2012/10/13 第77回日体大競技会
三武、高校新ならずもセカンド記録高校最高
1分48秒88
「セカンドで最高なんて嬉しくないっ(泣) 」


 三武潤(城西大城西高)が高校生としては初めて、2度目の1分48秒台をマークした。

 男子800m3組には口野武史(富士通)、横田真人(同)らが出場。5月に同じ日体大でジュニア日本記録(1分46秒89)をマークした川元奬(日大2年)がペースメーカーを務め、200mを24秒5(非公式。以下同)、400 mを50秒7で通過。
 横田が2〜3m差で川元をフォローし、その背後に口野、そして三武と続いていた。三武の400 m通過は51秒台中盤。1分48秒62の高校歴代3位を出したインターハイとほぼ同じタイムだった。
「ペースはインターハイみたいでしたが、疲労が出てきていて500mで動きが止まってしまいました。気づいたら離されていました」
 川元の500m通過は1分04秒4。川元から横田、口野まで3m差は変わらなかったが、口野から三武の差は開き始めた。

 しかし、残り200mで三武の前に笹村直也(慶大)が出たことが、結果的に三武をアシストすることに。
「笹村さんが出てくれたので動けるようになりました。競って負けるのは悔しいですから、これじゃダメだと思って。ラスト100 mで切り替えることもできました。あごを引いて前傾を意識した走りができたと思います」
 横田、口野との差は大きく笹村との勝負になったが、三武は競り勝った時点で満足しないで、「最後まで走りきること」を心がけて3位でフィニッシュした。

 高校生初の“2度目の1分48秒台”は、日本の800m陣が頑張っている流れのなかで出た。今回のレースは口野が記録を狙うためのレースで、600 mまでを川元が引っ張り、700mまでを横田が引っ張る予定だった。
 現在の男子800mは横田、口野、川元の3強も、交互にペースメーカーを務め、お互いを高め合おうとしている。今回はそこに高校記録(1分48秒46=2010年・川元奬)を狙う三武が乗っかった。
第77回日体大競技会成績

 この種目を牽引する横田は全日本実業団、国体から連戦。長期的に見てもロンドン五輪に合わせたため、トップコンディションではない。それでも直前になって800mまで走りきることを決めた。
 自身のブログに、レース前日に以下のように書き込んだ。

僕に最近求められているのは駆け引きとかスパートとか中距離の醍醐味を伝えることよりも
積極的なレースで圧倒的な記録を出すことみたいだ
自意識過剰かもしれないけど僕はその期待に応えたい
人を喜ばせたいとか恩返ししたいとかそんな大層なものじゃなくて申し訳ないんだけど
期待に応えられたら自分のこと好きになれそうで気持ち良さそうなのでやります
確かにそういったレースはいまの僕には大事だ 怖いけど
だから明日の日体も日本記録を狙います
出るか出ないかなんて僕にはわからないけど
やります


 中距離の醍醐味は駆け引きやラストスパートにあるから、勝負優先のレースも見ていて面白いですよ――これが中距離の魅力を語るときの常套句だった。大会プログラムなどでもよく目にする(筆者も書いた記憶がある)。
 陸上競技はどうしても記録中心に見られてしまうことへの、現場サイドからのアピールでもあった。ただ、それが世間一般にどこまで受け容れられるか。特に世界と差の大きい種目はいくら好勝負を見せても、「世界では通用しないよね」で片づけられてしまう。
 ロンドン五輪で世界新をマークし、世界を熱狂させたルディシャ(ケニア)の走りを、レベルは違っても日本でも再現したい。その思いが横田にはある。

 ここ数年、中距離ブロックが記録狙いのレースを多くつくっている。記録の出やすい状況をつくることのマイナス面もゼロではないが、緊張感のあるレースを多く経験できるプラスは大きい。
 今回の日体大のレースも、記録会ではあっても相当に緊張感があった。三武もそこをしっかりと受け止めていた。

「インターハイは気持ちもコンディションもしっかりと合わせて、優勝のオマケで1分48秒台を出せました。インターハイや国体は“楽しもう”と思って臨めるのですが、タイム狙いの今日の方が緊張感がありました」

 勝負優先の試合の方が緊張する選手もいる。三武の個人的なスタイルなのかもしれないが、緊張感を持って記録を狙いに行くことは、“たまたま出てしまった記録”とは明らかに違う。

「セカンドで最高なんて嬉しくないっ(泣) 」

 レースの夜に三武が自身のツイッターに書き込んでいた。1分48秒88のタイムに悔しさをにじませる高校生が過去に何人いただろう?
 次週の日本ジュニアは記録は、今回ほどコンディションは合わせず、勝負優先のレースをする。記録を狙うのは2週間後の川崎陸上競技フェスティバル。2年前に川元が高校記録を出した大会だ。

「0秒16の壁が厚いですね」

 日体大のブルートラックの上で思わずこぼした三武。
 川崎で同じセリフを口にするつもりはない。


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