2012/2/18日本選手権20km競歩前日
V候補筆頭の藤澤、50km五輪代表の森岡、北京五輪50km7位の山崎、女子前回優勝の大利が会見

@史上3度目の1時間20分切りは?

 日本選手権20kmWを明日に控えた18日、有力選手のカコミ会見が行われ、男子は山崎勇喜(自体学)、森岡紘一朗(富士通)、藤澤勇(ALSOK)の3人が出席した。

 明日のレース結果で即時五輪内定となる基準は、男子が「1時間20分30秒以内」の記録で優勝した場合。このタイムが1つの目安になるだろう。
 藤澤勇のベスト記録は2年前の3月に能美で出した1時間20分12秒。「その1回しか出していませんが、そのときと変わらない流れできています。自分を信じて行きます」と言う。
 藤澤は昨秋、コーチの柳沢哲氏の持つ日本記録(1時間19分29秒)更新にも意欲を見せていたが、今回はそこにこだわらないという。「1時間19分台で2位になったら意味がありません。そこはレースの流れでチャンスがあれば、ですね。勝負に集中して、その結果として日本記録が出れば、と考えています」

 山崎勇喜の自己記録は2003年の今大会で出した1時間20分38秒。9年も更新できていないが、昨年、当時のコーチだった小坂忠広氏に再び師事するようになった。「そのとき以上の練習メニューをつくってもらっていますし、設定タイムもそのとき以上でできています」と自己記録更新に自信を見せる。
 高校時代に20kmWのジュニア世界歴代上位記録を出すなど、スピードがないわけではない。練習も現時点では20kmWに絞って行っているという。久しぶりに山崎のスピードが見られるかもしれない。

 20kmを1km4分00秒イーブンで歩き通せば1時間20分00秒。藤澤や山崎が4分00秒ペースを切ってレースを引っ張ることはないと思われるが、森岡紘一朗の歩きは要注意かもしれない。昨年の世界選手権6位入賞で、すでに50kmWでロンドン五輪代表に決まっている。
「良いトレーニングができているので、日本記録に近いところも狙えると思う。(選考基準タイムに)とらわれなくていいので、そのアドバンテージを生かしたい。今後につながるレースをすることを考えています」
 仮に森岡が4分を切るペースで行けば、藤澤も続くだろう(ペースが速すぎれば自重するだろうが)。そうなると1時間19分台実現の可能性が広がる。

 そうはいっても1時間19分台が出たのは、日本歴代1、2位が生まれた2000年の今大会と、池島大介が1時間19分50秒を出した98年の全日本競歩高畠大会の2レースだけ。簡単に出せる記録ではないということだ。森岡も闇雲に飛ばすことはしない。「周りが一緒に行ってくれるのが理想ですが、選手それぞれに作戦があると思いますから希望通りにいかないかもしれません。細かいことは気にせず、自分の力を発揮することを考えたい」
 12年ぶりの1時間19分台も期待したいが、今大会はそこだけがポイントというわけでもない。

A三者三様の立場で臨むレース

 三者三様の立場といえるだろう。
 森岡紘一朗は前述のように世界選手権50kmWで6位入賞し、同種目ですでにロンドン五輪代表に内定している。「精神的に余裕がある」と本人も認める。
「1つ1つのレースに照準を絞っていくのでなく、長い目で見てトレーニングができています。今やるべきこと、今後やるべきことと、期分けをして取り組めている。日本選手権50kmだったり、そのあとの予定だったりと、1つ1つを通過点としたトレーニングができています」
 だからといって、今大会が期待できないわけではない。むしろ逆で、スピードという点では例年よりも積極的な取り組みができている。
「50kmWを意識した結果、ここ数年レースペースよりも速いトレーニングができませんでしたが、そこをもう一度やっています。さらに動きを洗練させていくトレーニングを、自分のなかで1つ1つ見直す作業ができています」
 元々は、この大会でも4回優勝しているスピード・ウォーカー。20kmWから50kmWに進出した際に「20kmWの日本記録(1時間19分29秒)は引き続き狙っていく」と明言した。
 スピードと、課題とする動きのチェックが明日の一番の目標となるが、その結果が自己記録(1時間20分43秒)の大幅更新となる可能性は十分ある。

 山崎勇喜が本当に狙うのは北京五輪で7位に入賞した50kmW。選考レースの最大目標は4月の日本選手権50kmWとなる。だが、明日の20kmWでも本気で代表を取りに行く。オリンピックはアテネ、北京と2大会連続で2種目に出場してきた。ロンドンでも2種目に出場した方が結果を残せると考えている。
「20kmを歩くと審判に顔を覚えてもらえるんです。そこで警告を受けない歩きができたら50kmは余裕です。20kmを完歩できれば、間違いなく50kmも完歩できる。それにオリンピックは独特の雰囲気ですから、先に20kmを歩いて慣れておくことが有利になります」
 練習も「20kmWは20kmWとして、現時点で100%」だという。
 09年のベルリン世界選手権で失格するなど、課題だった歩型も改善されてきている。小坂忠広コーチが説明する。
「失格の大きな要因はヒザの故障にありましたが、それが最近良くなってきました。最近の練習で審判の方に見てもらいましたが、かなり良くなっています」
 山崎自身もヒザのケアを、より慎重に行っている。「つねにトレーナーと主治医と相談して、腫れがひどいときはヒアルロン酸の注射を打ったりもします」
 昨年10月の全日本競歩高畠大会が約1年ぶりのレースだったが、3時間44分03秒で優勝。自身の持つ3時間40分12秒の日本記録と開きはあったが、森岡の記録を抑えて2011年の日本リスト1位の記録。今大会で結果を残せば、復活から再上昇へと転じられる。

 藤澤勇は昨年のこの大会で失格。テグ世界選手権の代表入りも逃した。テグの20kmWは同学年の鈴木雄介(富士通)1人が出場して積極的な歩きを見せ、8位に入賞してロンドン五輪代表を決めた。
「去年は苦い思いをして、そこからここに向けて取り組んできました。待ちに待った舞台がようやく来たな、という気持ちです。昨年から続くもやもやを晴らしたい」
 ただ、鈴木の世界選手権の結果については、コーチの柳沢哲氏の01年エドモントン世界選手権入賞から10年が経ち、「僕らの世代への風当たりも強かった。鈴木君が結果を出せたことを素直に喜びたい」という気持ちもあったという。
 その鈴木は左ヒザの故障もあって今大会へはエントリーしなかった。
「鈴木君が出ると思って、ハイペースになっても行ける練習をしてきました。それを生かしたい」
 スピードを上げるのはスピード練習だけではない。昨秋の全日本実業団のときには、「量も上げる練習に取り組めた」と話していた。ハイペースで押していくことが、昨年9月の10kmW日本新につながった。
 森岡と山崎だけでなく、谷井孝行(佐川急便)や荒井広宙(北陸亀の井ホテル)らの世界選手権代表も、50kmWがメインの選手たち。
「まずは1時間20分29秒(の選考基準タイム)をしっかり切って優勝したい」
 “20kmW専門”の意地を見せたいところだ。


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