で出していた。だが、谷井自身のフェイスブックへの書き込みによると社会人になってからのベスト記録とか。肺気胸の影響で途中棄権となったロンドン五輪から、本格復帰への第一歩となった。4月の日本選手権50km競歩でモスクワ世界陸上代表入りを目指す

テグ世界陸上50kmWで10位の荒井だが、昨年の日本選手権50kmWで6位と失敗してロンドン五輪代表は逃していた。今大会は1時間21分28秒で8位。昨年10月の全日本競歩高畠大会50kmWはライバル不在だったとはいえ、2位に16分02秒差の圧勝(3時間47分08秒)。4月からは、日本記録保持者の山崎勇喜のいる自衛隊体育学校所属となり、心機一転して世界を目指す。なお、山崎は昨年12月にヒザを手術。レース復帰は今秋以降になりそうだという
女子20kmWは大利久美(富士通)が最初から独歩して3連勝を達成。“派遣設定記録”の1時間29分31秒を目指したが後半ペースダウンして1時間30分45秒にとどまった。昨年のロンドン五輪を最後に引退するつもりだったが、37位=1時間33分50秒という不本意な成績に「あのまま引退したらアスリートをやっている意味がありません」と、もう1年間の現役続行を決意。「もう一度チャレンジする姿勢を、応援してくれた人に見せたい」と、モスクワ世界陸上に意欲を見せる。全日本競歩能美大会(3月10日)でモスクワ世界陸上代表入りに再挑戦するが、正確には当初からアジア選手権競歩(能美大会と併催)へ出場予定だったとのこと

男子20kmWの警告リスト。西塔Aは10kmで警告が2つになったのを見て、鈴木と並んで歩くことができなくなったという。荒井も2つ警告されていた

11km付近で鈴木が西塔を引き離して独歩に。10km通過は39分23秒。後半を40分00秒でまとめれば日本記録が更新できる状況になっていた。15km通過は59分02秒で、日本記録更新の可能性はかなり大きくなった


鈴木のフィニッシュ。両手は挙げたが、最後の5kmでペースを上げられず(20分ちょうど)、心から喜んでのフィニッシュではなかった。撮影ポジションの関係で鈴木のフィニッシュと、1周遅れの他の選手が重なり、肝心のテープカットでピントを合わせることができなかった。報道の視点でいうと問題ありだが、会場レイアウトの都合でどうしようもないか?

西塔は最後の5kmが20分43秒までペースダウン。森岡に9秒差まで詰められたが2位を確保した。1時間20分05秒は日本歴代4位で、鈴木が持っていた学生記録を1秒更新した。ガッツポーズは学生記録を喜んだのではなく、序盤からハイペースで飛ばすレース展開ができたことに対してのもの

高校歴代2位をマークした松永(左)が、レース後、西塔に挨拶。4月には東洋大に進学して後輩となる。谷井、山崎、西塔と同じように早生まれ。2014年の世界ジュニアにも出場資格があり、西塔が惜しくも届かなかったメダル獲得も期待できそう(西塔は昨年の世界ジュニアで4位)

鈴木を指導する今村文男コーチ(左)と、会場となった甲南大の伊東浩司監督。2人は富士通の先輩後輩で、ともに日本記録保持者だった(伊東監督は現在も100 m10秒00の日本記録保持者)。伊東監督は今村コーチから競歩の動きを教わり、走りの動きの参考とした。今村コーチの教え子が伊東監督の大学で日本記録を更新したことに縁(えにし)が感じられた


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