2012/7/21 ロンドン五輪結団式
過去最多の9人代表派遣の競歩
エリート選手成長のモデルケースとなった谷井への期待
ロンドン五輪の競歩代表9選手と過去最多になった。男子の20kmWと50kmW、女子の20kmWで各3人とフルエントリーをした。過去の大会では20kmWと50kmWを兼ねる選手がいたり、標準記録を3人以上が破っている種目でも代表は2人の派遣だったりした。
過去のオリンピック競歩種目で1種目に3人が出場したケースは、男子20kmWでは東京大会(1964年)と北京大会(2008年)、50kmWでは東京大会とバルセロナ大会(1992年)の4例のみ。女子20kmWは北京の2人が最多だった。
結団式では東京五輪代表だった石黒昇さんらと一緒に記念撮影をしていた。
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前列左から小坂忠広コーチ(陸連競歩部長)、石黒さん、鈴木茂雄元競歩部長、今村文男コーチ、中列左から大利久美、渕瀬真寿美、川崎真裕美、鈴木雄介、西塔拓己、後列左から森岡紘一朗、藤澤勇、谷井孝行、山崎勇喜 |
高野進強化委員長は6月の代表発表会見の席上、フルエントリーの理由を問われて単純明快に答えた。
「競歩という枠で選んでいるのではありません。他の種目でもそのレベルであれば当然選ぶということです。競歩は全員がA標準突破者で、1カ国3人のランキングで10番台に入っています。競歩は6人全員が他の種目よりランクが上なんです。落とす理由がない。西塔選手が選ばれるかどうかと皆さんも考えておられたと思いますが、他の種目の代表と比べても遜色ないレベルです」
そのなかで注目したい選手が谷井孝行(佐川急便)である。オリンピックと世界陸上で入賞した実績はないが、世界ユースで日の丸をつけた選手が、その後もしっかりと成長して代表になり続けるモデルケースとなった。
東京五輪が日本競歩の黎明期とすれば、上の写真に写っている小坂忠広コーチや今村文男コーチは、1980年代後半から1990年代の“競歩中興”の功労者。東京五輪の頃はわからないが、小坂・今村世代の競歩選手には“苦労人”のイメージが強い。競歩の社会的な認知度が低く、今村コーチなど飲食店でアルバイトをしながら日本代表に成長した。若い頃から注目されていたというよりも、年齢が行ってから活躍し始めた。
その点今の代表選手たち(特に男子)は、世界ユースや世界ジュニアで活躍した選手が、そのままシニアの国際大会でも活躍している。大学卒業後もスムーズに実業団入りできている。その先魁(さきがけ)となったのが、世界ユースの第1回大会(1999年)で銅メダルを取った谷井である。
谷井は世界ユースを皮切りに、世界ジュニアとユニバーシアードで入賞。種目も20kmWから50kmWと距離を伸ばし、昨年のテグ世界陸上では50kmWで9位と、入賞にあと一歩と迫った(競歩ロンドン五輪男子代表6選手の国際大会戦績参照)。
その点を結団式の際に質問すると、「高校2年で世界ユースに出場でき、世界ジュニア、ユニバーシアードと段階を踏んで出場できたのがよかったのだと思います。世界ユースがきっかけになりましたね」と話してくれた。
俗っぽく言えば“エリート街道”を歩んできたということになる。一見、順風満帆に見える競技人生だが“谷間”もあった。1学年下の山崎勇喜(自体学)の成長が谷井を上回り、2002年の世界ジュニアでも山崎の5位に対し谷井は7位。
アテネ五輪以降のオリンピックと世界陸上には揃って代表になっているが、期待されていたのはつねに山崎だった。実際、ヘルシンキ世界陸上、北京五輪と入賞したのは山崎の方だった。
また、歩型ということでは、下の世代の森岡紘一朗(富士通)や鈴木雄介(同)が失格の不安がないのに対し、谷井は(山崎もだが)国際大会では失格の可能性がある選手だった。そんな背景もあり、20kmWでは森岡に勝てなくなっていた。
「(競技人生で)一番落ち込んだのは北京五輪(20kmW)、ベルリン世界陸上(50kmW)と連続で失格した頃です。本当にどん底でした。気持ちも1回、切れかけましたね」
立て直すことができたのは、「家族の存在が大きい」と言う。2009年に結婚し、翌2010年には長女が生まれた。
「結婚して、家族ができたことで精神的に強くなったと思います。技術的な改善もできて、今年の自己新につながりました」
谷井は今年4月の日本選手権50kmWで3時間43分56秒の日本歴代2位をマークして、3度目のオリンピック代表を決めた。今季世界リストでは8位のタイムだ。毎日新聞の記事には、「集大成にしたい」というコメントも見られる。
「アテネ五輪は大学4年生のときで、“勢い”に任せて出ることができましたが、北京五輪の頃は完全にスランプでした。その2つの経験を生かすことができるのがロンドン五輪。落ち着いて、ケガをしないで、計画通りに臨めそうです。昨年のテグ世界陸上では9位で入賞にあと一歩でした。ロンドンの目標は1つでも順位を上げること。後半粘る展開ができればできると思っています」
今村コーチの世代が日本競歩の“中興”なら、昨年のテグ世界陸上で2種目で入賞し、9人の五輪代表を出した今は“競歩最強世代”。谷井には、その先魁となった選手にふさわしい結果を期待したい。
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