2008/6/25
日本選手権2009日付別展望
第2日・6月26日(金) 男子編
200 mの高平vs.安孫子は高平に余裕
800 mの横田は標準記録狙い、口野は勝負重視
走幅跳と十種競技はB標準も射程圏に
■男子200 m決勝
高平慎士が静岡国際で20秒46、大阪GPで20秒31の日本歴代4位と好記録を連発。100 mのスピードが上がったことで、前半をゆとりを持って行けるようになった。2大会とも前半は安孫子充裕(筑波大)に先行されたが、後半の直線で逆転した。日本選手権も同じパターンにするのか、前半を速く入るのか。
安孫子の急成長が勝負を面白くしている。大阪GPでは20秒46まで記録を縮めた。打倒・高平の意欲は十分で、そのための課題として「後半のスピード維持」を挙げた。前半から突っ込むスタイルを崩すつもりはない。
右脚内転筋の不安で出遅れていた齋藤仁志も関東インカレで20秒73まで復調。昨年A標準突破済みの藤光謙司は、前半を突っ込めるかどうか。
=陸上競技マガジン7月号記事。以下同
予選は2組が行われ、1組の高平慎士が20秒51(+1.0)で2位の齋藤仁志に0.40秒差。2組の安孫子充裕が20秒78(+1.4)で、2位の藤光謙司が20秒88、3位の小林雄一が20秒92。優勝争いは予想通り、高平と安孫子の2人に絞られた。
さらに言えば、高平がかなり優位に立っている。予選の高平は前半から後続に大差をつける横綱レース。スピードは出ていて、なおかつ、どこかに余裕すら感じさせた。
「もしかしたら20秒2台が出るんじゃないかというくらいに行けていました。でも、周りから今日記録を出してもな、と言われていたので(抑えました)。予選は20秒5くらいかな、とイメージした通りに走れました。朝原(宣治)さんみたいに、このくらいやればこのくらい出ると、今年はずっと、感覚とタイムが一致しています」
日本選手権に臨む気持ちも、昨年までとは大きく違う。
「大阪の世界選手権とか北京五輪がかかっていて、いつもガチガチになっている大会ですが、今回は“日本最高の記録会”と思うようにしていて、それがいいのかもしれません。勝負の面にはそれほどこだわらず、この後ベルリンに向け、どう持っていくかの方が大事。硬いトラックの上で途中棄権しないようにしっかりと走りたい」
一方の安孫子は、大会前には高平との勝負にテンションを高めていたが、日本選手権本番を迎え、気持ちを抑え気味にしているようにも見えた。
「実力があるのが高平さんで、僕はチャレンジャー。今日の高平さんの走りは見ていませんが、20秒51のタイムを見て“あれ?”って思いました」
“あれ?”の意味するところまでは突っ込んで聞かなかったが、予選でそこまで出るのか、という感じ方だったのだろう(もっと出ると予想していたわけではないと思われる)。
決勝をどう走るのか。高平は次のように話している。
「世界選手権なら今日くらいのタイムで2次予選に行くことができます。準決勝に行くには20秒4台か3台が必要ですから、明日の決勝は4台か3台を出したい。」
一方の安孫子は、陸マガの予想記事では「前半から突っ込むスタイルを崩す気はない」と書いたが、予選後に微妙な発言をしている。
「今日は前半をセーブした分(それでも3mほどリードして直線に入った)、フィニッシュ前でそこまで詰められずに走りきれました。明日の戦略の1つです。コーナーで自分の特徴を見せるのも1つのパフォーマンスですし、ゴールで勝っているのも1つのパフォーマンスです」
前半から行く“型”を大きく崩すわけではないが、そのなかでも最大速度で突っ込むことと、微妙に抑えることの2つを戦術として持つというのである。
2人のうちから優勝者が出る可能性が高いが、昨年A標準を破っている藤光が、一気に調子を上げてきた。陸マガ記事では「前半が突っ込めていない」という書き方をしたが、藤光に話を聞いたところ、前半だけの問題ではなかった。
「冬期に例年よりも筋トレを多くし、体も一回り大きくなりました。走りよりも以前よりもガッチリしてきたのですが、頭で考えた動きと実際が噛み合わなくて調子が上がりませんでした。これまでも春先に良くて、その後にダメになるケースも多かったですから、今年は日本選手権に合わせてやろうと考えました。実戦を使って探りながらここまでやってきました」
藤光も要注意の存在に戻ってきたということだ。
■男子800 m決勝
兵庫RC、大阪GP、ゴールデンゲームズと横田真人と口野武史が日本人1・2位で、横田が2勝と勝ち越している。横田は引っ張ることもできるし、ラスト勝負もできるールラウンド型。ゴールデンゲームズで標準記録を破れなかったため、日本選手権では記録も求められる。「自分でレースを作って1分46秒台を出せたら面白い」と、積極的なレースを展開することも示唆している。
口野はロングスパートが持ち味。残り200〜300mでスパートし、最後の直線も粘りきる。スピードでは横田に劣るのでハイペースは望むところか。口野が08年、横田が06・07年の優勝者。05年に大学2年で日本選手権を制した下平芳弘も、今季は復調の兆しがある。2強の争いに加わる可能性もある。
予選は4組が行われ1着+4が決勝進出条件。1組は松本啓典、2組は横田真人が1分50秒台でトップ。3組は優勝候補の1人の口野武史が鈴木尚人に競り負けたが、1分49秒99と1分50秒02で口野も予選を通過。4組はレース途中で2位以下のプラス通過がないとわかるスローペース。堤大樹が最後まで粘って逃げ切るかに見えたが、4年前の優勝者の下平芳弘が最後の最後で0.02秒先着した。
危ない橋を渡った富士通コンビ。
「1位通過を狙ってはいましたが、潜在的に予選だからという気持ちがあったのかもしれません。(アップなどで)刺激が足りなかったかもしれません」
下平は400 m通過時に、他の選手と接触していたことと、スローすぎるとリズムに乗れないことが苦戦の原因だったかもしれない。
決勝で標準記録(1分46秒60)にも意欲を見せたのが横田。
「ゴールデンゲームズinのべおかで標準記録が破れなくても、モチベーションが切れることはありませんでした。むしろ、練習をしながら1カ月間で1分48秒台を3回出せたのは自信になりました。決勝ではタイムを貪欲に狙っていきます。勝つだけでは評価されないと思っています。自分自身でも、勝つだけでは嬉しい優勝にはなりません。記録を狙った上での優勝でないと、僕の中ではダメです。今の日本でいうなら、口野さんと僕が世界と戦うところを見せないと、下がついてきません。2年前に標準記録を切らずに世界選手権に出させてもらったことの意味を、噛みしめてやっていかないと、と思っています」
一方の富士通コンビは、日本選手権は勝つことに意味があると考えている。
「自分は順位が大事だと思っています」と言うのは口野。「日本で一番強い横田がタイムと言っているのなら、その選手に勝てばタイムもついてくるわけです。逆に勝負に集中できます」
下平も「日本選手権は順位ですが、タイムも出ないわけではありません」と同じニュアンスだ。「1分48秒を切るくらいでないと、横田とは勝負にならないでしょう。自分から前に出ることはないかもしれませんが、ハイペースにつけるだけの練習はしてきました」
決勝の1周目を引っ張るのは横田と見て間違いないだろう。高校時代がそうだったように、そのまま独走に持ち込む可能性もないわけではない。
「52秒で通過するのが理想」と口野が話していたことがある。それよりも速ければ、横田が独走するが、それ以下ならば口野もつくだろう。
残り300 mから200 mで仕掛けるのが口野の勝ちパターン。
直線勝負にも強い横田が、最後に逆襲する余力があるかどうか。
■男子110 mH予選
■男子400 mH予選
■男子走幅跳決勝
唯一B標準を越えている荒川大輔だが、昨シーズン途中からケガの影響で本来の跳躍ができていない。だが、今季は「やっと全助走ができるようになった。世界選手権には行くつもりですよ」と表情は明るい。
好調なのが菅井洋平と品田直宏の社会人2年目コンビ。菅井は低温だった兵庫で7m87と自己記録に3cm差と迫った。品田は大阪GPで菅井を破り、7m86で日本人1位。2人とも8mは出せる手応えをつかんでいるという。
関東インカレでは2年前に8m01を跳んでいる鈴木秀明が復調し、7m93の大会新で優勝。2位の堀池靖幸も向かい風0.7mで7m85を跳んだ。日本選手権で誰かが8mを越えれば、数人が続く可能性もある。
陸マガ記事を書いた後、荒川大輔が6月13日の関西実業団記録会で8m02(+1.1)をマーク。大阪GPのときに聞いた話なども総合して、荒川を優勝者予想とした。
といっても、昨年優勝者で参考記録ながら8m13(+3.0)を跳んだ菅井洋平の今季の安定ぶりも捨てがたい。また、品田直宏の大舞台での勝負強さにも一目置く必要がある。
関東インカレで復活優勝した8mジャンパーの鈴木秀明、関東インカレ2位で向かい風0.7mで7m85の堀池靖幸、安定している志鎌秀昭らも候補。
どの選手も“期待できる”までの決定力に欠けるが、これだけ候補がいれば誰かしらB標準(8m05)は越えるだろう。
■男子十種競技2日目
田中宏昌の6連勝がかかっている。2007年までは2位に大差をつけていたが、昨年は7594点の田中に対し池田大介が7550点まで追い上げたため、薄氷を踏む勝利だった。
今季も日本選抜和歌山大会で田中が7639点と自己3番目の記録をマークしたが、右代啓祐が7622点と肉薄した。今年23歳で伸び盛りの2人が挑んでくるだけに、激戦となることが予想される。
田中は8種目目の棒高跳で差を広げるのが勝ちパターンだが、右代は9種目目のやり投で70m台、最終種目の1500mで4分27秒台の記録を持つ。棒高跳終了時点で田中が250点リードすれば安全圏、右代と200点前後ではどう転ぶかわからない。
1日目の展望記事では以下のように書いた。
上位候補3選手の自己ベストと、今年の和歌山大会の内訳と得点を一覧表にした。
田中宏昌
|
2009和歌山 |
得点 |
累計 |
田中自己記録 |
得点 |
累計 |
100m |
11"09 (-1.7) |
841 |
841 |
10"87(+1.2) |
890 |
890 |
走幅跳 |
6m85 (+1.7) |
778 |
1619 |
7m16(+2.5) |
852 |
1742 |
砲丸投 |
11m81 |
595 |
2214 |
12m07 |
611 |
2353 |
走高跳 |
1m93 |
740 |
2954 |
1m87 |
687 |
3040 |
400m |
50"08 |
811 |
3765 |
49"85 |
822 |
3862 |
110mH |
15"10 (+1.6) |
837 |
4602 |
15"06(+2.3) |
842 |
4704 |
円盤投 |
42m28 |
711 |
5313 |
40m21 |
669 |
5373 |
棒高跳 |
5m00 |
910 |
6223 |
5m10 |
941 |
6314 |
やり投 |
60m04 |
738 |
6961 |
63m94 |
797 |
7111 |
1500m |
4'40"38 |
678 |
7639 |
4'38"22 |
692 |
7803 |
右代啓祐
|
2009和歌山 |
得点 |
累計 |
右代セカンド記録 |
得点 |
累計 |
100m |
11"57 (-0.9) |
738 |
738 |
11"42(+1.5) |
769 |
769 |
走幅跳 |
6m82 (+0.7) |
771 |
1509 |
6m79(+2.9) |
764 |
1533 |
砲丸投 |
13m78 |
715 |
2224 |
12m89 |
661 |
2194 |
走高跳 |
1m93 |
740 |
2964 |
2m02 |
822 |
3016 |
400m |
50"60 |
787 |
3751 |
51"49 |
747 |
3763 |
110mH |
15"47 (+1.5) |
794 |
4545 |
15"67(+1.3) |
770 |
4533 |
円盤投 |
40m65 |
678 |
5223 |
42m87 |
723 |
5256 |
棒高跳 |
4m50 |
760 |
5983 |
4m40 |
731 |
5987 |
やり投 |
69m33 |
879 |
6862 |
66m96 |
843 |
6830 |
1500m |
4'27"69 |
760 |
7622 |
4'39"71 |
682 |
7512 |
池田大介
|
2009和歌山 |
得点 |
累計 |
池田自己記録 |
得点 |
累計 |
100m |
11"32 (-1.7) |
791 |
791 |
11"30(0.0) |
795 |
795 |
走幅跳 |
6m77 (+0.7) |
760 |
1551 |
6m90(-0.6) |
790 |
1585 |
砲丸投 |
12m78 |
654 |
2205 |
12m77 |
653 |
2238 |
走高跳 |
1m84 |
661 |
2866 |
1m92 |
731 |
2969 |
400m |
49"91 |
819 |
3685 |
49"81 |
823 |
3792 |
110mH |
14"82 (+1.5) |
871 |
4556 |
14"85(+0.5) |
868 |
4660 |
円盤投 |
40m74 |
680 |
5236 |
38m25 |
629 |
5289 |
棒高跳 |
4m50 |
760 |
5996 |
4m60 |
790 |
6079 |
やり投 |
63m15 |
785 |
6781 |
62m83 |
781 |
6860 |
1500m |
4'48"73 |
626 |
7407 |
4'29"29 |
749 |
7609 |
田中と右代を比較すると、得意種目は異なるものの、1日目と2日目の得点配分は似ている。和歌山では初日に14点リードした田中が、最終的に17点差で勝っている。
といっても、このくらいの点差はその試合の状態でいかようにも変わってくる範囲。初日で10〜30リードされたからと、プレッシャーを感じているようでは混成競技選手はつとまらない。
それよりも、初日の注目は池田大介の点数だろう。田中と右代に勝つには、自己ベストに近い点数が必要となる。前半を2人と同レベルの点数で終えられれば、三つ巴の混戦に持ち込める。
実際、1日目が終了して池田大介が3817点で、2位の右代啓祐が3800点。2人とも自己新ペースである。池田は走幅跳の7m06がよく、右代は全体的に安定していた。
田中宏昌は3672点で6位。順位を見ると出遅れたように思えるが、点数でいえば自己3番目の記録を出した今年の和歌山と変わらない(走幅跳の6m68がちょっと痛い。3回目に5m21という記録も残していることから、何か問題点があったと予想できる)。
つまり、7600点以上の勝負になりそうな情勢ということだ。優勝した選手がB標準の7730点に届く可能性も出てきた。
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