2012/8/3 ロンドン五輪展望
1日目(8月3日)午後の部
女子100m予選に「
4年間準備をした」福島が連続出場
タイプの異なる3選手で挑む女子1万mは入賞も?

 午後の部に出場する日本選手は以下の4選手。

女子100m予選5組:福島千里(北海道ハイテクAC)
女子1万m決勝:吉川美香(パナソニック)
          :福士加代子(ワコール)
          :新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)


 女子100m予選は7組あって3着+3が4日の準決勝に進出できる。福島の出場する5組は以下のようなメンバー。
2 2116 Dana Abdul Razak   IRQ 11.89 11.88
3 2642 Toea Wisil        PNG 11.49 11.49
4 3287 Allyson Felix      USA 10.92 10.92
5 1247 Rosangela Santos   BRA 11.21 11.21
6 2126 Allison Peter      ISV 11.17 11.17
7 1796 Ruddy Zang Milama  GAB 11.03 11.03
8 1786 Veronique Mang    FRA 11.32 11.11
9 2251 Chisato Fukushima  JPN 11.34 11.21


 フェリックス(アメリカ)と今季11秒03で走っているミラマ(ガボン)の1、2位は確定的。自己記録が11秒11から21までの4選手による3位争いとなりそうだ。
 今季の福島の調子では突破するのは難しいと言わざるを得ないが、明るい材料は7月に入ってやっと納得できる練習ができ始めたことだ。6月の布勢スプリント後は「スタート後の加速局面で上手く乗ることができない」と、今季のそれまでのレースと同じコメントを繰り返した。
 3月の世界室内遠征中にインフルエンザにかかったり、腰痛が出たりと、シーズンイン前に思ったような練習が積めなかった。足裏の硬い新スパイクが、スタート時に以前のように曲げられなかった影響もあったかもしれない。そういった事情で鳥取までは「粗削り」(福島)の状態でレースに出ていた。
「できていた(速く走っていた)感覚は覚えているので、それを信じてやるだけ」と自身に言い聞かせるように話してた。

 それが7月17日の陸連合宿公開練習の際は次のように話した。
「最近の練習では(スタートと加速が)良い感覚でできています。元とは違うように良くなりました。前が良かったから戻そうとは考えていなくて、今の感じでどう良くなるかを考えていました。正直、日本選手権まではやりたいスタートができなかったので、比べものになりません。鳥取は、今の良い感覚に変わるときでした。努力感なく進む感じが出てきたんです。スムーズとはちょっと違いますが、努力してスピードが上がるのでなく、同じ努力でスピードが上がる感じですね」
 懸案だった改良スパイクに関しても、改造第2バージョンが良い感じで使いこなせているという。カーボンを使用しながらも、前足部は適度に曲げやすくなり、スタート時にもしっかりと地面を押せるようになった。

 今季の福島は何度か「4年間準備してきた」というニュアンスのコメントをしている。4年前の北京で56年ぶりに女子100mに出場。その時点の力ではなく、将来を期待されての代表入りだった(その年に日本タイ記録を出して伸び盛りだった)。
 北京五輪では「何もできなかった」(福島)が、その思いが福島をさらに大きく成長させた。100mと200mで3回ずつ日本記録を更新(現在の日本記録は11秒21と22秒89)。2010年はアジア大会で日本人初の女子ショートスプリント2冠を達成した。昨年は世界陸上で日本人初の100m、200mでの準決勝進出を果たした。
 福島の「4年間準備してきた」は、調子が上がらない状態が続いている今季だが、4年間をかけて準備してきたのだから大丈夫、という意味だろう。「4年間準備してきた」のだから結果を出さないといけない、という気持ちになっていたら力みにつながる。今回は200mも4×100 mRもあるのだから、2度目のオリンピックを福島らしくのびのびと駆け回ってほしい。

 女子1万mは先行タイプの新谷、イーブン・タイプの福士、そしてラストタイプの吉川と、異なるタイプの3選手が揃った。
 このメンバーで新谷の先行策が通用するかどうか。兵庫リレーカーニバルのように序盤は自重して、スローだと判断した時点で一気に前に出るか。
「1万mにはもう出ません」と兵庫リレーカーニバル後に宣言し、日本選手権にも出場しなかった新谷。オリンピック本番で出場を決めた経緯については、いずれ取材して記事にする機会もあると思われる。

 福士は30分51秒81の自己記録(日本歴代2位)を出してちょうど10年が経つ。昨年30分54秒29を出すなど、走力は衰えていない。ただ、以前のような連戦はできなくなっていると永山忠幸監督が話していた。練習の組み立ても変わっていると思われるが、「1万mでも日本記録を」という思いの強さはすさまじい。
 ペースの上げ下げがある展開よりも、イーブンペースで進んだときに福士の力が発揮されるか。

 スローペースになった場合に期待できるのは吉川だ。日本選手権で5連覇したスピードというよりも、スピードの切り替え能力が高い。ここ数年をかけて長い距離に対応できるようになり、日本選手権で見せたように走力もついた。
 そして、吉川の一番の武器は気持ちの強さかもしれない。日本選手権は先に1万mが行われ、本命種目と位置づけた5000mが後に行われる競技日程だった。1万m出場に反対する意見も周囲にはあったが、吉川は自分の意思を押し通した。
「本命の5000mを控えていても、1万mも良いメンバーなので出たいんです。中途半端じゃないレースができそうですから。1万mと5000mを両立できたらと思っています。こだわっているのは5000mですが、距離も踏めていますし、去年の秋から1万mも楽しくなっているので、1種目に縛られず2種目を目指します。去年のボルダー合宿のあとカージナルを見て、1万mは簡単じゃないけど、自分もそこに加わりたいと思いました」
 福士の取り組みを見て、この種目で戦いたい気持ちが高まった。その福士とともに走るオリンピックという最高の舞台。吉川のテンションは最高に高まっているだろう。

 今季世界リストでは新谷が7位で吉川が8位。3選手の誰かが持ち味を生かせる展開になれば、入賞もあるだろう。

女子1万mはチェルイヨットvs.ディババ
ラスト1周は60秒を切る勝負か?
男子砲丸投はアメリカ勢が奮起?


 決勝種目は女子1万mと男子砲丸投の2種目(と七種競技の前半)。
 女子1万mはチェルイヨット(ケニア)とディババ(エチオピア)の対決が注目される。
 走力もあり、ラストスパートにも強いディババが北京五輪までは圧倒的な強さを見せていた。だが、チェルイヨットは07年の大阪世界陸上でロングスパートをかけながら敗れたことを契機に、「最後の200 mのスプリント勝負ができる練習を積んだ」と言う。その成果が昨年のテグ世界陸上での2冠という結果になって表れた。
 だが、意図的なのかどうかは不明だが、北京五輪以降はディババが調子を落としていた時期。今季はディババも復調気味で30分24秒39の今季世界最高でダイヤモンドリーグ・ユージーン大会に優勝した。
 ただ、今季チェルイヨットとの直接対決はない。チェルイヨットはドーハ、ローマ、ロンドンとダイヤモンドリーグは5000mで勝ち続けている。
 ディババ不在の間にラスト勝負に強くなったチェルイヨットと、復調しつつあるディババ。2人の対決は非常に興味深い。ラスト1周は60秒を切るスパートとなるか。

 男子砲丸投は午前中に予選が行われ、混戦模様を呈している。
 予選A組では昨年の世界陸上優勝のシュトアル(ドイツ)と、北京五輪金メダリストのマイェフスキ(ポーランド)が21mを超え、B組ではホッファ(アメリカ)が21m36と予選トップの記録を投げた。
 アメリカ勢はベルリン世界陸上でカントウェルが優勝したが、近年の五輪と世界陸上ではあまり記録が良くない。それで優勝候補をシュトアルとしたが、その評価をホッファが覆すか?


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