2012/2/19 日本選手権20km競歩
2位の西塔が1時間21分01秒のジュニア歴代2位
背景に東洋大仕込みの“強い気持ち”


 優勝した藤澤と最後まで競り合うと思われたのは、今大会で優勝経験のある森岡紘一朗、谷井孝行、山崎勇喜らだった。3人とも五輪代表経験者でもある。
 ところが、14kmまで藤澤とマッチレースを展開したのは大学1年生で、今季もジュニアの西塔拓己(東洋大)だった。「ロンドン五輪代表になれたらの一心だった」という。昨年1万mWでジュニア日本新(40分44秒70)を出していたとはいえ、20kmWの経験は過去2レース。ベスト記録も1時間23分45秒の西塔が五輪を意識できた背景には、箱根駅伝で優勝した長距離チームに影響された“強い気持ち”があった。

 西塔が国体でジュニア日本新をマークした翌日に、東洋大が出雲全日本大学選抜駅伝で優勝。元旦競歩で優勝(1時間24分33秒)した翌日スタートの箱根駅伝でも優勝した。酒井俊幸監督からは「ゲンが良いから駅伝の前に試合に出ろ」と言われているという。
 東洋大の箱根駅伝の優勝と大幅な大会記録更新は、多くの要素が噛み合った結果だが、根本には“強い気持ち”で競技に取り組んだことが根本にあった。「大学駅伝決算号」(BBM社)に書いた記事から酒井監督のコメントを引用する。

酒井俊幸監督コメント
「なぜ早大に負けたのか、なぜ3連覇ができなかったのか。そこを徹底的に議論しました。早大はエリート選手が泥臭いこともして、一般選手もあれだけ走った。東洋が勝つには3倍、4倍の努力をするしかないんです。反省点を1つ1つ学生たちが書き出して、それをもとに学年ミーティング、チームミーティングを繰り返し、今季は3冠を目指すと学生たちが決めました。それならこちらも真剣にやる、それだけのトレーニングをやる、だから君たちもその覚悟を持ってくれ、と求めました。どんな練習をやっても、自ら向かっていく気持ちがなかったら絶対に自分のものになりません。その気持ちがなかったら故障にもつながる。早大に負けたのも、まず気持ちで負けていたからです。闘争心のない者は去ってもらうつもりでした。その気持ちでやるなら、走りも“攻めの走り”です。長い距離になって後半に上がって行くのでなく、最初から攻める。苦しくなったところで前へ行く。だから柏原をキャプテンに指名しました。主将であり闘将。多くを語らず、自ら先陣を切って行く。今年の東洋大は戦う集団に変わらないといけなかった。その取り組みから“ひるまずに前へ”というスピリッツを共有できるようになりました。それが何より大きかったと思います」

 自己ベストが3分も上の選手たちに臆することなく挑み、本気でロンドン五輪を狙っていた西塔。長距離とは「同じブロック」(西塔)で、ポイント練習の組み方などトレーニング・パターンも同じ。早朝5時からの朝練習も一緒に始めているし、寮で寝食も共にしている。西塔が長距離選手たちの“強い気持ち”に影響を受けていても不思議はない。
「酒井監督や柏原(竜二・4年)さんから頑張ってこいとエールを送られて、ロンドン五輪代表を取りに行こうと思いました。柏原さんから普段、何かを言われているというわけではありませんが、練習姿勢や生活面で学ぶことがたくさんあります。言葉でなく背中で教えてもらっています」

 もちろん、長距離の影響だけで競歩が強くなるわけではない。
 広島商高1年時に「先輩から強制されて」始めたのは幸運だったが、月に1〜2回は地元の競歩の指導者に手ほどきを受けたのが良かった。その指導者のメニューを参考に、高校時代は1人で練習を組み立てていたという。
 今は特定のコーチは不在で、この1年間は4年生の今滝耕作にアドバイスをしてもらってきた。今滝は関東インカレ1万mWで6位に入賞し、冬期は駅伝のマネジャーも務めた選手だ。競歩のことだから、合宿などで有名な指導者からアドバイスをもらう機会も多いのだろう。動きの特徴は何かと質問すると「(競歩関係者からは)キレがあると、よく言ってもらっています」という答えが返ってきた。

 今回のタイムは山崎勇喜のジュニア日本記録、1時間20分38秒に次ぐジュニア歴代2位。歴代3位とは大差がある。西塔には、五輪7位の山崎と同じような可能性があるということか。今季の最大目標は「世界ジュニアでメダルです。できれば優勝を」というもの。山崎のジュニア日本記録も「狙ってはいきたいですが…」と語尾を濁した後にこう付け加えた。
「それで自分のスタイルを見失いたくありません。(自分のスタイルは)最初から攻めるレースをすることです」
 記録を狙ってまとめるレースをするよりも、自身の持ち味である積極的なレースをする。長距離勢も箱根駅伝で、ほとんどの区間で突っ込む走りをした。やはり西塔は、東洋大の競歩選手である。


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