2010/5/15&16 東日本実業団
畑山と畑瀬、投てきコンビが今季日本最高
57m27 17m84
ともに故障明け、そして新たな技術的な取り組み
@畑山茂雄
「上下運動をつけて回るように変更しました」
57m27の今季日本最高。とはいえ、畑山茂雄(ゼンリン)は過去、5月には57〜58m台を何度も投げている。
「振り切りは良かったのですが、脚さばきが上手くいかなかった」
と、本人も会心の投げでなかったと言う。
だが、まずは反省の弁が出る選手である。まして、この冬に2度のケガがあったことを考えれば、57m27は悪い数字ではない。
詳細は明かさなかったが2月に最初のケガをして、3月に別の個所をケガしてしまった。
「偏った練習しかできませんでした。実質、練習ができ始めたのは4月半ばからです」
それでも57m台が出たのは、スタンドが高くないスタジアムで円盤投に有利な風だったこともあるが、今季から取り組み始めた技術の成果と見て良さそうだ。昨年11月に、以前にも行っているマック・ウィルキンス氏(ベスト記録は70m98)のもとでトレーニングを行い、スイングからターンへの入りを変更した。
「右足を着くまで上下運動をつけて回るようにしました。入りは速くなくてもいいから、大きく長く(力を加えていく)と。高いポジションと低いポジションを上手く使うことで、地面からの反力も上手く使える。以前は速く回るために、速く入っていました。でも、ゆっくり入ってもそれほど記録は変わらなかった。最終的な振り切り局面ではスピードが出ているわけですが、それだったら、ゆっくり入って力を伝えていく方が効率的です。『ゆっくりですね』と言われるようになりましたから、良い方向にできてきていると思います」
男子円盤投は4年前のアジア大会で、誰も派遣されなかった。派遣には58mは必要と言われていたが、畑山はシーズン前半で57m台しか投げられなかったし、日本選手権では55m台の小林志郎に敗れてしまった。
今年の派遣基準がどの程度の記録になるかはわからないが、4年前の二の舞は演じない。
A畑瀬聡
「変えたのは右足と左足の関係です」
1投目か2投目を投げ終えた後に、トラックの外で観戦する等々力信弘氏(陸連強化委員会)を見つけると、畑瀬聡(群馬綜合ガードシステム)の方から話しかけていた。
「(グライドの)スタートを変えたのわかります? スピードが出ていますが、制御が難しいです」
1投目は17m28、2投目は17m38にとどまっていた。
だが、3投目に17m61に記録を伸ばすと、4投目には17m84の今季日本最高。村川洋平(スズキ浜松アスリートクラブ)が大阪GPでマークした17m78を上回った。
「変えたのは右足と左足の関係です」
畑瀬の説明によれば、昨年まではグライドに入る際に左足のつま先を、右足の踵よりも前に持っていっていた。それを、右足の踵にかからないうちに蹴るようにしたのだという。「その方が両脚を使えて力を出せますから、グライドのスピードが上がります。ですが、それをコントロールすることがまだできないのです」
日本記録の18m64(2009年・山田壮太郎)にも、自己記録の18m56(2006年・日本歴代2位)にも差があるが、ケガの影響でシーズンインを1カ月遅らせたことを考えれば悪くない記録である。
ただ、ケガの部位は口にしようとしない。
「休めば治るというものでもないし、上手くつき合えればケガではなくなります」
ケガに対して前向きな姿勢になっているのが、これまでの畑瀬とは違うような気がする。5月に結婚したことで、気持ちの面でも変化が生じているように感じた。
シーズン初戦で17m78。小山裕三コーチ(日大監督)は「日本選手権では19m投げますよ」と期待するが、当の畑瀬はもう少し慎重な言い方をした。
「今はサークルに入って“こうするぞ”と考えて投げています。それを、練習で投げ込むことで、何も考えずにできるようにすれば(19mも)不可能じゃないかもしれません。日本選手権で出せるかどうかはわかりませんが18m以上は行くでしょう。シーズン後半で18m台後半を投げられたら良いかな」
以前は“走”“跳”の練習には、そこまで熱心に取り組んでいなかった。だが、今や投てき各種目の第一人者は全員と言っていいほど、瞬発的なバネを重視してトレーニングに取り組んでいる。畑瀬も「スパイクを履いてSD(スタートダッシュ)をやっていますよ」と明かす。
「やっていることは良い感じなんですよ」
日本記録奪回に向けて、畑瀬が静かに燃えている感じである。
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