日本選手権2011・日付毎展望
第2日・6月11日編
室伏、澤野、吉田とフィールドに成田高OBが登場
トラックでは男子の200 mと400 mH、女子100 mに標準記録突破者
●女子砲丸投 エントリーリストwSP
豊永陽子が勝てば9回目の優勝となる。本人はすでに高校での指導がメインになっていて、現役選手としてのパフォーマンスに大きなこだわりがあるわけではない。実際、春季グランプリでは昨年は白井裕紀子に敗れ、今年は出場していない。しかし、5月に1試合をこなして6月の日本選手権に臨むパターンは確立されている。今年も16m前後はきっちりと投げてくるだろう。豊永に勝つとしたら最低でも15m台後半を投げる必要があるが、その可能性があるのは白井ただ1人。豊永の記録次第では伯仲した投げ合いが見られるかもしれない。兵庫2位の大谷優貴乃、昨年14m94の針谷瑠里のがどこまで記録を伸ばせるか。
=陸上競技マガジン6月号記事。以下同
■世界選手権標準記録 18.30/17.30
■突破者 なし
国士大OB・現役の上位独占なるか
優勝者予想は豊永陽子(生光学園ク)とした。関西実業団に出場しなかったため動向がわからないが、上記展望記事に書いたように16m前後は投げてくると思われる。白井裕紀子(滋賀陸協)の関西実業団は15m10でシーズンベスト更新はならなかったが、15m台前半はいつでも投げられることを示した。大谷優貴乃(国士大)の関東インカレ優勝記録は14m74(兵庫リレーカーニバルは14m92)。豊永、白井、大谷と国士大OB・現役が1〜3位を独占するか。
●女子三段跳 エントリーリストwTJ
吉田文代が織田記念で5位(12m71)と敗れ、7連勝に黄信号が灯った。試合前から違和感のあった左脚ふくらはぎを1回目の跳躍で痛め、2回目以降を棄権した。しかし「いつもより良い動きが出過ぎましたね。まだ痛みがあるので、本格的な練習再開は来週(5月第2週)あたりから」と、吉田は落ち着いている。と同時に「日本選手権は連覇が懸かっています。譲る気はありませんよ」と、強い意思も見せた。吉田を止めるとしたら織田記念日本人1位(13m07w)の三澤涼子か。冬期トレーニングが「シーズン並の感覚で練習ができました」と手応えを得ている。学生の竹田小百合、前田和香にも13m20以上の跳躍を期待したい。
■世界選手権標準記録 14.30/14.10
■突破者 なし
吉田の調整力に期待
吉田文代(成田空港)が東日本実業団に間に合わなかったため回復具合がなんともいえないが、優勝者に予想した。上記展望記事に書いたように日本選手権に懸ける気持ちの強い選手なので、間に合わせてくると思われる。成田空港所属になってからはフルタイム勤務のなかで、日本のトップレベルを維持してきた。少ない時間で調整することに不安はないだろう。ベテランの調整力に期待したい。
●女子やり投 エントリーリストwJT
昨秋のアジア大会金メダリスト、海老原有希が貫禄を見せそうだ。日本選抜和歌山大会では雨のなか57m68で優勝。2位以下との力の差を示した。61m56の日本記録保持者。「どの試合でも60mを超えないと、その上が見えてきません」という言葉通り、5月8日の富山カップでは60m32のサード記録をマークした。日本選手権では60m12の大会記録を更新しそう。2位を争うのは和歌山2位(53m39)の宮下梨沙と、同3位で57m19の記録を持つ吉田恵美可か。和歌山では宮下が3m11差で勝っているが、好条件の下だったら勝負はどう転ぶか。昨年57m31のジュニア日本記録をマークした佐藤友佳は、和歌山では46m79に終わっている。復調のきっかけをつかみたい。
■世界選手権標準記録 61.00/59.00
■突破者
A 海老原有希 スズキ浜松AC 61.56 2010/11/25 アジア大会
2位争いは宮下がリード
昨年からの海老原有希(スズキ浜松AC)の高度安定ぶりを見ると、日本選手間で負けることはちょっと考えられない。焦点は大会記録の60m12、自身の日本記録の61m56の更新がなるかどうか。2位争いを一歩リードしたのが、関西実業団で55m66を投げた宮下梨沙(大阪薫英教)。2位の吉田恵美可(大和ガス)に6mの差をつけた。
●男子棒高跳 エントリーリストmPV
春の2戦は澤野大地の強さを示す結果となった。織田記念は5m50で優勝を決めると5m72のA標準にバーを上げた。ゴールデングランプリ川崎も5m60で優勝を決めると5m72に。両大会ともクリアならなかったが、どちらも惜しい跳躍だった。澤野も「いいところまで来ています。感覚的には本当に紙一重のところです」と悔しがる。澤野がA標準を跳べば、2番手の選手がB標準を跳んだときに2人の派遣が可能となる。ところが、その候補である鈴木崇文が2試合とも記録なし。荻田大樹は5m30と5m25。故障明けの笹瀬弘樹は川崎で記録なし。3選手が最低でも5m40以上に成功しないと、全員の試技が終了してから澤野が登場することになりかねない。
■世界選手権標準記録 5.72/5.60
■突破者
B 沢野大地 千葉陸協 5.62 2011/4/16 マウントサックリレー
2位争いが混戦に
澤野大地(千葉陸協)はゴールデングランプリ川崎後は試合に出ていないので動向が不明だが、昨年のように記録なしの失態を演じることはないだろう。心配なのは前回世界選手権代表だった鈴木崇文(ミズノ)で、東日本実業団でも最初の5m20が跳べず3試合連続記録なしに終わっている。2位争いは織田記念2位のときに5m40を跳んだ永田純也(横浜市陸協)、東日本実業団に5m40で優勝した川口直哉(モンテローザ)が有力。荻田大樹(チームミズノアスレティック)も織田記念5m30、ゴールデングランプリ川崎5m25と跳んでいるので、きっかけさえつかめば5m40〜50は難しくないはずだ。関東インカレ(優勝・5m20)でケガから復帰した笹瀬弘樹(早大)が、どこまで記録を戻してくるか。
●男子走幅跳 エントリーリストmLJ
菅井洋平と猿山力也の対決となりそうだが、現時点では菅井が一歩リード。4月中旬のマウントサックで猿山が8m05(+0.9)の日本歴代10位と好調な出足を見せた。だが、兵庫リレーカーニバルとゴールデングランプリ川崎では菅井が2連勝。記録は7m96(+0.5)と8m05(+2.1)で、猿山には10pと18cm差をつけた。菅井も右足底の痛みで冬期練習が完璧ではなかったが、持ち前の勝負強さを見せている。しかし、昨年から安定度が増した猿山も、助走スピードが魅力で一発を秘める。勝った方が8m10のB標準をクリアしたいところ。兵庫、川崎とも日本人3位の品田直宏、学生の皆川澄人、出遅れている荒川大輔らにも8mを期待したい。
■世界選手権標準記録 8.20/8.10
■突破者 なし
直近試合では猿山優勝だが…
東日本実業団で猿山力也(モンテローザ)が菅井洋平(ミズノ)を破って優勝。7m92のセカンド記録で、「感覚的には8m10は行くと思います」と自信を得た。ただ、ここまでの勝率を考えると、優勝者予想は菅井となるのだが。兵庫リレーカーニバル、ゴールデングランプリ川崎と連続日本人3位の品田直宏(濃飛倉庫運輸)はヘルニアで右足に痺れが出ているとのこと。自身のブログ★にそのことをアップしているので、本番には間に合わせられる自信はあるのだろう。
●女子3000mSC エントリーリストw3000sc
この種目が日本選手権で実施され始めて6年目。日本記録保持者の早狩実紀に無傷の6連勝が懸かっている。その早狩は例年同様スロー調整で、春季グランプリには出場していない。しかし、これも例年同様アルバカーキ(アメリカ)などで順調にトレーニングを積んでいる。日本選手権でも例年同様、先頭を走る姿が見られるだろう。日本選抜和歌山大会では斉藤梓が10分08秒47で優勝。日本歴代2位を持つ荒井悦加が姿を見せていないだけに、早狩に挑む一番手のポジションに躍り出た。注目は和歌山3位だった桑城奈苗で、初3000mSCながら障害に足を乗せないハードリングで前半を独走した。「日本選手権ではトップを取りたい」と意欲的だった。
■世界選手権標準記録 9.43.00/9.50.00
■突破者 なし
桑城の伸びが戦況を左右
早狩実紀(光華学園AC)が今季はまだ3000mSCに出場していない。ロードレースなどでマイペース調整を行っているが、これはもうベテランならではのやり方。日本選手権にはきちっと合わせてくるだろう。ただ、日本記録を破る勢いがあるかどうか。桑城奈苗(シスメックス)が3000mSC2戦目の関西実業団で10分00秒16の日本歴代4位をマークした。桑城の“伸びしろ”次第では早狩の独走を阻止できる。9分50秒台の優勝記録になったら、勝負はどう転ぶかわからない。
●男子ハンマー投 エントリーリストmHT
室伏広治の17連勝は既定路線。ゴールデングランプリ川崎では78m10で、期待通りA標準を突破した。基本的な部分が確認でき、今後は投、走、跳の各トレーニングの強度を上げていくという。日本選手権での3年ぶりの80mスローも期待できそうだ。だが、順位の興味は2位争いの方が大きい。土井宏昭に“10年連続2位”が懸かっているからだ。室伏の存在を考えたら偉業といえるだろう。だが、静岡国際では野口裕史が69m58で日本人トップ。土井は68m56で日本人2位。ベスト記録では74m08の土井がリードしているが、昨年のシーズンベストでは土井の71m83に対し、自己新を出した野口が71m58と迫っている。土井と野口の投げ合いも注目の一戦だ。
■世界選手権標準記録 78.00/74.00
■突破者
A 室伏広治 ミズノ 78.10 2011/5/8 ゴールデングランプリ川崎
“裏日本選手権”にも注目を
室伏広治(ミズノ)が出場予定だった5月30日のゴールデンスパイク(ワールドチャレンジ第8戦・チェコ)を欠場。どういった状態だったのかは明らかにされていないが、よほどのことがない限り、日本選手権の優勝は動かないだろう。一部で注目度が高い土井宏昭(ITカンファー)と野口裕史(群馬綜合ガードシステム)の「裏日本選手権」(土井)だが、東日本実業団では土井が69m46で優勝し、野口は3回ファウルで記録なしに終わった。野口が何かが崩れていたのは確かだが、それをもって土井優位とは言い切れない。静岡国際では野口が勝っているように、現時点での2人の力は拮抗しているといえるのではないか。
●男子3000mSC エントリーリストm3000sc
唯一の世界選手権B標準突破者の松本葵が、兵庫リレーカーニバルに優勝。最後の1周で2位に5秒41の大差をつけたことからも優勝候補筆頭に挙げていい。兵庫後に遠征したカージナル招待を体調不良で途中棄権しているが大事にはいたっていない。松本に対抗する一番手は、カージナルで8分42秒38で走った梅枝裕吉だろう。2年ほど前から8分30秒を切る力はあると言われている。兵庫2位の菊池昌寿、兵庫3位で昨年の日本選手権優勝の武田毅らも優勝候補の一角を占める。優勝さえすれば世界選手権代表入りが濃厚な松本に対し、その他の選手たちは標準記録突破のためにハイペースに持ち込む必要がある。その点で松本がやや優位に立っている。
■世界選手権標準記録 8.23.10/8.32.00
■突破者
B 松本 葵 大塚製薬 8.30.49 2010/10/11 新潟ビッグ陸上フェスタ
2試合連続途中棄権の松本の状態次第か
松本葵(大塚製薬)が5月12日のテグ国際でも途中棄権し、若干の不安を残している。カージナル招待同様、単なる体調不良でその後に問題がないようなら、上記展望記事のように優勝候補筆頭だ。各地区実業団でもまずまずの記録が出ている。関西では篠藤淳(山陽特殊製鋼)が8分40秒83、中部では梅枝裕吉(NTN)が8分44秒76。東日本優勝の菊池昌寿(富士通)は8分50秒64だったが、最初の1000mは2分49秒と標準記録狙いのハイペースで飛ばした。8分20秒台を狙える人材は増えている。
●女子1500m エントリーリストw1500
注目は吉川美香の6連勝がなるかどうか。日本記録保持者の小林祐梨子が代表選考レースでは5000mに集中するため、ライバルとなる選手は見あたらない。ただ、今季は吉川自身も5000mに軸脚を置きつつあり、昨年までのような切れ味を出せるかどうか。金栗記念に4分19秒07で優勝した陣内綾子がこの種目にも出場してきた場合、ラスト勝負となると陣内有利かもしれない。吉川としてはロングスパートに勝機を見出せるか。兵庫リレーカーニバル日本人トップの宗由香利もラスト勝負に強い。先行策を得意とするのは昨年の日本インカレ中距離2冠の上田敏斗美。兵庫日本人2位の武田志帆や須磨学園高勢ら、高校生選手が上位に食い込んできそうな種目。
■世界選手権標準記録 4.05.90/4.08.90
■突破者 なし
有力選手欠場で宗が優位に
小林祐梨子(豊田自動織機)だけでなく吉川美香(パナソニック)もこの種目を欠場して5000mに集中する。陣内綾子(九電工)はこの種目にはエントリーしてこなかった。そうなると、ラストのある宗由香利(旭化成)が優位に立ったのは間違いない。今季はまだ目立った記録を残していないが、上田敏斗美(TOTO)が昨年の日本インカレ(中距離2冠)のときのように独走する力を取り戻していれば面白くなる。
●男子1500m エントリーリストm1500
大混戦の様相を呈している。4月24日の兵庫リレーカーニバルでは田子康宏が久しぶりに優勝したが、タイムは3分43秒05で決定的な好記録ではない。2位の井野洋、3位の岡崎達郎までが3分43秒台で、昨年の日本選手権優勝者の村上康則は3分46秒05と10m以上引き離された。しかし、4月9日の金栗記念では村上が3分43秒27で日本人トップ。日本記録保持者の小林史和が3分43秒29で2位、井野は3分49秒76で8位だった。田子と村上の対決となるか、新たな選手が台頭するのか。昨年2位の高谷将弘が姿を見せていないが、有力候補であることは変わらない。一昨年優勝の上野裕一郎は5000mに集中する予定だが、直前の状態次第では参戦もあるという。
■世界選手権標準記録 3.35.00/3.38.00
■突破者 なし
ロングスパートの田子か、ラストスパートの渡辺か
上野裕一郎(エスビー食品)はこの種目への出場を回避。渡辺和也(四国電力)が最終日の5000mに絞らずこの種目にも出場すれば、田子康宏(中国電力)との“電力対決”になるか。田子は兵庫に続きゴールデンゲームズinのべおかにも3分41秒50で優勝。今季最も好調な選手だ。渡辺は同じゴールデンゲームズinのべおかの5000mに13分23秒15で優勝。ラストの直線で在日ケニア人選手たちを一蹴したラストスパートは見事だったという。2人に割って入るとすれば村上康則(富士通)だろう。東日本実業団では800 mで口野武史(富士通)に競り勝っている。
●女子400m エントリーリストw400
今季の2戦からは混戦が予想される。静岡国際では新宮美歩が優勝し、上山美紗喜が続いて東大阪大勢がワンツー。昨年の優勝者の田中千智は4位、佐藤真有は6位と敗れた。5日後のゴールデングランプリ川崎では田中が日本人トップ。上山が日本人2位、新宮が同3位と東大阪大コンビの順位も逆転し、同4位の佐藤も350 mまでは日本勢のトップを走った。静岡の新宮は54秒60、川崎の田中は54秒76と決定打となるタイムではなく、川崎では田中から佐藤まで0.17秒という僅差の争いだった。混戦模様だが、新入社員研修で出遅れていた田中が、試合を重ねて調子を上げている印象を受けた。震災の影響を受けた佐藤も調子が上がるのはこれからか。
■世界選手権標準記録 51.50/52.30
■突破者 なし
田中の2連覇か、佐藤が復調するか、学生勢か
日本記録保持者の千葉麻美(東邦銀行)が休養中で絶対的な本命選手が見当たらない。田中千智(九電工)、佐藤真有(東邦銀行)、青木沙弥佳(同)の実業団3選手と、新宮美歩(東大阪大)と上山美紗喜(同)の学生2人が有力候補。その中では上記展望記事に書いたように、昨年優勝の田中が調子を上げてきそうな気がする。資格記録トップの佐藤は東日本実業団では青木に敗れて2位。本来であれば前半から飛ばすのが佐藤だが、「スピードが上がっていない状態で(400 mの前半で)無理に上げると失速してしまいます」と慎重だった。佐藤が前半から飛ばすようならスピードが戻っている証拠で、田中にとっても強敵となる。
●男子400mH エントリーリストm400H
33歳になった為末大の復調ぶりが注目される。静岡国際は前半、特に1台目までを以前よりも抑えて49秒89の5位。5日後のゴールデングランプリ川崎では静岡よりも「前半を飛ばしすぎた」(為末)結果、9台目以降で失速して50秒44の5位。「久しぶりの国際大会の雰囲気」(同)と前半の追い風でペースを乱したが、それがなければ49秒5前後が出ておかしくなかった。為末自身の青写真では日本選手権で49秒0が出るはずで、腰痛で静岡と川崎を欠場した成迫健児のタイム次第では3年ぶりのV奪回もあり得る。静岡で49秒27とA標準を破った岸本鷹幸、川崎の後半に強さを見せて日本人トップの安部孝駿にも優勝の可能性が出てきた。
■世界選手権標準記録 49.40/49.80
■突破者
A 岸本鷹幸 法大 49.27 2011/5/3 静岡国際
B 記野友晴 福岡大 49.58 2010/10/2 国体
B 成迫健児 ミズノ 49.63 2010/10/2 国体
B 今関雄太 チームアイマ 49.71 2011/5/3 静岡国際
為末の勝負強さがレースを支配する?
成迫健児(ミズノ)が東日本実業団も欠場し、日本選手権がぶっつけ本番になった。小池崇之(ミズノ)が東日本実業団で途中棄権し、前回世界選手権で準決勝に進出した吉田和晃(大阪ガス)も今季は不調に陥っている。そうなると為末大(a-meme)の勝負強さがレースを支配するのではないか。岸本鷹幸(法大)や安部孝駿(中京大)の学生勢は、あまり色気を出さずに無欲でぶつかった方が為末の術中にはまらずにすむような気がする。あとはA標準を岸本1人しか破っていないことがどう影響するか。岸本以外の選手たちはA標準を狙って飛ばすのか、B標準でもいいから優勝に狙いを絞るのか。
●男子110mH エントリーリストm110H
今年33歳になる田野中輔が3連勝に挑戦する。織田記念では得意のスタートで1台目からリードを奪い、13秒63(+2.4)で優勝した。予選はプラス通過だったがベテランの調整力で立て直した。「これで走れるというイメージがあるからこの年齢までやっています。日本選手権も負けない自信がある」。だが、風向き次第では向かい風に強いモーゼス夢にもチャンスが生まれる。ゴールデングランプリ川崎はモーゼスが13秒88(−2.2)で田野中を0.01秒抑えた。「日本選手権までに抜き脚の局面で上体が起きないようにしたい」という技術が完成すれば、A標準の13秒52にも届くかもしれない。織田記念で田野中に食い下がった大室も成長株。
■世界選手権標準記録 13.52/13.60
■突破者 なし
標準記録突破者の出現は?
東日本実業団では田野中輔(富士通)がフライングで失格し、大橋祐二(ミズノ)が14秒04(−1.6)で優勝。2位に入江幸人(APF)が14秒29、3位に内藤真人(ミズノ)が14秒35で続いた。上記展望記事から大きな情勢の変化はないが、世界選手権標準記録を誰も破っていないのは寂しい。その力がある選手は田野中を筆頭に複数いると思うのだが。日本選手権本番で条件が良くなることを願うばかりだ。
●男子200m エントリーリストm200
齋藤仁志が一歩リードした。静岡国際に優勝し、ゴールデングランプリ川崎では日本人トップの2位。昨年は不調で21秒も切れなかったが、静岡では20秒60とA標準を突破した。「日本選手権では20秒2〜3台は出せると思う。2位は取ったことがあるが、頂点からの景色を見てみたい」と自信も取り戻した。ただ、静岡では飯塚翔太が、川崎では高平慎士が0.10秒差で続いている。飯塚は後半で追い上げを見せ、高平は静岡でこそ精彩を欠いたが川崎では前半で齋藤をリードしていた。静岡3位の山縣亮太、同4位の小林雄一まで優勝のチャンスはありそう。昨年優勝の藤光謙司は3月下旬に右ハムストリングを故障して静岡は予選落ち。どこまで立て直せるか。
■世界選手権標準記録 20.60/20.70
■突破者
A 高瀬 慧 富士通 20.53 2011/5/22 東日本実業団
A 川面聡大 中大 20.56 2011/5/22 関東インカレ
A 小林雄一 法大 20.59 2011/5/22 関東インカレ
A 齋藤仁志 サンメッセ 20.60 2011/5/3 静岡国際
B 山縣亮太 慶大 20.62 2011/5/22 関東インカレ
B 飯塚翔太 中大 20.70 2011/5/3 静岡国際
実績組か、春に好調の若手か?
静岡国際で齋藤仁志(サンメッセ)と飯塚翔太(中大)が標準記録をやっと破ったと思ったら、5月22日には2会場で4人が標準記録を破った。東日本実業団では高瀬慧(富士通)が20秒53の今季最高記録で優勝。同じ日の関東インカレでは川面聡大(中大)と小林雄一(法大)の“東京出身大学4年生コンビ”がA標準を、新人の山縣亮太(慶大)がB標準を破った。しかし、優勝者予想は標準記録を破っていない高平慎士(富士通)にした。東日本実業団は予選だけ走って20秒76(+0.4)と、春先の出遅れから明らかに調子を上げている。今季の男子ショートスプリントは2種目とも、実績のある選手が出遅れ、若手が春先に活躍している。それが日本選手権ではどうなるかだが、実績組がしっかりと調子を上げてくると予想した。
●女子100m エントリーリストw100
福島千里が絶対本命であることに違いはない。ゴールデングランプリ川崎では11秒56で日本人トップ。高橋萌木子に0.14秒差をつけた。ただ、90m付近でふくらはぎが痙攣して減速したのが気になるところ。織田記念でも予選を11秒50で通過したが、川崎と同じ箇所が決勝のアップ中に痙攣して欠場している。高橋が本来の力を発揮できるようになれば福島の対抗になるが、春季グランプリの状態では2番手争いが激しくなる。織田記念では市川華菜と北風沙織が高橋に先着。追い風2.6mだが11秒28と11秒40と記録的にもハイレベルだった。2人は「標準記録(11秒38)を切りたい」と異口同音に話している。“2強”の構図に変化が生じるか。
■世界選手権標準記録 11.29/11.38
■突破者
A 福島千里 北海道ハイテクAC 11.26 2010/10/2 国体
福島に続くのは?
福島千里(北海道ハイテクAC)の優位は変わらない。気になるのは高橋萌木子(富士通)の調子が上がらないことだ。大舞台でスイッチが入れば走れるのが高橋の特徴なので、日本選手権では本来の姿が見られるか。高橋のスイッチが入らなければ好調の市川華菜(中京大)が福島に続くだろう。2位の選手にもB標準を破ってもらいたいところだ。北風沙織(北海道ハイテクAC)も含め、日本新を出した4×100 mRメンバーが上位候補だが、そこに割って入るとすれば東日本実業団に優勝した岡部奈緒(チームミズノアスレティック)だろう。東日本実業団では11秒62の自己新をマークしたが、まだ記録を伸ばしてきそうな気配がある。
日本選手権2011を10倍楽しむページ
寺田的陸上競技WEBトップ
|