2010/4/17 岩壁杯大学対校選手権
ミキハウスが6年ぶりに復活
“夢”に向かってモーゼスの気持ちも強固に

 国武大を卒業したモーゼス夢(ミキハウス)が岩壁杯の男子110 mHにオープン参加。前週に100 mに出場しているが、本職の110 mHはこれが第一戦。実業団選手としての第一歩を踏み出した。

 モーゼスのタイムは14秒15(+1.8)で、対校戦優勝の川内裕太(国武大)に0.33秒差をつけた。ハードルを5台倒したのは“いつも”のことではあるが、“まだまだ”という内容だったようだ。
「去年(の今の時期)よりも走れていません。体重が2kg増えてハムストリングやお尻の筋肉がついたのですが、それらをまだ制御できていません。あとはふくらはぎに不安があったことが気になりました。アキレス腱までは来ていませんが、硬くなってきていて、つりそうな感じがありました」
 昨年は12月中旬の東アジア大会(5位)までシーズンを続けたため、「最近冬期練習が明けたばかり」ということも影響したようだ。

 それでも、「織田記念でスイッチを入れて自己新を」と、昨年の日本インカレ優勝時に出した13秒76の更新には自信を見せる。向かい風1.3mで13秒77(スーパー陸上)を出しているのだから、それほど難しいというわけではない。桜井健一コーチによれば、昨シーズン中すでに、練習の60mHや80mHでは桜井コーチのタイムを上回っていたという。桜井コーチのベスト記録は13秒67(+2.0)である。

 桜井コーチはモーゼスの特徴と可能性を次のように話した。
「日本選手は骨盤を前にやや傾けてハードルに入る動きが理想だと思っているのですが、モーゼスは骨盤が立った上体でハードルに入っていける。動きを分析して、どちらが彼に合っているのか探っていくつもりです。最低でもロンドン五輪までに日本記録(13秒39)は更新しないといけない人材でしょう。そのためにも今年、13秒5くらいは出さないと。13秒2とか、それ以上も目指したい。100 mは先週10秒85でしたが、今でも10秒7では走ると思います。最終的には走力を10秒4とか3くらいまで持っていかないと、13秒2は見えてきませんが」
 話は変わるが、モーゼスの入社によりミキハウスが6年ぶりに陸上界に復活したこともニュースである。90年代から2000年台前半、数多(あまた)の強豪選手を陸上界に送り出した強豪チーム。男子棒高跳の小林史明、女子では100 mの坂上香織、棒高跳の小野真澄、やり投の三宅貴子らが日本記録を樹立した。男子三段跳の杉林孝法や女子走高跳の太田陽子も日本代表の常連だった。
 モーゼスは昨年前半、関東インカレに優勝したり6月のスプリント挑戦記録会 in TOTTORIで田野中輔(富士通)を抑えて優勝していたが、卒業後の進路は決めかねていた。当時、すでにモデルの仕事をアルバイトで経験。モデルになるか競技を続けるか、進路選択で迷っていた。「せっかくハーフに生まれてきたのですから、どちらの道に進んでも、目立たなければ嫌です」と話していたことが印象に残っている。

 だが、そう簡単に実業団入りができるご時世ではない。モデルをやりながら陸上競技を続けることも考えていた。
「夏頃に進路のことで、桜井コーチから怒られました。それまで、僕がしょうもないことをして怒られることはありましたが、それ以外で怒られたのは初めてです」
 桜井コーチによれば「自分がどうしたいのかを、はっきりさせたかった」と言う。「モデルをやりながら競技を続けるとか、僕に言われたからやるというのでは中途半端になる。モデルをやるにしても、競技で結果を出してからの方が箔が付くかもしれない」
 こうした人と人との関係を表現するには、22歳のモーゼスの方が稚拙だった。桜井コーチの後で再度話を聞くと、次のような言い方に変更した。
「怒られたというより“熱い言葉”をかけらました。『おれも一緒に(入れる実業団を)探すから』と、力になってくれました」

 桜井コーチがお願いをした会社の1つが、自身が在籍したミキハウスだった。2004年を最後に陸上競技部の活動はしていないが、当時よりも会社の業績は良くなっている。人脈を上手く活用して木村皓一社長にモーゼス入社をお願いすることができた。
 木村社長もスポーツ選手を支援する気持ちは人後に落ちない。以前放映されたテレビの特集番組で、スポーツ選手を採用し、応援する理由を次のように話していた。
「ミキハウスは子どもを相手に仕事をしています。子どもは夢を持つことが大事じゃないですか。(夢を持って)やろうと思ったら、最後までやり続ける。そうしたら結果も出ると思います。こんなもんや、というのが一番いけない。具体的な目標をもってチャレンジするのが大事なんです」

 モーゼスの“夢”はオリンピックと13秒35だという。
「0.01秒とかの更新ではショボイでしょう」
 夢に突き進むモーゼスが、強豪ミキハウスの再生と軌道を一にする。


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