日本選手権2012・日付毎展望
第1日・6月8日編
初日に室伏登場!
澤野に日本新、荻田と山本にA標準の期待
女子円盤投に“打倒・室伏”を意気込む2選手

女子ブロード系ジャンプ2種目はベテランに学生が挑戦
女子1万mに新谷は出場するのか?

●女子円盤投 全種目エントリーリスト
 室伏由佳が11連勝&13度目の優勝に挑む。来年以降は日本代表にこだわらない競技スタンスになるという。「トレーニングできる回数が少なくなっています。でも、若い頃は練習できる代わりに失敗も含まれました。今は的を絞ってやることができるので、少ない練習の中で成功本数を多くすることができます」。織田記念は53m51と、昨年のシーズンベストを上回った。練習の工夫次第で高いレベルを維持できる。それを日本選手権で実証する。打倒・室伏に意欲を見せ始めたのが高橋亜弓。昨年52m87を投げ、記録では日本のトップに立った。織田記念は51m83で2位。「今シーズン中に55mくらいまで行きたい。室伏さんが良い状態の間に挑みたい」
=陸上競技マガジン6月号記事。以下同
■ロンドン五輪標準記録 62.00/59.50
■突破者 なし

 敷本愛が東日本実業団で53m42の自己新、日本歴代7位を投げ、室伏由佳が織田記念でマークした53m51の今季日本最高に迫った。
「重心を浮かないように心がけました。円盤の位置だけ気をつけて、上半身と下半身が噛み合うように安定させて回ることを意識しました」と、自己新の投てきを振り返った。
 そして日本選手権にはいつもと違う気持ちで臨むという。
「いつも室伏さんに胸を借りるつもりで臨んで結局、勝負ができていません。その上(優勝)を狙って初めて勝負ができる」
 室伏が来年以降、日本選手権に出てくるかどうかわからない状況になっているので、なんとしても今年勝ちたい思いが強いようだ。
 高橋亜弓も思いは同じ。2人が室伏にどういう勝負を挑むか。今年の女子円盤投は注目だ。
 “期待優勝記録”は55m00。室伏に勝つとしたらこのくらいの記録は投げてほしい、という意味である。


●女子三段跳  全種目エントリーリスト
 静岡で13m10の自己新で日本人1位となった前田和香が優勝候補に浮上した。一昨年13m05、昨年13m07、4月中旬に13m08、そして静岡と自己記録を数cmずつ更新してきた。だが、このレベルでは日本選手権で勝てる保証はない。静岡では12m93だったベテランの吉田文代は、一昨年まで6連勝と日本選手権は必ず合わせてくる。前回優勝者の竹田小百合も13m10台を何度か出し、13m20以上の可能性を感じさせる。前田も負けていない。「助走がリズム良く乗っていく感じがあり、一気に記録を伸ばせる」手応えがある。13m69の学生記録も目標として口にできるまでになった。「日本選手権は自己記録を大きく更新して勝ちたい」
■ロンドン五輪標準記録 14.30/14.10
■突破者 なし

 東日本実業団で吉田文代が12m92(+1.1)まで記録を上げてきた。吉田の日本選手権への思いはすごいものがある。本番ではしっかりとピークを合わせるだろう。ということで、優勝者予想は吉田とした。
 しかし、“期待優勝記録”は前田和香が目標とする学生記録の13m69としてある。吉田も13m50(日本歴代2位)が自己記録なので、成田高の先輩の花岡麻帆が持つ学生記録は、超えておきたい記録だろう。
 昨年の優勝者の竹田小百合は東日本実業団で12m55(+0.7)。昨年も日本選手権でシーズンベストを出しているので、合わせてくるのは確かだろう。


●男子棒高跳 全種目エントリーリスト
 澤野大地が「絶対に勝つ」と10回目の優勝に照準を合わせている。4月に5m72と、シーズン初戦の自己最高。5m80台を跳んだ04〜05年との違いを次のように説明する。「当時は走って、走って、自然にできた動きです。今はこうして、こうやってと、つくってハメていく動き。つくっていくだけにミスをすることもありますが、今の方が確実に上を狙っていける」。その澤野が織田記念、川崎と荻田大樹に2連敗。勝負はわからなくなってきた。ただ、荻田が目指しているのは「A標準を跳んで2人でオリンピックに行く」こと。5m60の学生新を跳んだ山本聖途も「A標準が目標」。記録も勝負も、どちらも意味のある大会になる。
■ロンドン五輪標準記録 5.72/5.60
■突破者

沢野大地 富士通 5.72 2012/4/21 マウントサックリレー
荻田大樹 チームミズノアスレティック 5.65 2012/4/29 織田記念
山本聖途 中京大 5.60 2012/4/29 織田記念
 東日本実業団の澤野は5m40だったが、感触は悪くなかったという。“期待優勝記録”は5m84の日本新。年齢の壁を超えた証として7年ぶりの日本記録更新を期待したい。
 荻田大樹は関西実業団、日体大記録会と5m50から跳び始めて記録なし。目指すのはあくまでもA標準で、澤野と2人でロンドン五輪に出るというスタンスだ。助走スピードを変えた試みをしている情報もあるが、その辺をどう判断して日本選手権に臨むか。
 山本聖途は東海インカレで5m40の大会新。
 澤野の日本新もだが、荻田と山本のA標準も期待したい。2人が澤野に勝つこともあり得るのだが、そのときにB標準だったら五輪代表選考が難しくなる。それは避けたい。


●男子3000mSC  全種目エントリーリスト
 2連勝中の武田毅がやや優位か。兵庫で松本葵、菊池昌寿、梅枝裕吉ら有力選手たちを相手にきっちり勝ち、1週間後のカージナル招待では8分35秒86の自己新。川崎では「どうしても標準記録を出したい」と、外国勢について1000mを2分45秒で入った。後半失速しながらも、「日本人1位は譲れない」と梅枝とデッドヒートを展開(梅枝が0.06秒先着)。現役選手最高の8分30秒49を持つ松本は打倒・武田に意欲的。「スピードは自分も持っている。ここなら競り勝てるという距離を見つけたい」。日本選手だけで記録を狙うのは難しいが、「力のある選手たちが競り合えば」(武田)と積極レースを望む声も挙がっている。期待したい
■ロンドン五輪標準記録 8.23.10/8.32.00
■突破者 なし

 5月中旬以降では菊池昌寿が東日本実業団に優勝した。積極的なレース展開を見せたがタイムは8分51秒38で、優勝候補とするには物足りなかった。
 中部実業団では山下が8分45秒82。3000mSCが盛んな東海地区出身で、この種目の名門のNTNで研かれている。優勝争いに加わって来るかもしれない。
 篠藤淳は関西実業団にも出場しなかった。
 学生勢が関東インカレでまずまずの記録を出した。1部は山口浩勢が8分45秒87で優勝し、佐藤舜が8分47秒37で2位。2部は1年生の潰滝大記が8分45秒04で優勝した。日本選手権の優勝争いに絡むのはまだ難しいと思うが、一気に来る可能性もないとは言い切れない。
 “期待優勝記録”の8分32秒00は五輪B標準。武田や松本ら、選手たちが目標と話していた数字にした。


●男子ハンマー投  全種目エントリーリスト
 室伏広治の18連勝は確定的。昨年中にロンドン五輪代表は内定している。今季は段階的に3つのピークを作ってロンドン五輪まで状態を上げていく予定。日本選手権をどの段階と位置づけ、どんな記録を出してくるかに注目したい。選手間で“裏日本選手権”と言われている2位争い。土井宏昭の連続2位を昨年、野口裕史が“9”でストップさせた。今年も静岡で70m13を投げた野口が、67m89だった土井に対して優位に立っている。野口は「右脚の下ろし方」で新しい技術に取り組んでいる。それに成功して「74m08の日本歴代3位を上回りたい」と言う。4位を、静岡で65m54の田中透と65m06の遠藤彰が争う。
■ロンドン五輪標準記録 78.00/74.00
■突破者

室伏広治 ミズノ 81.24 2011/8/29 世界選手権
 “期待優勝記録”は77m02。室伏広治の昨年の優勝記録を1cmでも上回ればいいのではないか、という判断だ。本当は下回ってもいいと思うのだが、世間を安心させるという意味も込めた。
 “裏日本選手権”は土井宏昭が指導にウエイトを置くようになったこともあり、野口がやや優位。と思われたが、東日本実業団では64cm差で土井が勝った。野口が昨年の日本選手権で使われた滑るサークルを想定して練習を積んで来たら、滑らない方のサークルで実施されたという。
 関東インカレでは柏村亮太が67m25と、33年間残る関東学生記録に25cmと迫った。2位の知念雄も66m00の自己新。
 関西インカレでは赤穂弘樹が65m39。
 しかし、静岡国際では田中透と遠藤彰が65m台で、知念に勝っている。
 4位争いは熾烈になりそうだ。


●女子走幅跳  全種目エントリーリスト
 井村久美子、岡山沙英子、桝見咲智子、高武華子が五輪B標準を目指しながらの激戦を展開する。好調なのは岡山で、川崎で6m67(+4.1)をジャンプ。6m後半の記録を持つ外国勢に競り勝った。川崎では風に押されて上手くできなかったが「踏み切り前を速くさばけるようになり、リードレッグが早く上がるようになった」という。岡山が勝てば親子2代Vとなる。故障から復活した桝見は、補助助走をつけることでスピードに乗るのが早くなった。井村も特徴である助走スピードが今季は戻っている感触がある。そして高武は6m48の今季日本最高を4月の記録会で記録した。優勝記録は6m65のB標準を超えてほしい。
■ロンドン五輪標準記録 6.75/6.65
■突破者 なし

 岡山沙英子が川崎で外国勢に勝ったことは評価してしかるべきだろう。さらに5月16日のワールドチャレンジミーティングのテグ大会で3位。6m45(+0.2)とまずまずの記録だった。本命としての評価が高くなった。
 清水珠夏が関東インカレで6m48(+1.3)。勢いからすると井村久美子、高武華子、桝見咲智子に並んだと見ていい。この勢いで日本選手権に勝ってしまうこともあり得る。
 ただ、実績でいうとやはり、井村と桝見の2人が上。岡山に対抗できる一番手はこの2人だろう。
 “期待優勝記録”は6m65。とにかくB標準は跳んでほしいし、岡山、井村、桝見にはその力があると思う。


●男子5000m  全種目エントリーリスト
 V候補の双璧は渡辺和也と上野裕一郎のスピードランナー2人。テグ世界選手権代表の渡辺は昨秋にアキレス腱を痛め、その後は駅伝もトラックも出場していない。ただ、練習は断続的にできている。「日本選手権に合わせている」(松浦忠明監督)渡辺がどこまで戻してくるか。一方の上野は静岡で日本人1位。ゴールデンゲームズinのべおかでA標準を破り、日本選手権は得意のラスト勝負で確実に勝つプランだ。10000m組では佐藤悠基がB標準を破っているが、5000mの方が先に行われるため出場は微妙。出場の可能性があるのは竹澤健介か。五輪代表入りの「最善の方法」(田幸寛史監督)を考えているという。
■ロンドン五輪標準記録 13.20.00/13.27.00
■突破者

渡辺和也 四国電力 13.23.15 2011/5/28 ゴールデンゲームズinのべおか
佐藤悠基 日清食品グループ 13.25.53 2011/5/28 ゴールデンゲームズinのべおか
 清水大輔がゴールデンゲームズinのべおかで13分36秒69で1位、上野裕一郎に1.52秒差をつけた。東日本実業団でも13分38秒57で日本人トップ。5月の実績では一番だが、日本選手権はエントリーしていない。当初から、5月の5000mは日本選手権の1万mへの調整と位置づけていた。
 渡辺和也の情報がないのでなんともいえないが、復帰レースでいきなり勝てるかどうか。それと、1万mを狙う選手のうち、初日の5000mに誰が出てくるかもわからない。現時点で優勝者を予想するとしたらやはり、上野裕一郎になる。
 上野に対抗する選手の一番手としては、1500mで3分38秒9の記録を持つ村上康則の名前を挙げたい。ゴールデンゲームズinのべおかで清水、上野と同じ組で4位だったが13分44秒30まで自己記録を上げてきた。日本選手権本番で化ける可能性はあると見た。
 1万mに絞る選手が多いと思われるが、田幸寛史監督の話では竹澤健介は、5000mに出場する可能性も検討しているようだ。最終的にどう判断するか。
 あとは高橋優太が5000mに懸けてくるか。
 “期待優勝記録”は13分20秒00の五輪A標準。選手たちも目標にしているし、そこまでいける力はあると思う。


●女子10000m  全種目エントリーリスト
 昨年A標準を突破した4人は今季10000mを走っていない。福士加代子は、シーズン前の軽いケガの影響で調整が遅れている。カージナル招待は5000mに変更して15分33秒11だった。昨年優勝の杉原加代もカージナル招待を回避。絹川愛は静岡の5000mで15分40秒73で6位。清水裕子は当初から日本選手権だけを見て調整している。誰が本番に合わせられるかが勝負となる。兵庫でA標準を突破した新谷仁美は、「10000mはもう出ません」と明言したが含みも残した。逆に兵庫2位の吉川美香は「5000mが大本命」としながらも10000mへの出場を表明。A標準の4人がハイペースにできなければ吉川有利か。
■ロンドン五輪標準記録 31.45.00/32.10.00
■突破者

福士加代子 ワコール 30.54.29 2011/5/1 カージナル招待
絹川 愛 ミズノ 31.10.02 2011/6/22 ホクレンDistance Challenge網走大会
新谷仁美 ユニバーサルエンターテインメント 31.28.26 2012/4/22 兵庫リレーカーニバル
杉原加代 デンソー 31.34.35 2011/5/1 カージナル招待
清水裕子 積水化学 31.43.25 2011/12/24 第12回日体大女子長距離競技会
吉本ひかり 佛教大 31.45.82 2011/4/24 兵庫リレーカーニバル
吉川美香 パナソニック 31.55.06 2011/10/10 選抜中・長距離特別レース
 福士加代子はゴールデンゲームズinのべおかの5000mで15分18秒46でA標準突破。トラックシーズンはケガの影響で始動が遅れたが、やはり強いな、という印象。5月27日のBolder Boulderは33分32秒89(10kmなのに1/100秒計時?)で調整した。
 吉川美香の心意気が実を結ぶかもしれない。1万mに出る理由を、兵庫リレーカーニバルの際に次のように話していた。
「本命の5000mを控えていても、1万mも良いメンバーなので出たいんです。中途半端じゃないレースができそうですから。1万mと5000mを両立できたらと思っています。こだわっているのは5000mですが、距離も踏めていますし、去年の秋から1万mも楽しくなっているので、1種目に縛られず2種目を目指します。去年のボルダー合宿のあとカージナルを見て、1万mは簡単じゃないけど、自分もそこに加わりたいと思いました」
 昨年の優勝者の杉原加代の動向がわからない。
 清水裕子もレースに出ていない。大阪国際女子マラソンのペースメーカーを務めた後に故障があったのは事実だが、早くから春のレースには出ずに日本選手権に合わせる方針だったので、たぶん大丈夫だろう。
 絹川愛も静岡国際後は東日本実業団、日体大長距離競技会とエントリーしていた試合をキャンセル。状態がわからないが一気に上げてくる選手なので期待できる。
 優勝争いができるとはいえないが、四国電力の井原未帆が強くなっている気がする。関西実業団を32分34秒55で制している。
 “期待優勝記録”は31分09秒45。30分台は厳しいかもしれないが、日本歴代3位の31分09秒46(川上優子・2000年)を上回ってほしい。


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