2012/3/3 びわ湖マラソン前日
旭化成新旧エースの走りに注目
“勢い”の堀端と“経験”の佐藤


 旭化成の歴史は偉大だ。過去8人の男子マラソン代表(旭化成サイト参照)。ここ30年間を見ても宗兄弟、谷口浩美、森下広一、佐藤信之、川嶋伸次と日本男子マラソンに名を残す選手を輩出し続けている。だが、2000年シドニー五輪の佐藤信之と川嶋が最後。21世紀初代表の期待がかかるのが、新旧エースの堀端宏行と佐藤智之である。

旭化成最高記録更新も期待できる堀端
2時間07分35秒
 “勢い”があるのは堀端だ。昨年の世界選手権7位入賞。その結果で代表に選ばれる可能性もあったが、「7位ではアピールという点で微妙。ロンドン五輪を見据えたとき、丸1年マラソンをやらないとレースに対する感覚にブランクもできる」と、積極的な姿勢でびわ湖出場を決めた。
 練習もこれまでの旭化成選手で最高クラスのものができている。40km走は12月以降で8本を、予定通りにこなした。本人は「マラソンはまだ6回目。(会見で言ったように)練習の手応えはありますが、これだけできたからこのタイムで走れるという物差しはできていません」というが、宗猛監督は「宗兄弟よりも器が大きいですか?」という質問に対して次のように話した。
「全然違います。僕らが40km走で大会前に1回か2回行ければいいタイムで、彼は8回行っちゃうんです。しかも余裕いっぱいで」
 旭化成伝統の高卒選手の叩き上げ。高校時代は無名だったのは、成長が遅かったのだろうか。それとも競技に取り組む意識が低かったのか。いずれにせよ今は、旭化成歴代の名ランナーのなかでも1、2を争い練習ができている。
 旭化成最高記録は児玉泰介が1986年に走った2時間07分35秒。当時は日本記録だった。その後、谷口と森下由輝が2時間7分台で走っているが、児玉の記録は超えられなかった。堀端には26年ぶりの旭化成記録更新の期待もできそうだ。

堀端宏行のマラソン全成績
回数 月日 大会 順位 記 録
1 2008 2.17 東京 9 2.11.47.
2 2009 3.22 東京 22 2.18.27.
3 2010 8.29 北海道 20 2.26.55.
4 2011 3.06 びわ湖 3 2.09.25.
5 2011 9.04 世界選手権 7 2.11.52.
佐藤智之のマラソン全成績
回数 月日 大会 順位 記 録
1 2003 2.23 延岡西日本 1 2.13.02.
2 2004 2.08 東京国際 5 2.09.43.
3 2005 3.06 びわ湖 16 2.14.21.
4 2005 8.28 北海道 4 2.16.25.
5 2006 2.05 別大 2 2.11.46.
6 2006 12.03 福岡国際 10 2.12.29.
7 2007 2.18 東京 2 2.11.22.
8 2007 8.25 世界選手権 13 2.20.53.
9 2008 3.02 びわ湖 7 2.09.59.
10 2008 12.07 福岡国際 4 2.09.59.
11 2009 3.22 東京 6 2.13.12.
12 2009 12.06 福岡国際 31 2.23.59.
13 2010 3.07 びわ湖 2 2.10.07.
14 2010 11.27 アジア大会 7 2.18.24.
15 2011 12.04 福岡国際 40 2.25.48.
  2012 2.12 延岡西日本 dnf ペースメーカー

「経験でカバーできればオリンピックが見えてきます」と佐藤智之
 堀端が台頭する前に、旭化成のエースを担ってきたのが佐藤智之だ。マラソン全成績からもわかるように2004年東京国際マラソンでサブテンを達成。2度目のマラソンだった。佐藤智之も高卒選手の叩き上げで、ニューイヤー駅伝でも何度も最長区間を任されるなど(この点が堀端と違う)、指導陣からもエースに指名された。マラソン前になると宗猛監督はつねに「谷口、森下(広一)以上の練習ができた」と期待を込めた。
 実際、日本人1位は何度か取り、07年の世界選手権と10年のアジア大会代表になった。その間、久保田満や清水将也も世界選手権代表になったが、旭化成のエースは紛れもなく佐藤智之だった。

 しかし、当たりはずれがあるのも事実で、日本のエースにはなりきれなかったというのがここまでの佐藤智之である。今年1月で31歳になった。佐藤智之自身も「オリンピック挑戦は最後のチャンスと思っている」。
 しかし昨年12月の福岡国際マラソンは40位(2時間25分48秒)と大敗。レース後に発熱してすぐに病院に行ったところ、単なる風邪や疲れではなく、「感染症」(宗猛監督)と診断された。福岡の前は「かなり良い練習」(同)ができていたという。
「3、4日寝込んだのですが、寝ている間に東京かびわ湖に出場することを決めました。どこかでもう一度挑戦しないと悔いが残ると思ったんです」

 だが、練習は完璧にできたわけではない。一緒に練習したのが堀端だったこともある。
 「量は堀端と変わりませんが、質的には見劣りがします。堀端が良すぎましたね」
 福岡国際マラソン前に比べるといまひとつという感じもある。
「今までのマラソンは、ほぼ完璧に練習をやって臨んでいましたが、今回は完璧まではつくり上げられませんでした」
 それでも佐藤智之に、後ろ向きなところは感じられない。
「悪いなりにしっかりと練習ができましたし、体調は上がってきています。練習のタイムが堀端より良くないといっても、今までの自分の練習と比べたら遜色ない。レースになったらどうなるかわかりません」
 宗猛監督も練習が完全ではなかったことを、「かえって気負いがなくて良いかもしれない」と話す。
「(堀端よりも練習がよくなくても)明日はチャラだと思っています。自分の特徴はマラソン経験の多さ。良かったこともありますが、悪かったことが多い。そういった経験でカバーできればオリンピックが見えてきます」

 旭化成の輩出した名ランナーたちの系譜に、堀端宏行が名を連ねる可能性は高い。だが、佐藤智之にもその資格は十分ある。


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