2012/8/12 ロンドン五輪展望
最終日(10日目・8月12日)午前の部
藤原に入賞の期待できる理由

 大会最終日(10日目)午前の部に行われる種目は男子マラソンのみ。日本からは以下の3選手が出場する。

男子マラソン:藤原 新(ミキハウス)
        :山本 亮(佐川急便)
        :中本健太郎(安川電機)


 藤原新に入賞を期待したい。
 藤原はシーズンベストでいえば参加選手中8番目で、山本は16番目、中本は18番目だが、3選手とも“格付け”はもう少し下になる。ケニアのムタイとキルイが2時間4〜5分台、アメリカのホール、ブラジルのドスサントス、モロッコのキスリらも2時間6分台の自己記録を持っている。ウガンダやエリトリアなど、人種的にはケニア、エチオピアに近い国の選手もいる。ロスリン(スイス)やケフレジキ(アメリカ)らは百戦錬磨の強者だ。

 その状況でも藤原に入賞を期待できるのは3つの理由から。
 1つは国内選考会一発だけの選手ではないこと。2008年東京で日本人トップとなって北京五輪は補欠で悔しい思いをした。その後福岡やオタワでも好成績を残す一方、崩れたレースもあった。そして今年の東京でさらにワンランクアップした。試行錯誤を経て身につけた強さという点が評価できる。
 2つめはトレーニングの流れが上手く行っていること。東京前の丸亀ハーフマラソンもそうだったが、東京後の仙台やぎふ清流、札幌などハーフマラソン、トラックのホクレンDistance Challenge連戦など、きっちりと走っている。記録的にまずまずということもあるが、「こう走りたい」とレース前に話した通りに走れている。これはトレーニングが予定通りに進んでいる証だろう。
 藤原は当日の走りのプラン(後述)をかなり以前から決めていた。練習の状況を見て判断する方法もあるが、世界の現状を見て“こう走りたい”と決め、そのためのトレーニングができていると見て良い。
 3つめは藤原のメンタリティー。実業団チームを飛び出して、トレーニング面などセルフプロデュースをするようになった。それに加えて藤原の、ボルト(ジャマイカ)のようなお祭り好き的なキャラクターが有利に働く。「期待されているのに失敗したらどうしよう」という思考はまずしない。“ここで一発当ててやろう”という積極的な姿勢で臨んでいるはずだ。

 レースはハイペースで進む可能性が高い。過去のオリンピック、世界陸上を見ると女子はスローペースで始まる(ラドクリフが飛ばした2005年ヘルシンキ世界陸上だけが16分台で入っている)。それに対して男子は、2008年以降のオリンピックと世界陸上は2時間6〜7分台の優勝記録になっている。
 藤原は「先頭集団で走ること以外考えていない」という。北京五輪のように14分30秒台に上がる区間があった場合(下記の表参照)はついて行かない方が賢明だと思うが、15分をちょっと切るくらいならついていく。そして、どこか良いタイミングで集団から離れる。
 高速化の進んでいる男子マラソンだが、夏のマラソンで最後まで押しきれる選手は少ない。実際、北京五輪も3位は2時間10分台、ベルリン世界陸上は3位こそ2時間8分台だが4位は2時間10分台。テグ世界陸上は2位が2時間10分台だ。いっぱいになるまで集団でレースを進めた選手を、終盤でかわしていく。ゲブルセラシエ(エチオピア)を抜いた東京マラソンと同じシーンを、何度も再現できるだろう。
 当初は「2時間7分台が目標」と話していた藤原。上記の走り方で2時間7分台ならメダル獲得も可能になる。その走りをするためのトレーニングを積んできている。東京マラソンでも賞金などがモチベーションにした。「ここでメダルを取ったら○○だな」という心理状態が足を動かすかもしれない。もしかすると、という期待はある。
 ただ今大会は、ロードでも好記録が大量に出ている。先頭集団の外国勢7〜9人がそのまま走りきってしまうような予感もする。その場合はどうしようもない。なんとか、入賞できるように頑張るしかない。

2008年以降のオリンピック、世界陸上の5km毎通過タイム&スプリット
大会 選手 記録 5km 10km 15km 20km 25km 30km 35km 40km 中間 後半
2011
テグ
世界陸上
A・キルイ 2:07:38 15:58 31:21 46:28 1:01:42 1:16:25 1:30:43 1:45:23 2:00:38 1:05:07 1:02:31
15:58 15:23 15:07 15:14 14:43 14:18 14:40 15:15
堀端宏行 2:11:52 15:59 31:22 46:29 1:01:43 1:16:43 1:32:02 1:48:08 2:04:37 1:05:08 1:06:44
15:59 15:23 15:07 15:14 15:00 15:19 16:06 16:29
2009
ベルリン
世界陸上
A・キルイ 2:06:54 15:10 30:09 44:58 59:42 1:14:38 1:29:43 1:44:56 2:00:10 1:03:03 1:03:51
15:10 14:59 14:49 14:44 14:56 15:05 15:13 15:14
佐藤敦之 2:12:05 15:10 30:11 45:04 1:00:25 1:16:08 1:32:16 1:48:23 2:04:58 1:03:51 1:08:14
15:10 15:01 14:53 15:21 15:43 16:08 16:07 16:35
2008
北京
五輪
S・ワンジル 2:06:32 14:52 29:26 44:37 59:10 1:13:58 1:29:14 1:44:37 1:59:54 1:02:34 1:03:58
14:52 14:34 15:11 14:33 14:48 15:16 15:23 15:17
尾方 剛 2:13:26 15:04 30:26 46:01 1:02:11 1:18:22 1:34:10 1:50:20 2:06:34 1:05:43 1:07:43
15:04 15:22 15:35 16:10 16:11 15:48 16:10 16:14

 山本は“選考会一発”の選手なので未知数だが、今後2時間7分、6分台と強くなっていく選手なのかもしれない。その第一歩がロンドン五輪となれば、16位以内という健闘も期待できる。
 テレビ番組でケニア選手と比較されて“遅い選手”のサンプルとして紹介された。それなりの理由があって協力したと思われるが、選手としては屈辱だっただろう。意地を見せてほしい。
 中本は2011年のびわ湖(4位・2時間09分31秒)、テグ世界陸上(10位・2時間13分10秒)、今年のびわ湖(5位・2時間08分53秒)と、3レース連続で力を発揮している。12位以内に粘る可能性もある。
 2人とも藤原ほど速いスピードの練習ができているとは思えないので、藤原よりも早い段階で先頭集団から離れ、マイペースで走る戦略になるだろう。

 女子は16位の木崎良子(ダイハツ)が最高順位だった。
 アフリカ勢とは総合力の差で、今の日本選手の力ではどうしようもないと感じられた。ロシア勢、中国勢、ヨーロッパ勢にここまで差を開けられたのは、本番で力を発揮できなかったからだろう。トレーニングに問題があったのか、当日の戦術に問題があったのか、精神面に問題があったのか、それはわからない。何かしらの理由で力を出せなかったから入賞を逃した。
 男子も同じような感じだろう。アフリカ勢に力を出されたら勝てない。だが、藤原がきっちり力を出し切れば欧米勢を抑えて入賞は可能だと思う。


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