2009/3/8 名古屋国際女子マラソン
戦後最大級の功労者
高橋の現役最後の記者会見を完全再現
「頭をよぎったのは、(最初の日本記録を出した)1回目の名古屋マラソンのスパートの地点とか、(シドニー五輪代表を決めた)2000年のときのスパートの地点だとか」
「振り返って思い出にひたる前に、沿道の皆さんが1人1人色んな声援をしてくださったことで、今を楽しむことができた」
Q.走り終えた今の心境を率直に言うと?
高橋 感動のマラソンを走らせてもらったな、という感じがします。最初から最後まで、今日は沿道の皆さんの笑顔が花のように輝いて、春一番を感じられる大会でした。本当にすごく貴重な、大切な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました、というひと言でしか言えません。
Q.どんな言葉を多くかけてもらいましたか。
高橋 沿道からは「ありがとう」という言葉が多かったんですけど、何よりも私の方が500、600、多ければ1000回くらい「ありがとう」という言葉をつぶやきながら走らせていただきました。
Q.ゆっくりでもない、けっこう速いペースで、ずっと手を振りながら笑顔で走ったのは、大変なことだと思うのですが、苦しさはなかったのですか。それと、先ほどの気持ち以外に、思ったこと、去来したことは何だったのでしょうか。
高橋 入りの1kmが思ったよりも速くて、タイムを見た瞬間に“やってしまったな”と思ったのですが、どこで離れていっていいのかわからなくて。先頭で走っているエリート選手の方たちに迷惑をかけないよう、少し距離を置いて行こうと決めていました。少し余裕を持ちながら入ったつもりだったんですが、ハーフくらいまでは予定以上のペースで行ってしまった感じはします。ただ、32kmで時計を見たら予定していたタイムよりも速くて、このまま1km5分ペースで走っても予定通り走れるとわかったときに、走り終えるのがもったいないといいますか、この空間を終えてしまうことがすごく寂しい感じがしてきました。少しでも長くみんなと一緒にいたい、今日は前を向かずに横を見ながら走っていたい気持ちになりました。走馬燈のように色んなことを振り返るのかな、と思いましたが、頭をよぎったのは、(最初の日本記録を出した)1回目の名古屋マラソンのスパートの地点とか、(シドニー五輪代表を決めた)2000年のときのスパートの地点だとか。そういう場面が来ると、シンクロしたかのように以前の気持ちがよみがえったりはしました。ただ、振り返って思い出にひたる前に、沿道の皆さんが1人1人色んな声援をしてくださったことで、今を楽しむことができた。それが一番大きかったと思います。これだけ、沿道の方の笑顔を見ながら余裕を持って走ることは、これまでありませんでした。自分のレースというよりも、一体感を得られた初めてのレースだった感じがします。
「私は23年間、駆けっこを楽しく思い切りやってきたことが軸になっているので、駆けっこをどんどん広めていきたい」
「これから色んなことにチャレンジしていきますが、その1つ1つで集中して、やることは違っても同じような気持ちで挑んでいきたい」
Q.(増田明美さん)今日のゴールが新しいスタートだと思うのですが、新しい道としては今、どのようなことを考えていますか。
高橋 「笑顔の花を咲かせたい」と記者会見のときから言ってきたのは、増田さんがメールで「笑顔の花を咲かせてね」とアドバイスしてくださったのがすごく印象的で、私の目標になったからなんです。本当に今回のマラソンを象徴している言葉でしたから、そういうアドバイスをしてくれた増田さんにすごく感謝しています。今の時点では、(グラウンドでの)最後の挨拶でも言ったのですが、マラソンは見るスポーツ、つらいのに頑張っているなと応援するスポーツから、自分たちが楽しむスポーツに変わってきたと思います。これからは皆さんと一緒に、大いに楽しみながら同じ風を切って走れたらいいと思います。そのなかでもっともっと上を目指して頑張る子どもたちから、初めて陸上に足を踏み入れる子どもたち、そういう子どもたちに何かアドバイスができたらいいなということを一番にやっていきます。これから色々な仕事が待っていると思いますが、やはり私は23年間、駆けっこを楽しく思い切りやってきたことが軸になっているので、駆けっこをどんどん広めていきたいな、という思いが強いです。
Q.あきらめめなければ夢はかなう、というメッセージを名古屋でも何度も伝えてきたと思いますが、これからの夢ということで、どんなことを感じられて、どんなことを伝えていきたいと考えていますか。
高橋 あきらめなければ夢は叶う。これはずっと、自分の中で何回も繰り返しながら、支えにしてきた言葉です。何をこれからやるにしろ、ずっと私の信念の軸になる言葉だと思います。23年間、思い切り1つのことを集中して、頑張ってくることができたのはすごい素晴らしいことですし、とても大切なことだと感じています。これからはそういう生活ではなく、色んなことにチャレンジしていくことになると思いますが、その1つ1つで集中して、今日一日全力で頑張れるという気持ちを持って、今までやってきたことを思い返しながら、やることは違っても同じような気持ちで挑んでいきたいな、と思っています。
「一番魂の近いところで走り合った仲間(シモン)はつながっているのだな、と感動しました」
「ジョガーの皆さんがいいなあと思ってもらえるような、走ってみたいな、楽しそうだな、お洒落ができるんだな、と思ってもらえる衣装を選んでみました」
Q.アップのときシモンさんと、どんなことを話したのか、ということと、チームQもこれを区切りにそれぞれの道に進むと聞いていますが、チームQのメンバーにどんな思いを持っていますか。
高橋 シモンさんが1月の大阪の疲れがあるなかでも一緒に走りたいからと、強行スケジュールを組んで来てくれたというのは、本当に嬉しく思います。頻繁に話したり、連絡を取り合う関係ではないのですが、それでも一緒に、一番魂の近いところで走り合った仲間はつながっているのだな、と感動しました。こうした最後のランで一緒に走れることがすごく嬉しいと、話してくれました。ありがとうとお礼を言った後に、また、これからもずっと一緒にいようね、と言いました。私もこの先アメリカに顔を出すから、と言うと、そのときは遊びに来てね、と。そして次は、赤ちゃん産んでね、と言われました(笑)。そうですね、チームQというのはこの4年間、私にとって思いっきりやらせてもらえる、そして全力で支えてもらえる、大切な時間を過ごさせてもらったチームメイトでした。自らの人生を変えて、一緒にやってもらえた仲間というのは本当に大切ですし、これから先、ばらばらになっていくメンバーもいるんですが、彼らは一生大切な私の宝物だと思います。
Q.今日のランニングシャツは黄色で、シューズが緑だったんですが、何かメッセージが?
高橋 本当は青を走るユニフォームとして考えていたんですが、金曜日に初めて黄色を着たときに、花のような感じで、ちょうど笑顔も花のように咲くだろうからと、急きょ黄色に変えました。そして、色というよりも、今まではエリートランナーとしてユニフォームを着て走っていたんですけども、今日はジョガーのスタートでもあるので、ジョガーの皆さんがいいなあと思ってもらえるような、走ってみたいな、楽しそうだな、お洒落ができるんだな、と思ってもらえる衣装を選んでみました。この緑のシューズは今年、アシックスさんの方で作っていただいて、アースカラーといいますかエコを兼ねた緑というのをテーマにしていたので、最後、この緑を使って走りたいということで。すべての小物といいますか、靴とネックレスとサングラスを緑で統一して走りました。
Q.夢はきっとかなう、前回は挑戦という言葉、今日はおそらくありがとうというメッセージで走ったと思うんですが、これから新しいスタートするにあたって、ひと言でご自分のことを言い表すとしたら、どんな標語になりますか。
高橋 今日までのことをすべて忘れてスタートする、これからは皆さんでいう新入社員のような立場になります。すべてのことが新しく、初めから一線級でやれるとは思っていないんですが、気持ちだけは全力投球できるように、まさにチャレンジという言葉に尽きると思います。
「最後10kmを切ったあたりから、あと9kmしかない、あと8kmしかない、あと7kmしかないと」
「今日は笑顔を覚えていてほしいということもあって、私に涙はなかったんですが…」
Q.エリートとしてやっているときは本当に勝負を考えてマラソンを走っていたと思うんですが、今日マラソンを勝負ではない形で走ってみて、初めて見えたこと、感じたこと、今までと違ったことを見つけられたことは?
高橋 声援にはもちろん、エリートの頃から、背中を押してもらってきました。すごく感謝もしていますし、必ず力になっていました。ただ、目線を斜め下に下げて、サングラスをかけて、自分の中で集中しながら声だけを頼りに、背中を押してもらえるように走ってきました。今回はサングラスを外して、一番楽な目線というより、ずっと真横を見ながらというくらいに横を見ながら走ってきました。そしたら皆さんが本当に笑顔なんですね。近づいて手を振って、ありがとう、頑張れという姿で。お花のように笑顔がパッと咲いて、応援してくれる姿に感動してしまって私自身も42kmを笑顔で走りきれたと思います。そういう意味では、声援だけではなく体全身で発し得るエネルギーを直に感じたなと思います。今までは、皆さんの表情まで確認することができなかったので、その言葉から発し得るパワーみたいなものを今日改めて、もう一回実感したと思います。
MC 次で最後の質問とさせていただきます。
Q.30km過ぎから走り終えるの寂しかったということですが、ゴールした瞬間はどんなお気持ちだったのでしょうか。
高橋 最後10kmを切ったあたりから、あと9kmしかない、あと8kmしかない、あと7kmしかないと、どんどん少なくなっていく距離に、この時間ももう少しで終わってしまうんだなと。応援されている嬉しい気持ちの中で、すごい寂しい気持ちを持ちながら走りました。競技場に入ってきたらスタートの時よりもっと多い人たちの声援をいただき、感動がグッと込み上げるようなものがありました。楽しく走っていたというのもあるのですが、今日は笑顔を覚えていてほしいということもあって、私に涙はなかったんですが、そういう意味では感動の時間をいただきました(最後、声のトーンが落ちる)。
MC:予定した時間が過ぎています。Qちゃんの記者会見をこの辺で終了させていただきます。あ、カメラの方どうぞ…良い写真を撮ってあげてください(周囲から笑い)。
高橋 本当に今まで、ありがとうございました。沿道やスタジアムで応援してくださった方々もちろんのこと、私は多くの番記者の皆さんにも、色々とつらい時期も支えてもらって………………元気をもらって……楽しい時間をたくさんいただきました。………………どんな会見の時でも温かく支えていただいて、ゴールして、一番最初に迎えてくださるのは皆さんで……そういう方々に…出会えたことが…すごく嬉しく、思います。泣く、つもりはなかったんですが、本当に温かい人たちに出会えて、支えられて嬉しく思います。ありがとうございました。
(拍手)
会場から:ありがとう!
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