2012/6/23 日本学生個人選手権 第2日
大室が13秒54の日本歴代3位&学生歴代2位!
前編の予定
「大幅な自己ベストなので素直に嬉しいのですが、13秒54まで来たらA標準の13秒52が欲しかった」
男子110 mHで注目されたのは勝負の方だった。
織田記念で日本人1位の佐藤大志(青学大4年)、ゴールデングランプリ川崎で日本人1位の和戸達哉(中京大4年)、関東インカレ1部優勝の大室秀樹(筑波大4年)、そして昨年の日本選手権優勝者の矢澤航(法大3年)。日本選手権こそ1〜3位を社会人選手に譲ったが、学生陣も充実している種目である。
結果は大室の完勝だった。準決勝のスタートでは矢澤もよかったが、決勝の大室はその上を行っていた。1台目で明らかにリードを奪うと、2、3台目とさらに差を広げる。4人の中では後半型といえる佐藤も、前半から行けていた。2台目か3台目あたりで2位争いから抜け出て大室を追ったが、この日の大室は後続を寄せ付けない強さがあった。
速報タイマーは13秒55で止まった。すぐに正式計時が13秒54と発表される。
学生歴代では筑波大の先輩の大橋祐二(現ミズノ)の13秒55を上回り、内藤真人(現ミズノ)の13秒50についで2位。日本歴代でも田野中輔(富士通)と大橋の13秒55を上回り、谷川聡(当時ミズノ)の日本記録の13秒39、内藤の13秒43に続く歴代3位という快記録だった。
「フィニッシュしたらスタンドからオーっという歓声があがり、タイムが出たのかな、と思って確認したら13秒54という数字が目に入ってきました。自分の感覚ではスタートは良かったのですが、中盤では佐藤君と腕が軽く当たったりして、差がないのかな、と思っていました。自分でもちょっとビックリしています。大幅な自己ベストなので素直に嬉しいのですが、13秒54まで来たらA標準の13秒52が欲しかったですね。来年のモスクワ(世界陸上)もA標準が13秒52となるかもしれませんし。あとは日本選手権のことがあって……」
大室は2週間前の日本選手権に出場しなかった。ロンドン五輪B標準は13秒60で、今回のタイムを日本選手権で出して優勝すれば、代表に選ばれた可能性は高い。だが、勝負に参加しなかった選手が優勝できたとは言えないし、「日本選手権に出ていても13秒5台は出せなかった」と大室は言う。
2週間遅れの標準記録突破に関して、悔しいという気持ちは大室自身にはない。
日本選手権不出場は、故障があったわけではなく、単純なエントリー漏れ。筑波大は日本選手権やグランプリ大会などは、主務ではなく選手が個々にでエントリーする。現在はネット上でも申し込みができるようになっていて、5月22日の午前0時が締め切りだった。大室が気づいたのはその6時間後だったという。
「レースをどう走るか、ということばかりに頭がいってしまい、(エントリーの締め切りに)気づきませんでした。確認を怠ってしまったということは、それだけの思いしかなかったということだと思います」
冷静に語る大室だが、実際はどうだったのだろう。ロンドン五輪は「大学に入学したときから一番の目標にしてきた大会です。今年の最大目標でもありました」と位置づけていた。その大会に挑戦する場が自身のミスでなくなってしまう。どこに気持ちをぶつけていいのかわからなかったのではないか。
しかし大室は、苦しかった胸中をあまり話そうとしない。感情の揺れを明らかにしないのが大室のスタイルなのだろう。すでに気持ちの整理がついていることでもあり、記録を出した後の取材だったこともあるかもしれない。
「エントリーミスをした翌日から、個人選手権で記録を出そう、と切り換えました。過ぎたことは過ぎたこと。終わったことは忘れて、今後のことを考えようと思いました。『記録、記録』とモチベーションを高められたのがよかったですね」
もう1つ自身を納得させられた理由は、春先に故障があったこと。足首を痛めて練習に2週間半から3週間、影響が出た。4月の織田記念はB決勝に回って13秒83(+1.1)、5月の水戸招待は3位で13秒78(−0.3)。ともに佐藤が日本人1位だった。
「今もまだ痛みが完全になくなってはいません。試合を刺激の練習代わりにしています」と、関東インカレの際に大室は話していた。
関東インカレで優勝はしたが記録は13秒88(±0)。矢澤には0.01秒差で勝ったが、2部優勝の佐藤が13秒62(+2.0)だった。風が違うので比較は難しいが、大室の状態が完全になっていないのは明らかだった。
「日本選手権にもし出場していても13秒5台は出ていなかったと思います。今日、記録が出たので言えることですが、学生個人選手権の方に体の状態を合わせられました。日本選手権には合わせられなかったと思います」
筑波大のエントリーやり方は、選手を甘やかさないようにするのが目的だろう。グラウンドで優秀でも社会的に何もできないという人間では、選手としても天井が低くなる。だが、今回は結果的に、それが裏目に出た。昨年もある有力女子選手がエントリー漏れで出場できなかった。
谷川聡コーチは「そこに気を配れなかったコーチも問題」と責任を認めた上で、現行のシステムを変更することに決定したという。「マネージメントを組織として、しっかりとやります。今後は部として申し込みをすることにしました」 |
後編
大室の特徴と今後の可能性
谷川コーチの13秒39に挑戦できるのか
につづく予定
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