2012/8/4 ロンドン五輪展望
2日目(8月4日)午後の部
男子20kmWにテグ世界陸上8位の鈴木が出場
1時間20分未満16人という状況で
テグのような
先行策はあるのか?

 男子20kmWの最初の関心は、テグ世界陸上8位入賞のの鈴木雄介(富士通)がロンドンをどう歩くか、だろう。テグのときのような飛び出しがあるのか?

 テグでは最初の5kmがイタリアのルビノと2人で21分03秒。3位の中国選手に5秒差をつけていた。10kmは40分58秒の通過でルビノを3秒リード。3位集団には35秒差をつけた。そこから後続が追い上げ20kmは3番手の通過で1時間00分52秒。フィニッシュでは1時間21分39秒で8位に踏みとどまった。その入賞でロンドン五輪代表にも内定した。
 5km毎でいうと
   21分03秒(21分03秒)
   40分58秒(20分55秒)
1時間00分52秒(19分54秒)
1時間21分39秒(19分47秒)
 という通過タイムとスプリットタイム。鈴木が飛ばしたというよりも、集団がスローの展開になったので、ルビノを利用して自分のペースで歩いた鈴木が結果的に前に出る形になった。

 鈴木はヒザを痛めて今年2月の日本選手権20kmWは欠場。5月の東日本実業団5000mWが復帰レースとなり、20分07秒41で2位。森岡紘一朗(富士通)には20秒差をつけられたが、同学年ライバルの藤澤勇(ALSOK)には10秒勝った。
「どこまでいけるか不安があり、テグ以上に緊張しました。その状態でも20kmWの4分ペースで5000mを歩けたので、これから良い練習ができればオリンピックで戦えます」

 ロンドン五輪でテグのように飛び出すことがあるのか、という問いには次のように答えた。
「プランは立てずに臨みます。テグで自分の感覚で行ったらイタリア選手と2人になったんです。スタートしてみないとなんとも言えません」
 この話を聞いたのは東日本実業団のときなので、その後の練習のできでどうなっているかわからないが、基本的にはこの考え方だろう。練習がしっかりでき、体調も良ければ、結果としてスタート後のリズムが速くなる。

 次のコメントからも、先行すると決めつけていないことがわかる。
「これからスピードを戻して、オリンピックの前半を余裕を持ってつけるように練習していきたい。今回(東日本実業団)のレースも感覚的には後半落ちていません。中盤までつければ戦えると思います」

 シーズンベストを見ると1時間17分台の選手が3人、18分台が3人、そして19分台が2人。自己ベストでは1時間20分未満が16人もいる。普通に戦ったら入賞は難しい状況だ。
 その状況では意表をついた先行策も有効だと思われるが、“後半落ちない”感覚を練習で持つことができれば、その戦法もまた有効だろう。

 なお、優勝候補は過去の実績でボルチン(ロシア)とした。北京五輪、ベルリン世界陸上、テグ世界陸上と3連勝している勝負強さはただ者ではない。5月のワールドカップ競歩では10位と敗れたが、3カ月の間に立て直してくるだろう。
 日本勢では鈴木が国際大会の実績でリードしているが、自己ベストでは藤澤の方が上であるし、西塔の勢いも頼もしい。
 男子100mは山縣亮太(慶大)が準決勝に進出した。日本選手権4連勝の江里口に期待が集まったなか、5月にケガをしたこともあり、肩に力が入らずに臨めたのは確かだろう。リラックスして歩ける藤澤、西塔が上の順位を取る可能性もあるだろう。

佐藤は“勝ちパターン調整”でどこまで食い込めるか

 男子1万mには佐藤悠基(日清食品グループ)が出場する。
 今季の佐藤悠基トラック全成績は以下の通り。

4月20日 マウントサックリレー5000m1位・13分40秒91
4月29日 カージナル招待1万m16位・27分57秒07
5月19日 東日本実業団1500m2位・3分47秒27
5月27日 日体大長距離競技会1位・13分43秒01
6月9日 日本選手権1万m1位・28分18秒15
6月18日〜 サンモリッツ(スイス)で高地合宿
7月5日 Sollentuna GP(ストックホルム)5000m2位・13分28秒79
7月13日 ロンドン・ダイヤモンドリーグ5000m10位・13分43秒43


 カージナルは日本記録更新を狙った試合だったので失敗レースだが、ぎりぎり27分台だけはキープした。
 東日本実業団の1500m、5月末の記録会5000m、そして日本選手権1万mというのは昨年と同じ流れ。「スピードのある動きをしておくことで、本番の1万メートルで最後まで余裕ができた」(佐藤)と分析。それを実行して日本選手権2連勝と、“勝ちパターンの調整”を身につけた。
 昨年もその流れで世界陸上に挑みたかったが、7月に日本でアジア選手権があったため断念。今季は日本選手権で代表が決定し、国際大会本番に向けても“勝ちパターン”を試みることができる状況になり、上記のサンモリッツ以降の流れとなった(サンモリッツの高地合宿は入社後何回か試している)。
 ロンドン・ダイヤモンドリーグは優勝タイムが13分06秒04。日本記録を狙うには良いペースだったが、本番3週間前ということで、そこまで上げ切れていなかった。中盤までハイペースのレースを走ったことで、良い刺激が入ったはず。
 自己ベストとシーズンベストを比較しても仕方のない種目。ハイペースで入ったらある程度はつき、どれだけ余力を残して離れ、自身の力を出し切ることで何人を拾うことができるか。テグの二の舞を演じなければ、それなりの順位になるはずだ。

 男子20kmW、1万m以外では女子円盤投、男子走幅跳、女子七種競技、女子100mで優勝者が決まる。

 女子円盤投は前日の予選で65m台が4選手、64m台が2選手。これだけを見ると混戦が予想されるが、ダイヤモンドリーグの安定度(5戦4勝、2位1回)でペルコヴィチ(クロアチア)を優勝者と予想した。
 ペルコヴィチは22歳と若く、世界陸上では入賞がない。経験が不安視されたが、ヨーロッパ選手権は今年で2連勝。それに加えてダイヤモンドリーグでの圧倒的な成績。
 今季世界リストでは3位だが、風の影響が大きい種目だけに、記録よりもダイヤモンドリーグ戦績を評価した。

 男子走幅跳は前日の予選で8m10の通過記録を超えたのは全米選手権優勝のグッドウィン(アメリカ)とダ・シルバ(ブラジル)の2人だけ。気象状況も悪かったのだろうが、レベルが下がっているのも否定できない。
 その状況でも関係者の評価が高いのが昨年の世界陸上2位のワット(オーストラリア)。今季の記録では8m28で6番目だが、ダイヤモンドリーグでは3戦2勝。ニューヨークシティ大会では目視で8m50以上の跳躍があった。
 混戦を抜け出す可能性は一番高い。

 七種競技は6種目目のやり投が終わってエニス(イギリス)が5971点でトップ。自己記録時(6906点)のときより+41点だという。2位はスクイイテ(リトアニア)で5783点。188点差があるのでエニスの金メダルは確実か。
 エニスは800mを2分05秒69以内で走れば、史上4人目の7000点オーバー。2007年大阪世界陸上のクリュフト(スウェーデン)以来の快挙となる。

 女子100mは準決勝が終了。
 1組(±0)でジーター(アメリカ)が10秒83、キャンベル・ブラウン(ジャマイカ)が10秒89。2組(+1.2)でフレイザー(ジャマイカ)が10秒85。実績から考えてもこの3人の争いになりそう。準決勝のゆとりという点では、フレイザーが一番あったように感じた。
 伏兵的な存在が3組(+1.0)を10秒92でトップ通過したオカグバレ(ナイジェリア)。準決勝はスタートで失敗したが、ロンドン&モナコと2連勝したダイヤモンドリーグでは、もう少し良いスタートだった。後半に大きなストライドでグングンと迫ってくる走りは圧巻。解説の朝原宣治さんがダークホースとしたように、上位候補3人が終盤に力み合って伸びを欠くと、番狂わせがあるかもしれない。


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