日本選手権2011・日付毎展望
第1日・6月10日編
男女10000mに標準記録突破者が多数出場

●男子三段跳 エントリーリストmTJ
 本番の展望がしにくい種目。織田記念は梶川洋平が16m15で優勝したが、追い風4.0mを考えると記録に不満が残る。2位は跳躍関係者の期待が大きい十亀慎也で16m06。向かい風0.1mだった。3位が昨年優勝者の鈴木義啓だが、15m67(±0)と16mを大きく割り込んだ。3人とも決定力に欠ける結果で、欠場した石川和義への期待が高まった。石川は1月からジャンプ足である右アキレス腱を痛め、練習ができたりできなかったり。「アキレス腱は左足を痛めることが多く、逆足の対処法は難しかった」。それで長引いてしまったが練習は進み始めている。「記録よりもしっかり優勝できるようにしたい」と、3年ぶりのV奪回に意気込んでいる。
=陸上競技マガジン6月号記事。以下同
■世界選手権標準記録 17.20/16.85
■突破者 なし
梶川が一歩リード。自己記録更新に手応え
 東日本実業団は梶川洋平(NMT4)が16m01(+0.9)で優勝し、角山貴之(モンテローザ)が15m85(+1.8)で2位。優勝候補筆頭と言い切れるレベルではないが、梶川が一歩リードしている。「この冬からキチッと踏み切ることをテーマにやってきました。今日も完全に踏み切れていないのに16m前後は出ています。キチッと踏み切れれば自己記録(16m45)は簡単に出る。助走のリズムと体のバネがマッチすれば、ホップがすごく楽に前に跳んでいきます」と、梶川は好感触を得ているようだ。


●男子円盤投 エントリーリストmDT
 畑山茂雄と小林志郎の対決が白熱するか。織田記念では5回目に小林が56m05を投げて逆転すると、直後に畑山が56m37で再逆転した。日本選手同士が57m以上を投げ合えば史上初の快挙となる。だが、畑山の1人舞台となる可能性もある。パフォーマンスリストの2位以下を独占している畑山は、レコードホルダーとなる資格十分。1979年に出された60m22はオリンピック種目のなかで最古の記録である。風に恵まれれば日本記録の更新も期待したい。畑山が勝てば11回目の優勝となり、優勝回数で2番目の日本記録保持者・川崎清貴の6回を大きく引き離す。3位は織田記念3位(54m20の自己新)の宮内優、昨年55m75の堤雄司、54m21の蓬田和正らが争う。
■世界選手権標準記録 65.00/63.00
■突破者 なし
畑山、東日本実業団で54m台も練習では好調
 畑山茂雄(ゼンリン)の東日本実業団は54m57とやや低調だったが、左側の背筋を痛めていたのが原因。この春は60mを越えた練習投てきもあり、状態は「ここ最近でなかったくらいに良い」という。左背筋を痛めたのも、「構えのときに円盤を遠い位置から動かせているから。やっている方向は悪くない」と前向きにとらえている。
 小林志郎(新潟日報)は北陸実業団で54m01。V候補2人の地区実業団の記録は拮抗している。


●女子棒高跳 エントリーリストwPV
 織田記念に優勝した我孫子智美が一歩リード。自己新の4m30は越えられなかったが、高さは出ていた。長さ14.7フィートのポールを、恐怖感なく使えるようになっているのが好調の要因だという。「早くB標準の4m40を跳んで、日本選手権は勝つことに集中したい」と意欲的だ。4月に4m32の室内日本新をマークした中野真実は、織田記念を左大腿部裏の痛みで欠場。前日本記録保持者の近藤高代も1週間前に股関節を痛めて同大会を欠場した。2人とも日本選手権前に試合に出場する意向だが、ぶっつけ本番になる可能性も。日本記録保持者の錦織育子は織田記念で4m00と調子が上がっていない。我孫子以外はどこまで復調しているかがポイントになる。
■世界選手権標準記録 4.50/4.40
■突破者 なし
近藤と中野の状態次第では我孫子の圧勝か
 我孫子智美(滋賀レイクスターズ)の関西実業団は4m10だったが、参加者が1人だけの状況で出した記録。近藤高代(長谷川体育施設)と中野真実(今治造船)が故障で試合に出ていないため、優勝候補筆頭のポジションは揺らがない。近藤と中野の2人の状態が上がっていないと我孫子の圧勝となる可能性も。


●女子走高跳 エントリーリストwHJ
 秋塚潔香が2連勝に挑む。4月の日本選抜和歌山大会では雨のため優勝記録は1m70と低調だったが、三村有希とのジャンプオフを制し「集中力という面では良い経験」と前向きにとらえている。「昨年の日本選手権はまぐれで勝てましたが、今年は自分の力でしっかり勝ちたい」。一方、昨年の日本選手権3位の三村は「卒論もあって練習不足ですが、日本選手権には絶対に間に合わせたい。日本選手権の借りは日本選手権で返します」と意欲を見せる。2人以外では昨年2位の森あゆ美、出産を経て競技に復帰した福本幸、学生では1m75を昨年クリアしている河澄真子らが候補。昨年1m80を割ってしまった優勝記録はなんとしても1m80台に戻したい。
■世界選手権標準記録 1.95/1.92
■突破者 なし
福本が1m80に成功しV候補筆頭に
 福本幸(甲南大職)が関西実業団で1m80の今季日本最高をクリア。優勝候補筆頭といえるところまで復調した。秋塚潔香(鎌ヶ谷みちる幼稚園教)は東日本実業団で1m70と記録を伸ばせなかった。中部実業団の三村有希(チームミズノアスレティック)は1m73に1回で成功。1m80以上にバーを上げるかと思われたが、1m76で姿を消してしまった。相変わらずレベルが上がらないが、優勝記録が1m80台に回復する可能性は高くなってきた。


●女子ハンマー投 エントリーリストwHT
 綾真澄が5回、室伏由佳も5回。今年勝った方が6回となり、鈴木文が持つこの種目の優勝最多記録と並ぶことになる。静岡国際では綾が63m84の大会新で優勝とまずまずの出だし。日本選手権の抱負を「しっかりと自分の投げをして勝負にこだわりたい」と話した。一方の室伏は腰痛のために欠場と出遅れた。室伏の腰痛は円盤投よりもハンマー投の方に大きく影響する。なんとか万全の状態にして出てきてほしいところ。優勝記録は「65〜66m」になる感触があると綾。2007年以降は64mに届いていない種目だけに、再上昇に転じさせたい。2強以外では昨年59m27を投げている武川美香に、そろそろ60m台が期待できそう。
■世界選手権標準記録 71.50/69.00
■突破者 なし
綾の6回目の優勝か
 綾真澄(丸善工業)が関西実業団でも63m67を投げた。一方の室伏由佳(ミズノ)はまだ試合に出場できていない。上記展望記事にもあるように室伏の腰が悪いときは、円盤投よりもハンマー投の方に大きく影響する。綾が最多優勝記録に並ぶ可能性が高まっているといえそうだ。


●女子10000m エントリーリストw10000
 福士加代子が8回目の優勝に向かって独走するか。5月1日のカージナル招待で30分54秒29と自身5年ぶりの30分台をマーク。レース中盤では先頭に立ってハイペースを維持した。日本選手権も昨年同様、独走に持ち込もうとするだろう。記録が狙えそうな条件の時はもちろん、勝つことを目的としたケースでも福士にとっては独走が最適の選択となる。福士に対抗できるとしたら中村友梨香や赤羽有紀子だが、2人とも4月のロンドン・マラソンからのインターバルが短い。31分30秒前後のペースになれば、昨年福士と競った経験のある木崎良子や吉本ひかり、カージナルで31分34秒35と2度目のA標準突破を果たした杉原加代らにもチャンスが出てくる。
■世界選手権標準記録 31.45.00/32.00.00
■突破者 
福士加代子 ワコール 30.54.29 2011/5/1 カージナル招待
吉本ひかり 佛教大 31.30.92 2010/4/25 兵庫リレーカーニバル
杉原加代 デンソー 31.34.35 2011/5/1 カージナル招待
木崎良子 ダイハツ 31.38.71 2010/7/17 ホクレンDistance Challenge網走大会
中里麗美 ダイハツ 31.53.22 2010/10/11 新潟ビッグ陸上フェスタ
福士の優位は変わらず
 地区実業団ではこれという好記録は生まれなかった。東日本実業団で正井裕子が32分34秒00で走ったくらい(正井は日本選手権の標準記録未突破のため出場できない)。
 福士は“勝つため”のレースでもハイペースに持ち込むことができる選手。夕方のレースでもあるので、気温さえ下がってくれれば日本記録に挑戦することも可能となる。
 福士に対抗する一番手は昨秋の5000m、今年のカージナル招待10000mと世界選手権標準記録を破っている杉原加代(デンソー)だろうか。マラソン世界選手権代表の中里麗美(ダイハツ)も、良い練習ができているという話を耳にしている。


●男子10000m エントリーリストm10000
 宇賀地強が絶好調だ。5月1日のカージナル招待で27分41秒97の日本歴代6位で走った。佐藤悠基も同レースで故障上がりにもかかわらず27分59秒60。ハイペースの争いになればこの2人が強そうだ。そこに加わるとすれば28分00秒78で兵庫リレーカーニバル日本人トップの村澤明伸、同2位の岡本直己、駅伝で好調だった高林祐介あたり。旭化成勢では大西智也が足首の捻挫で、岩井勇輝は発熱で春季グランプリを欠場。代わりに新人の出口和也が27分台も望めるくらいに好調だという。竹澤健介はカージナルで28分52秒56と失敗したが、直前の脛の痛みが影響したようだ。スローペースになるとラストに強い竹澤や、ロングスパートのある松宮隆行に有利になる。
■世界選手権標準記録 27.40.00/28.00.00
■突破者 
宇賀地強 コニカミノルタ 27.41.97 2011/5/1 カージナル招待
大西智也 旭化成 27.50.72 2010/9/24 全日本実業団
木原真佐人 カネボウ 27.52.75 2010/9/24 全日本実業団
尾田賢典 トヨタ自動車 27.53.55 2010/10/16 静岡県長距離強化記録会
竹沢健介 エスビー食品 27.55.02 2010/5/1 カージナル招待
深津卓也 旭化成 27.56.29 2010/9/24 全日本実業団
高林祐介 トヨタ自動車 27.56.46 2010/10/16 静岡県長距離強化記録会
真壁 剛 カネボウ 27.57.53 2010/5/1 カージナル招待
佐藤悠基 日清食品グループ 27.59.60 2011/5/1 カージナル招待
ラスト勝負なら竹澤か
 標準記録突破者の全員がB。女子の福士のようにハイペースに持ち込める選手がいるかどうか。勝負優先の展開でスローになれば、ラストに強い竹澤健介(エスビー食品)に有利になる。竹澤はカージナル招待こそ脛の痛みの影響で失速したが、日本選手権には合わせてきそうだ。竹澤の状態が良い場合、佐藤悠基(日清食品グループ)や宇賀地強(コニカミノルタ)は、中盤から押していって振り切るのが対抗策だろう。松宮隆行(コニカミノルタ)に以前のようなトラックの強さが戻っていれば、終盤のペースの上げ下げで勝負ができる。
 竹澤にとって要注意なのが清水大輔(カネボウ)。東日本実業団5000mで宇賀地を置き去りにしたスパートは迫力があった。カージナル招待10000mで28分20秒98で走っていて、走力も上がっている。10000mか5000mのどちらかの種目で勝つかもしれない。


日本選手権2011を10倍楽しむページ
寺田的陸上競技WEBトップ