2012/4/15 東京六大学
ディーンが79m60、ついにB標準突破
未調整も冬期練習でのレベルアップを実証
「織田記念でA標準(82m00)は行きます」


試技:75m42−F−79m60−パス−パス−F

 ディーン元気(早大)は3投目の感触を次のように振り返った。
「普通です。良くはありませんでした。動画を見てみないとわかりませんが、やりが向いている方向に、しっかりと力が伝わっていないように感じました」
 2月のフィンランド選手たちとの合宿でも、同様の指摘を受けたという。体の開きが早いことが原因。最後の左脚の接地が遅れているからだった。
 しかし、東京六大学では「開きは大丈夫でした」という。
「ひねりが問題だったと思います。クロス中に助走の(進む)方向に背中が向きすぎていました。投げ自体は良かったのですが、腕がポーンと上がってくる感じがなかったですね。良いときはブロックの反動がバーンと、地面から伝わって来るんです。それがありませんでした」
 それでも自己新が出る。3月24日にはヒューストン(アメリカ)で79m26を投げていたが、そのときも「沖縄、石垣島、アメリカ」(ディーン)と移動した直後の試合で、「全身の倦怠感」があるなかで自己記録を6cmだが更新した。
「精度は上がっています。流れが良くなっているのは確かで、当たりはずれが少なくなりましたね」

 昨年は5月の関東インカレで79m10、6月の日本選手権で79m20を投げたが、B標準に30cm届かなかった。記録を伸ばせば目標としていた世界選手権代表入りの可能性もあったが、日本選手権後は調子が下降。春先に痛めた左ヒザの影響だった。
「1年間、ずるずる行ってしまいました。ユニバーシアード(12位・73m44)の頃が一番痛かった。それを冬期に入る前に休んで完治させて、冬期トレーニングはしっかりできました。左右のバランスもよくなりました」
 2月には1週間フィンランドに行き、そのままフィンランドチームのスペイン合宿に2週間帯同した。前述のような技術的な問題点を指摘されたが、何より、7人全員が83m以上の記録を持つ選手たちとの練習は、そこにいるだけで若いディーンを成長させた。
 8mの短助走で76〜77m、12mの中助走で80mを超えたという。5kgの砲丸でのバック投げ(約21m)やフロント投げは「少し劣るかもしれないが」とは言うものの、83m以上の選手たちと遜色なかった。
 ウエイトトレーニングの重量も軒並み上がってきた。スナッチは「85kgで3回がぎりぎりでしたが、今は95kgで3回」だという。ケガが怖いのでマックスには挑戦しないが、ハイクリーンも10kg、ベンチも10kg、トレーニングできる数字が重くなった。
 ただ、2007年世界選手権金メダルのピトカマキ(フィンランド)とは、差を思い知らされた数字もある。フィンランド選手たちがよく行っている両脚での三段跳(カンガルー跳び)。ディーンも9m70と悪くない距離だったが、ピトカマキは11m30だった。
「体幹を使わないと距離が出ないんです。ピトカマキは室伏(広治・ミズノ)さんレベルだと思いますよ」

 レベルアップしている実感があるからだろう。スタンドに向かって軽く右手拳を挙げたが、初のB標準(79m50)突破にもそれほど喜ぶ素振りはなかった。
「ひとまず、という感じです。Bは超えたので1つのステップにはなりますが…」
 昨年の世界選手権はB標準を投げれば出場できた。だが、オリンピックはA標準の村上幸史(スズキ浜松AC)がいるためB標準で出場できない(日本選手権で勝てば可能性はある)。父親の母国であるイギリス開催のオリンピックには、人一倍強い思いがあるのだ。
 だが、今のディーンにはA標準に届きそうな勢いがある。この日も調整して出場していたわけではない。やり投終了後には円盤投(46m26)、砲丸投(13m39)と続けて出場した。
「今日は技術練習として出場しました。その中で自己新を出せたことは大きいと思いますが、まだシーズンに入った感じではありません。織田記念で村上(幸史)さんと一緒に投げるのがシーズンインかな。体をフレッシュな状態にして、筋肉に良い緊張感が出たら、織田記念でA標準は行きます」
 村上も「初戦からガンガン行く」と宣言している。五輪イヤーのやり投は熱くなりそうだ。


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