2012/4/22 兵庫リレーカーニバル2日目
初1万mの新谷が31分28秒26、五輪A標準突破
前半型の新谷が後半にペースアップできたのは?
レース後の一問一答も掲載
女子1万mは昨年の5000m世界選手権13位の新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)が快勝した。初1万mながら31分28秒26と五輪A標準を突破。この種目でも五輪有力候補に浮上したと思われたが…。
レース序盤はペースメーカー役のチェピエゴ(九電工)が独走した。2000mは6分20秒で通過し、後続集団は4秒後方だった。新谷が集団から抜け出したのが2400m手前。足がつまって走りにくそうにしていたが、他の選手と接触したのを機に飛び出した。
「集団で行く予定でしたがあまりに体が軽かったんです。初めての1万mですから、後半でタレても『初めてだから』と言い訳できます。それに私は集団にいるのが嫌いな人なんです。脚が絡まってしまって、私も嫌だし相手も嫌だと思うので」
2900mではチェピエゴに追いついてマッチレースになった。
5000mは15分54秒の通過。A標準(31分45秒00)を破るには後半でペースアップする必要があった。新谷は5200mからギアチェンジ。それまで1周76〜77秒台だったが、73秒終盤〜75秒台にスピードを上げた。5400m過ぎでチェピエゴを振り切った。
「400 mのインターバルのメニューを72〜73秒設定でやりますが、それよりも1秒くらい速く走ることもあります。(そのスピードに慣れていたので)前半力を貯めることができ、後半に出すことができました」
集団にいた吉川美香(パナソニック)が“このままでは追いつけない”と判断したのだろう。5000m過ぎで集団から抜け出した。1周を75〜76秒台に上げたが、新谷のペースの方が速い。吉川のペースはやがて77秒台で落ち着き、勝負は決した。
「もっと記録に執着することが大事でした。そうしたら今日の(集団から抜け出す)判断も5000mではなく、3000mになっていたはずです。8割でゴールした感じですね。物足りない感じがします」
フィニッシュ後の表情や話しぶりから、もどかしさが伝わってきた吉川。1500m日本選手権5連勝(2006〜10年)の中距離トップ選手だったが、昨年は5000mでA標準、1万mでB標準を突破した。日本選手権も両種目に出場する。日程は1万mが初日で5000mが3日目。本人も「大本命」という5000mに集中する選択もあると思われたが、本人は「1万mにも出ます」ときっぱり。
新谷の後半は15分34秒。「ラスト2000mできつくなって、(昨年秋以来のトラック出場で)トラックのきつさを思い出しました」と言うが、8000m以降も74〜75秒台をキープした。右手にVサインを作ってフィニッシュした新谷は、満面の笑みでテレビのインタビューに答え始めた。
「嬉しいというよりホッとしています。今まで5000mしか走っていませんでしたから、緊張感がありました」
A標準狙いだったか?
「皆さん推測されているとおり、私自身もそんなに力があるとは思っていません。1万mは初めてで、25周に耐えられる気持ちがあるかどうかを試すレースでした」
勝てた要因は?
「髪の毛を金髪にしたことですかね。単にお洒落のひとつですが、髪の毛だけでなく走りの方でも目立とうかな、という意思表示です」
トレーニングで耐えられるようになった?
「去年の世界選手権を機会に自分で練習メニューを立てるようになりました。今回初めて1万mに出たのも、自分のメニューでどこまで通用するかを見るためです。今日の結果でそこはクリアしたかな、と思います」
2種目でA標準を破っているが日本選手権も両種目で?
「私の中では日本選手権は5000mのみでエントリーするつもりです」
この先の距離(マラソン)に伸ばす予定は?
「まったくありません。1万m以上は走りません」
日本選手権と、その先のロンドン五輪の目標は?
「ロンドン五輪で終わりではありません。その先に駅伝もクロカン、そしてまたトラックもあります。1つ1つの試合で結果を出すことが全てだと思うので、結果を求めていきます。それが今の私のテーマです」
その後のカコミ取材時に、練習メニューを自分で立案するようになった経緯も話したが、そこを紹介するには別方面からの取材も必要だと感じたので今回は触れないでおく。現時点のメニュー立案の基本的な考えは「マラソンやハーフはすべて練習ですが、トラックは勢いで行ける」というもの。ただ、これも前述のように、インターバルのタイム設定には自信とこだわりを持っていることから、突っ込んだ取材をしないと断定的に書けない類の話だと感じる。
また、今回の出場理由については「1万mを走り切れたら5000mも楽になるから」と繰り返し、1万mへの出場も「今日が最初で最後」と明言した。だが、その一方で「私は単細胞の固まりで流されちゃう女なので、(1万m出場の方向に)乗せられちゃう可能性もあります」とも。
そして最後には、今回の1万m出場のきっかけや、笑顔の裏にある陸上競技に対する思いも吐露。これまでのどんなトップ選手とも違った競技観(※)で走っていることがわかった。その競技観でどこまで走ってしまうのか、注目していきたい。
※性格は異なるが、強いていえば早狩実紀(光華学園AC)の競技へのスタンスが近い印象。陸マガ2005年8or9月号参照
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