2009/1/12 朝日駅伝
アンカー岩井が区間記録を21秒更新する快走
1分56秒差を逆転して旭化成が3連勝達成

 7区(16.7km)の岩井勇輝(旭化成)が3位でタスキを受け取ったとき、先頭を行くHonda・秋山羊一郎とは1分56秒の大差があった。2位の安川電機とは1分15秒差。宗猛監督からはコーチ経由で「自分のペースでしっかり走れ」と言われていた。
「だからといって追わなくていいのかといったら、そうではない。僕自身、この大会は優勝するつもりでいましたし、(3区区間賞の)ニューイヤー駅伝のあとも調子が良くて、タスキを受け取ったら体が自然に動きました。最後まで、スピードを緩めることなく行けました」
 5km通過のタイムはチェックしていなかったが、「14分ヒト桁台くらいだったのでは」(岩井)という。8kmでは安川電機・平野護に10秒差と迫り、9kmで一気に抜き去った。前を行く秋山とも脚勢が違う。
 岩井が秋山を視界にとらえたのは12km付近だったという。
 どんどん近づいてくる。
 逆転は15.1kmの鉄道にかかる陸橋だった。

 テンションが上がっていた岩井だが、その一方で冷静さも持ち合わせていた。
「Hondaの監督さんが秋山さんに、追いつかれてからの対応を準備するように指示しています。僕も相当きつくなっていたので、最後の直線勝負になったら不利と判断して、つかせないようにスピードを一気に上げて抜きました。秋山さんも一瞬つこうとしましたが、つかせないように行けたので、自分も精神的に余裕が出て、それでさらに行きました」
 勝負をつけた岩井は、さらにハイな状態になっていたようで、残り500m付近から、ユニフォームの胸の旭化成のマークを持ち上げたり、指し続けたりしたという。2年前もHondaとの39秒差を逆転したが、そのときにもやっていたポーズである。それを3月のびわ湖マラソンで日本人トップとなった久保田満(旭化成)が真似をして、全国的にも知られるようになった。
 岩井の記録は45分35秒。絶好調だった奥田真一郎(NEC)が2003年に出した45分56秒を21秒も更新した。

 2年前に続く朝日駅伝での好走。
「かなり相性がいいですね。ニューイヤー駅伝のプレッシャーからも解放され、気持ち的に余裕をもって、ニューイヤーと同じくらいの走りができる大会です」
 ニューイヤー駅伝は3区で区間2位に32秒差をつけた。2区のインターナショナル区間でビハインドを負う旭化成を、トップ争いに押し上げる激走だった。
「今日は2分差を逆転できましたが、ニューイヤー駅伝もプレッシャーのかかるなかであの走りができて、自分としては評価しています。今日はニューイヤーと同じくらいの走りです。以上ではありません」
 しかし、ニューイヤー駅伝の前半区間と違って、アップダウンが多いことを聞かれると次のような答え方をした。
「万全の調整で臨むのはニューイヤー駅伝ですが、それが終わっても朝日駅伝に向けてダラけないように練習しました。調子がキープできているので、多少のアップダウンは気になりません。苦しくなると下りがあるという感じで、リズムを作ることができました」

 2年前はニューイヤー駅伝(3区区間5位=日本人1位)、朝日駅伝と快走した。だが、朝日駅伝の10日後に右の脛を疲労骨折が判明。その後1年以上、練習を追い込んでは故障をすることの繰り返しだった。昨年の北京五輪選考会の日本選手権は1万m14位と、まったく届かなかった。
 しかし、医学療法士の治療を受け始めたり、練習のこなし方を変えることで、2008年3月以降は故障がなくなった。2年前と同じ駅伝での快走だが、岩井の感触は大きく違っている。
 今後のプランについては次のように話している。
「冬にロードを2本くらいこなして、トラックで世界選手権に出場することが目標です。A標準(27分47秒00)を破りたいですね。それと、この冬はまだやりませんが、来シーズンにマラソンを予定しています。それに向けて、下準備的なトレーニングを取り入れていきます」
 故障が少なくなったことで、岩井の特徴である“追い込む走り”が、色々な可能性を持つようになった。

旭化成・宗猛監督コメント
「アンカーに渡ったときは、勝つのは無理かな、と思いました。岩井には自分のペースで走るように伝えました。その状況でも、岩井の勝ちへの執念が私よりも強かった。(ニューイヤー駅伝は1秒差で負けたが?)今日も前半の選手はたちは今一歩。はらはらさせられました。そういった鬱積を最後に、岩井が吹き飛ばしてくれた。今年の旭化成に勢いをつけてくれた気がします。今後につなげていきたいし、来年の元旦にもつなげたい。60回の大会で27回目の優勝です。これを早い段階で五分の勝率にできるよう、優勝回数を増やしていきたいですね」

Honda・明本樹昌監督コメント
「(3年連続2位は)悔しいです!! 秋山は夏以降、実践から遠ざかっていて、これが復帰戦のようなものでした。そこに岩井君の区間新の快走があった。その辺の差が大きく現れてしまいました。(ニューイヤー駅伝1区区間9位の)金塚(洋輔)は来週の全国都道府県対抗男子駅伝がありますし、(同駅伝2区2位の)ヤコブは帰国しています。でも、旭化成さんも大野君が起用できなかったし、瀬戸口君が昨晩体調を崩したと聞きました。どっこいどっこいだったと思います。そういうなかで毎年、最後に競り負けるのは、どこかに弱さがあるのだと思います。勝つまでやりますよ」


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