2009/4/26 兵庫リレーカーニバル
“3000mSCのNTN”の伝統を継承する梅枝が
世界選手権12位のメスフィンに0.10秒差の好走
「世界選手権の標準記録は切れると思います。まずは愛敬さんのNTN記録を」

 男子3000mSCはカネボウ初のアフリカ人選手(エチオピア)であるナホム・メスフィンが8分42秒85で優勝した。メスフィンは世界選手権12位。スタートしてすぐにトップに立った(1000mを2分49秒で通過)エチオピア選手に食い下がったのは、梅枝裕吉(NTN)1人だけだった。梅枝は最後まで競り合い、フィニッシュ前の直線ではあわや金星か、と思わせるくらいに追い込んだ。
 優勝のメスフィンに0.10秒差の8分42秒95。タイムがそれほどよくないのは風が強かったこともあり、1000mを過ぎるとペースが落ち着いてしまったためだ(後続との差も広がらなかった)。だが、そのなかでも梅枝の成長は伝わってきた。
「もっと速い展開も想定していましたが、最後まで余裕がありました。冬期から故障なく練習してこられましたし、2年連続で世界クロカン代表になれたことも自信になっています。気持ちなどのバランスをとってレースに臨めば、世界選手権の標準記録(B標準:8分33秒50)は切れると思います。まずは愛敬さんのNTN記録を切りたい」

 梅枝の所属するNTNは、近年は1500m日本記録保持者の小林史和の活躍が目立っているが、社名が東洋ベアリングだった頃から3000mSCの強豪選手を数多く輩出しているチーム。1960年代には愛敬実が国体で2連勝し、三浦信由が1968年のメキシコ五輪に出場。愛敬重之は1987年の世界選手権ローマ大会に出場した。
 日本歴代50傑には
愛敬重之 8分31秒29(1992)
奈良 修 8分35秒01(1996)
梅枝裕吉 8分36秒96(2008)
三浦信由 8分38秒8(1970)
逵中正美 8分40秒25(1996)
※愛敬のベスト記録は中京大時代の8分31秒27=ジュニア日本記録
 と5人が名を連ねる。
「特に伝統のトレーニング法があるわけではありません」と、自身も3000mSCをやっていた逵中監督は言う。
「ただ、会社の上層部も3000mSCをお家芸として理解してくれていて、応援してくれています。トレーニングでも、チームでペース走をするときに梅枝だけ、ハードルを1〜2台跳ぶなど工夫をしています。実際、梅枝もハードリングが上手い方ではありません。記録短縮の近道は、ハードル技術の向上だと思います」

 しかし、梅枝の近年の充実は「精神面が大きい」と逵中監督は言う。
 梅枝はNTNの地元である三重県・稲生高出身。高校時代に8分56秒26をマークし、日体大では8分40秒63にまで記録を縮め、インカレでも上位の常連選手に。
 06年にNTNに入社したが、1〜2年目は8分45秒前後にとどまっていた。それが2008年の世界クロカン代表になると、3000mSCでも8分36秒96を出して日本選手権2位に。国内ナンバー2のポジションを固めている。
「2年前から気持ちが変わって陸上競技に集中できるようになったからだと思います。先輩選手たちが結果を出せずにクビを切られるのを目の当たりにしたのがきっかけです。毎日1本でも、悔いの残らないように走ろう、集中して取り組もうと思うことができました。そうすることで生活が充実して、記録も伸びて、陸上競技を楽しく感じられるようになったんです」

 梅枝にとってNTN記録を破ること、イコールB標準突破ということである。
 それが、チームの伝統を受け継ぐことであり、第一人者の岩水嘉孝(富士通)の跡を継ぐ道に続くと梅枝は考えているようだ。
「岩水さんは高校時代から憧れていた方。岩水さんが種目をどうされるのかはわかりませんが、しっかりと跡を継げるようにしたい」
 兵庫の2日後にはアメリカに出発するという。5月2日のカージナル招待と、9日のオレゴン招待で標準記録突破に挑戦する。伝統のチームから再び、世界に挑戦する選手が飛び出してきた。


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