2009/7/26 トワイライト・ゲームス
塚原、復帰戦で“自覚”の10秒17
「苦しい思いをしても目標を見失いたくなかった」


 男子100 mは塚原直貴(富士通)、木村慎太郎(早大)、藤光謙司(セーレン)の世界選手権代表3人が出場したが、日本選手権決勝を左大腿二頭筋腱炎で欠場した塚原が2位の木村に0.18秒差をつける10秒17(+1.2)で快勝した。

 今季の塚原は前半よりも、後半の強さが目立つ。大阪GPが9秒台の黒人選手を相手に前半からリードを奪ったが、全体的には「後半のストライドのイメージで前半から行ける」という今季から取り組んでいる新スタートの特徴が表れている。今大会も前半から他を圧倒できたわけではない。
 だが、この日は気持ちの面も序盤の走りに影響していた。
「今日は100 mをしっかり走ることが課題でした。そのなかで欲を出していいのか、出してはいけないのか、自分の中でせめぎ合いがあった。それが、前半思い切った走りをすることにつながらなかったと思います。少し浮いてしまった。気合いが入りすぎたのかもしれません」
 塚原の言う“欲”は、ケガを気にしないということも含まれるのかもしれないが、どちらかというと“しっかり走る”意識が大きすぎて、それが力みにつながったということか。気持ちと体が、紙一重の違いで影響し合う。本当に微妙なところを言っているように思えた。
 ケガをしたことが走っている最中に気になったか、という問いには次のように答えている。
「気にせず走れました。今日、気にしてしまったら、(世界選手権)本番でも思い出してしまう。それは避けたかったですね」

 ケガを気にせず走る。これは、たとえ故障明けではあっても試合に出るからには記録を出す、という塚原のポリシーとも合致していたように思う。10秒17のタイムを見た塚原は頭を抱え、観客に向かって頭を下げた。
「風の助けがあれば10秒0台も出せると思っていました。期待してくれた方、最後まで(男子100 mが最終種目)残ってくれた方に申し訳ないです。この大会は、そこまで力む必要はないのかもしれませんが、自分で選んだ試合である以上、しっかりと記録を出して弾みをつけたかった」
 塚原は東日本実業団でも10秒15(+1.5)で走っている。予選が10秒4台だったことを、「レベルの低い走りをしても意味がない」と悔やんでいた。また、日本のトップ選手としての「立ち位置」ということも何度か口にしている。
 トワイライト・ゲームスでも2007年に10秒15、昨年も10秒29で走った。会場の代々木は高速トラックでもない。この大会でここまでレベルを維持しているのは、塚原(だけ?)がこのサーフェスでも反発を得られる動きなのかもしれないが、意識の高さの表れと見ていいだろう。

 だが、復帰に向けて不安がなかったわけでもないようだ。トレーニングの具体的な部分はわからないが、日本選手権決勝を欠場したことと、故障に対しても自信があった今季の走りでケガをしたことは、塚原にもショックだった。
「この数週間、すごく苦しかった。(世界選手権など)大舞台で夢を見られる走りをすることが目標ですから、それを見失わないようにと、常に自分に言い続けてきました。日本選手権を逃げた以上、ここで結果を出したかった」
 100%の結果ではないが、10秒1台は合格ラインを上回っていた。
「悪いことばかりではなく、復帰第一戦で同じレベルに戻ってこられたことで、自覚があると再確認できました。何より、ケガが再発しないでよかった」
 強気の発言が目立ってしまうが、安堵の表情がときおり覗いた。

高野進コーチ
「今日は故障明けでどこまで行けるのか、というレースでした。練習ではもう、気持ちよく走れています。前半がよく見えなかったが、テンポ走のようだった。しかし、これだけ走れれば不安はないでしょう」


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