2009/9/4 日本インカレ
day1

@男子100 m予選&準決勝
江里口、準決勝1位通過で2次加速に手応え
「決勝では10秒1台に行ける」


 日本インカレ(国立競技場)の男子100 mは予選と準決勝が行われ、世界選手権4×100 mR1走だった江里口匡史(早大3年)が準決勝2組を10秒28(+1.0)で通過。

 江里口の2次加速は他を圧していた。予選はそこまでしっかり走って、後半はリラックスした走りで10秒33(+1.4)。準決勝ではやはり2次加速で大きくリードを奪い、全体を通じて唯一の10秒2台を記録した。
「予選のアップでは1歩目から乗れている感覚がありましたが、予選はのそのそ出て間延びした感じでした。準決勝はそこを切り換えていこうとしましたが、良いスタートではありませんでした。でも、立ち上がって2次加速に乗っていくところは、上手く行けている感覚があります。決勝は10秒1台に行ける手応えがあります」

 ライバルたちはどうだったか。
 1組は大阪GP4×100 mR1走を務めた安孫子充裕(筑波大3年)が10秒31(+3.0)で1位、3組は世界選手権代表(本番は100 mのみ出場)の木村慎太郎(早大4年)が10秒40(+0.7)で1位。世界選手権200 m代表だった斎藤仁志(筑波大4年)は3組3位で決勝に進めなかった。
 準決勝1組で安孫子に0.02秒差だった後藤乃毅(慶大3年)と、0.03秒差の小谷優介(立命大)あたりまでがV候補に数えられるが、日本選手権優勝、世界選手権と大舞台を経験してきた江里口に、ゆとりが感じられた。

 関東インカレでは江里口に先着した安孫子だが、今の状態は「江里口が頭1つ抜けています」と認めている。差「あとはドングリですか、そのなかで一番調子の良かった選手が、江里口に勝負を挑んでいくことになると思います」
 それが自分だと言外に気持ちを込めているように思えた。

 早大の1学年先輩である木村は、最後のインカレになる。
「一度もインカレの個人タイトルは取っていませんので、勝ちたいですね。でも、それを意識しすぎず、つねに挑戦者という気持ちで臨みたい」
 具体的に江里口の名前を挙げると、次のような答え方だった。
「世界選手権に行って世界との力の差も、江里口との力の差も感じました。でも、負けていいのかというと、勝負している以上は勝ちたい」

 優位に立つ江里口も4月の織田記念では、塚原直貴(富士通)と高平慎士(同)、木村の3人に敗れた。関東インカレでも前述のように安孫子に名をなさしめた。日本選手権からレベルが上がったが、その決勝や、世界選手権の100 mでは、自分の走りができずにバランスを崩したところがあった。プレッシャーがかかったときに自分の走りができると、100%は言い切れない。

 後藤は江里口と同学年のインターハイ・チャンピオン。そろそろ、江里口に一泡ふかせたいところだろう。日本選手権5位の河合元紀(中大)もプラスの最後に引っかかって決勝に残った。
 誰しもが認める江里口の優位。江里口が自身の走りを貫けるほどレベルが上がったのか、まだ、他の選手がつけ入ることができるのか。見るべきポイントがはっきりした。

A世界選手権代表たち
男子1万mWの代表対決は鈴木
高橋は「決勝で11秒4〜5台を出せれば」


 男子100 mの3人(江里口匡史、木村慎太郎、齋藤仁志)以外では、女子100 mに高橋萌木子(平成国際大3年)、男子1万mWに鈴木雄介(順大4年)と藤澤勇(山梨学大4年)、男子400 mに廣瀬英行(慶大2年)が出場した。

 男子400 mは4連覇のかかっていた金丸祐三(法大4年)が欠場。北京五輪4×400 mR代表の安孫子充裕(筑波大3年)も100 mに回り、また、石塚祐輔(筑波大4年)も予選で落ちた。
 はからずも「負けられないレース」という状況に置かれた廣瀬。200 m通過は22秒9と遅く、数人に先行を許していた。しかし、そこから300 mまでで順位を上げてくるのは得意とするところ。4コーナーを出たところでは小野利明(立命大)と先頭争い。間もなくリードを奪ったので、そのまま差を広げるかと思われたが、最後は小野に追い上げられたように見えた。
 優勝したものの記録は46秒98。最後の直線で「足が止まってしまいました。これでは駄目ですね」と反省した。勝つことで最低限のラインはクリアしたが、代表選手の格は示せなかった。

 高橋萌木子は準決勝2組で11秒78(±0)。1組1位の高木志帆(龍谷大)、3組1位の岡部奈緒(筑波大)らが侮れないが、普通に走れば3連勝は間違いなさそう。
「芯の疲労、精神的な疲労は取れていませんが、ある意味、リラックスできる試合。チームのために走ることで、モチベーションは自然と上がってきます」
 江里口とは対照的に2次加速で上体を起こすのが早い。その矯正が現在の課題だというが、そう簡単にできることとは考えていない。秋のピークはまず、9月23日のスーパー陸上に合わせる。
「明日の決勝で11秒4台か5台を出せれば、上手く上げていけると思う」

 男子1万mWはスタート直後に鈴木雄介と藤澤勇が、集団から抜け出した。藤澤がリードしたが、400 mは1分39秒6(非公式タイム)で、5月の関東インカレで藤澤が出した日本記録のペースを大きく下回った。600 mですかさず鈴木が前に出て、2000m手前から藤澤を引き離し始めた。
 2000mまでの1000mが3分58秒と4分を切ったが、以後は4分00〜04秒で鈴木が独歩。しかし、このペースでは藤澤も差を広げられることはなく、2人の差は6〜8秒で推移していった。だが、鈴木も最後まで崩れず、40分13秒38で逃げ切った。
「600 mで出たのは記録ではなく、勝ちを意識してのこと。そこで離れてくれれば、そのまま押していこうと思った」
 藤澤とは同学年。2年時までは鈴木が実績で勝っていたが、昨年から藤澤が力をつけ、2009年は1月の日本選手権を最後に、3月の全日本競歩能美大会、5月の関東インカレ、7月のユニバーシアード、そして8月の世界選手権と藤澤が勝ち続けた。
「山崎(勇喜)さん、森岡(紘一朗)さん、藤澤には実力的に負けている」と、本人も認めている。
 だが、鈴木の武器は失格の心配のないフォーム。競歩界では、森岡と双璧と言われている。日本インカレでも「ラスト3000mくらい」で注意を1回受けただけで、警告はゼロ。
「改善の余地はある」と本人が言うのは、森岡と同様に失格の心配がないフォームというよりも、スピードを出すためのフォームだ。
「走りと同じで基礎体力を上げていけば、(1km毎を)3分50〜55秒で押せる自信がある」
 20kmWの日本記録(1時間19分29秒)について質問されると「一発懸けていけば、(来年1月の)日本選手権で狙えるかもしれない」と言う。
「でも、それは大会の1カ月前、2カ月前にならないとわかりませんが」と、慎重な発言も。自信と謙虚さが交互に顔を出す選手のようだ。


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