2009/9/5 日本インカレ
day2

男子100m決勝
江里口が10秒13で圧勝
「ベルリンで得たものを、学生の試合に生かせないようでどうする、と思って日本インカレに臨みました」
学生選手の10秒20未満4回は末續に次ぐ多さ


 男子100 mは江里口匡史(早大)が10秒13(+1.2)で圧勝した。
 予選を10秒33(+1.4)、準決勝を10秒28(+1.0)で通過。ラウンドが進む毎に、10秒3台、2台、1台と記録を上げていった。
「去年の全カレも今年の日本選手権も、準決勝で一番良い走りをして、決勝が伸びなかった。ここ一番で力を発揮する選手が、世界大会でも力を発揮できるのだとベルリンで痛感しました。狙ったラウンドで力を発揮できるようになりたい。今回、その意識の違いを少しでも表せてよかった」
 6月末の日本選手権で優勝した江里口は、準決勝で10秒07を出しながら、決勝は実績ナンバーワンの塚原直貴(富士通)が欠場したにもかかわらず、10秒14とタイムを落とした。今大会2位は日本選手権と同じ木村慎太郎(早大)だが、差は0.08秒から0.19秒に開いた。両大会の決勝に進出した後藤乃毅(慶大)や河合元紀(中大)とも、同様にタイム差が大きくなっている。

 レース展開も危なげなかった。
 課題としている2次加速でトップに立った江里口だが、その前半よりも、後半が強かった。これまでの江里口は後半型とはいえない選手だった。それが変わっていた。前半で理想とする動きができて力を使わなかったから、後半が伸びたのではないか。
 日本選手権の決勝でも、世界選手権の100 mでも、どこかでバランスを崩すことがあったが、それは力みから生じるものだという指摘も指導陣からされていた。その欠点が、このインカレでは見られなかった。

 世界選手権の100 m1次&2次予選と、4×100 mRの予選&決勝の経験が、江里口を明らかに変えていた。
「100 mは明らかに落ち着きを欠いていました。1次予選、2次予選とアッと言う間に過ぎてしまった。何に焦ったのか、身が入らなかった。そこからリレーまで中5日間あって、100 mの準決勝と決勝、そして200 mを観戦しました。他の選手と話したり、苅部(俊二)コーチや土江(寛裕)コーチの話を聞かせてもらったりして、世界の舞台で今の自分が果たすべき役割が少しずつ見えてきました。リレーの1走で1番になることを求められているわけじゃありません。それまでは過剰なプレッシャーを自分にかけていました。今の自分ができる走りを、ここで表現すればいいと考えられるようになって、落ち着いて4×100 mRに臨めたんです。短時間でリレーに生かせたわけです。ベルリンで得たものを、学生の試合に生かせないようでどうする、と思って日本インカレに臨みました」

 日本インカレの江里口には、落ち着きがあった。アップをしていても、どこかに余裕を持てたという。
「今までは予選や準決勝の走りから誰が来て、誰が来ると考えながらアップをしていました。それが自分では冷静にやっていることだと思っていたんです。それが今回はなかった。自分の予選と準決勝を踏まえてアップをして、自分の集中すべきことができていました。ドリルをするにしてもただ体を動かすのでなく、自分の走りのなかにこのドリルがどうつながっていくのかを考えていたら、気づいたらスタートラインに立っていました」

 次は、インカレよりもレベルの高い試合で、同じようにする必要がある。9月23日のスーパー陸上には大物外国人選手や塚原も出場する。特に塚原とは、しっかりと勝負をしたい気持ちが強い。前述のようなアップを塚原がいてもできるか、という質問に対し次のように答えた。
「それができないと、世界でも通用しないんです。スーパー陸上でも今日みたいな流れで走ることができれば、世界に近づくことになります。今、日本で世界に一番近いのが塚原さんです。そこに僕も加わっていかないといけない。スーパー陸上で塚原さんと勝負ができるようになるための、そのためのインカレだったと思います」

 なお、学生選手の10秒20未満のパフォーマンスを表にまとめてみた。江里口の10秒20突破は4回目で、学生では熊本県の先輩である末續慎吾(東海大→ミズノ)に次いで2番目の多さである。
 というか、初めての10秒1台は朝原宣治(同大→大阪ガス)だが、朝原も、その後の学生選手も、この2人以外は1回しか10秒20未満で走っていない。トラックの進歩もあるが、江里口の力が日本を代表するスプリンターたちに近づいていることを示している。
学生選手の10秒20未満全パフォーマンス(時間順)
記録 選手 所属 年月日 成績 場所 大会
10.19 2.0 朝原 宣治 同大 1993/10/26 1s* 鳴門 国体
10.11 0.3 川畑 伸吾 法大 2000/9/2 1 国立 日本インカレ
10.19 0.3 末続 慎吾 東海大 2000/9/2 2 国立競技場 日本インカレ
10.05 1.9 末続  東海大 2002/5/6 1 水戸 水戸国際
10.13 1.9 田島 宣弘 日体大 2002/5/6 2 水戸 水戸国際
10.18 0.7 末続 東海大 2002/5/6 1h1 水戸 水戸国際
10.13 1.8 末続 東海大 2002/5/11 3 万博 国際グランプリ大阪
10.16 0.2 末続 東海大 2002/5/16 1s1 国立競技場 関東インカレ
10.12 1.2 末続 東海大 2002/5/17 1 国立競技場 関東インカレ
10.12 0.7 末続 東海大 2002/9/6 1s3 国立 日本インカレ
10.15 0.6 塚原 直貴 東海大 2007/9/16 1r2 代々木 トワイライト・ゲームス
10.14 1.0 江里口匡史 早大 2009/6/27 1h5 広島広域 日本選手権
10.07 1.9 江里口 早大 2009/6/28 1s1 広島広域 日本選手権
10.14 1.9 江里口 早大 2009/6/28 1 広島広域 日本選手権
10.13 1.2 江里口 早大 2009/9/5 1 国立競技場 日本インカレ


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