2009/7/14 渋井フラッグスタッフ出発
気になる脚の状態と今後のトレーニング
「不安といえば不安ですが、あれこれ考えずにやるしかないと思っています」


 渋井陽子(三井住友海上)が14日、NH便でアメリカ合宿に向けて成田空港から出発した。違和感のあった脚の状態や、今後のトレーニングなどについて語ったが、本番の目標はまだ明かさなかった。
 8月10日まで約1カ月、アリゾナ州フラッグスタックで合宿する。

 4月半ばから5月終わりまで左脚裏側(当初は付け根で、ヒザに近い位置に移動)の違和感で練習がとどこおり、札幌国際ハーフマラソンは1時間14分09秒と低調な結果に終わった。問題の違和感はその後どうなっているのか。
「(違和感は)つねにありますよ。良くなったり、ちょっと出てきたり。練習の変更もあったり、なかったりです。監督はころころ変えるんで」
「(札幌では力が入りにくいと話していたが)だいぶ、まとまってきています。もう、つながりましたね。あの感じはもう、ありません」
 相反するようなコメントを残している渋井。

 完全に良くなったわけではないが、気にするほどのものではないということだろうか。
 陸マガ5月号の記事にも書いたように、豪放なキャラクターに隠されがちだが、渋井は自身の動きについて繊細な感覚を持っている。このタイプの選手は痛みや違和感も、敏感に感じ取ることが多い(それができるから大きな故障が少ないという指摘もある)。
 しかし、そこを考えすぎると逆効果になることもある。大阪国際女子マラソン前の最後の昆明合宿を前に、同僚の土佐礼子に「考えすぎるな」と指摘され、良い方向に自身を変えられたことがあった。
「ちょっと前まで脚のことを考えすぎていて、6月の合宿(今回と同じフラッグスタッッフ)では痛みを気にして考えすぎたのか、帰国してから力が入りませんでした。今回は深く考えないようにしています。不安といえば不安ですが、あれこれ考えずにやるしかないと思っています」

 すでに6月の合宿で、量的な部分はしっかりと走っている。「これからはもう少し考えて、スピードを出してやったり、色々やっていきたいな」と札幌で話していた部分ができるかどうか。
 しかし、成田空港では「(このくらいのタイムで、と)頑張ろうと思うと脚に来るので、全部リラックスしてやりたい」とコメント。これをどう受け取るか。まだ、1カ月以上の時間がある。本当に追い込まない、ということはないはずだ。
 ここでは、渋井の持ち味であるスピードという点を考慮したい。駅伝前の練習における渋井のスピードは際だっていると聞く。同僚だった土佐は同じスピードで走っていても、「私が思いきり走っているのに、シブが調子が良いときはジョッグのように走っているように見える」と話していた。
 つまり、渋井の場合、マラソンに必要なスピード練習をするのに、そこまで追い込まなくてもいいということなのではないか。それでも十分にスピードが出ていると。

 ただ、マックスのスピードを出さないにしても、渋井のなかで追い込むレベルのトレーニングは必要になってくる。
 渡辺重治監督は「秘策がある」と話す。
「環境で負荷をかける方法もあります。フラッグスタッフの標高が昆明よりも200〜300m高いですから、それだけでも全然違います。トラックではありませんが2700mにも練習場所がある。起伏もありますから利用したい」
 もう1つはピークを合わせること。札幌のときから「本番の35km地点で100%のピークが来るようにしたい」と、渡辺監督も渋井自身も繰り返していた。
「そこが一番のポイントです」と渡辺監督はこの日も強調した。
「マラソンは35kmからだと、そこに意識を置いておくだけでもずいぶん違います」
 失敗した昨年の東京国際女子マラソンまでは、ある程度早い段階でピークをつくり、1週間や10日前にはかなり良い状態をつくった。それを今年1月の大阪国際女子マラソンでは、昆明から帰国した段階では不安だらけだったが、4日前の5kmから調子を上げていった。

 これも陸マガ5月号の取材の際にだが、「今の私にはぶれない気持ちがある」と話していた渋井。多少不安の残る状態も、直前合宿が初めての場所であることも、これまでの経験を総動員すれば越えられない壁ではないと、理屈ではなく感じとっているのではないか。
 世界選手権本番の目標は、「ご想像にお任せします」と今回も明言しなかったが、大阪国際女子マラソン翌朝に話した金メダルであると推測しても、間違ってはいないだろう。


寺田的陸上競技WEBトップ