2009/12/5 福岡国際マラソン前日
国内最高記録更新の期待もかかるレースのペースメイクは?
2時間06分10秒
ケベデ、モグス、佐藤の思惑は?


 前回の福岡で優勝したツェガエ・ケベデ(エチオピア)が出した2時間06分10秒は国内でマークされた最高記録(allcomers record)。今回はケベデに加え、08年シカゴ優勝者で2時間06分25秒を持つE・チェルイヨット(ケニア)、ハーフマラソンで59分48秒を持つM・J・モグス(アイデム)らが参戦。2時間5分台の高速レースも期待されている。
 近年の福岡国際マラソンの5km毎の通過記録とスプリットは下記の通り(参考までに世界記録と日本記録、旭化成選手が福岡で出した最高記録も掲載)。ちなみに、ケベデの35kmまでの14分17秒は、好記録が出たレースの30〜35kmのスプリットとしては世界最速だった。
大会・選手・順位・記録 5km 10km 15km 20km 25km 30km 35km 40km 中間 後半
2008福岡 T・ケベデ
1位2:06:10=国内最高
15:08 30:15 45:25 1:00:40 1:15:50 1:30:41 1:44:58 1:59:45 1:04:02 1:02:08
15:08 15:07 15:10 15:15 15:10 14:51 14:17 14:47    
2008福岡 佐藤智之
4位2:09:59
15:09 30:16 45:26 1:00:40 1:15:51 1:30:43 1:46:09 2:02:33 1:04:04 1:05:55
15:09 15:07 15:10 15:14 15:11 14:52 15:26 16:24    
2007福岡 S・ワンジル
1位2:06:39
15:04 30:03 45:06 1:00:12 1:15:05 1:30:05 1:44:49 2:00:03 1:03:31 1:03:08
15:04 14:59 15:03 15:06 14:53 15:00 14:44 15:14    
2006福岡 H・ゲブルセラシエ
1位2:06:52
15:44 30:56 45:57 1:00:59 1:15:54 1:30:47 1:45:30 2:00:20 1:04:19 1:02:33
15:44 15:12 15:01 15:02 14:55 14:53 14:43 14:50    
2005福岡 D・バラノフスキー
1位2:08:29
15:48 31:01 45:51 1:00:28 1:15:25 1:30:33 1:45:46 2:01:32 1:03:44 1:04:45
15:48 15:13 14:50 14:37 14:57 15:08 15:13 15:46    
2000福岡 藤田敦史
1位2:06:51=国内日本人最高
14:54 29:58 45:05 1:00:06 1:15:24 1:30:37 1:45:44 2:00:28 1:03:28 1:03:23
14:54 15:04 15:07 15:01 15:18 15:13 15:07 14:44    
1997福岡 佐保希
3位2:08:47福岡旭化成最高
14:58 29:53 45:01 1:00:12 1:15:29 1:31:03 1:46:19 2:01:53 1:03:33 1:05:14
14:58 14:55 15:08 15:11 15:17 15:34 15:16 15:34    
2008ベルリン H・ゲブルセラシエ
1位2:03:59=世界記録
14:35 29:13 44:03 58:50 1:13:41 1:28:27 1:43:05 1:57:34 1:02:05 1:01:54
14:35 14:38 14:50 14:47 14:51 14:46 14:38 14:29    
2002シカゴ高岡寿成
3位2:06:16=日本記録
14:54 29:40 44:22 0:59:10 1:14:03 1:28:56 1:43:45 1:59:16 1:02:29 1:03:47
14:54 14:46 14:42 14:48 14:53 14:53 14:49 15:31    

 今回、前半のペースメーカーは2月に初マラソンを予定している三津谷祐(トヨタ自動車九州)で「マラソンの雰囲気を実際に経験したいし、強い選手のアップや走りを見ておきたい」と依頼を受けた。ナンバーカード42のラマダニ(タンザニア)と43のカールズ(ケニア)もペースメーカーだが、前半は三津谷の後ろにつく。
 三津谷は中間点までを引っ張る予定だが、詳細なペース設定は公表されない。

 焦点は「可能なら2時間5分台で走りたい」と話すツェガエ・ケベデの出方だろう。記者会見では「前半を62分30秒くらい」と話したが、会見後のカコミ取材では次のように話した。
「去年は前半のペースが少し遅かった。今回はペースメーカーが良ければついていくが、そうでなければ自分から出ていくつもりだ」
 今回はエチオピアからテケステ・ケベデが招待選手として、デレジェ・テスファイエが海外一般選手として出場する。テスファイエはペースが遅かった場合、ツェガエ・ケベデのペースメーカーを務めるという情報もある。
 ツェガエ・ケベデは「誰と一緒に走るかは、始まってみないとわからない」と話しているが、ペース設定が遅ければ、5kmとか10kmでエチオピア勢が前に出る可能性がある。

 そのとき、他の選手たちはどうするか。
 注目されるのはモグスの動向だ。「初マラソンなので無理はしないで、2時間7分台くらいを目標にしています」と慎重な話しぶり。
「調子が良ければケベデ選手とも勝負をしたいですけど、ダメならちょっと抑えたい。ケベデ選手は62分30秒と言っていますが、私は63分くらい。前半からケベデ選手が行ったら、私は抑えます。良いリズムになったら30kmか35kmから行きたい」
 モグスには大学2年時に箱根駅伝2区で、飛ばしすぎて終盤で失速した経験もある(その後は、その反省からハイペースで入ってもきっちりと走りきっている)。
 同学年で高校時代のライバルだったサムエル・ワンジル(ケニア)の初マラソンが2年前の福岡。そこで優勝したワンジルは、世界への階段を一気に駆け上がった。メディアはどうしても比べてしまうが、上田誠仁監督は「2年前とは外国人の顔触れが違う」と指摘する。ワンジルが優勝したからモグスも優勝を狙っていると、安易に考えることへ釘を刺した。

 モグスが考えているのは1km3分00秒ペースだろう。このペースだと中間点が1時間03分18秒になる。ツェガエ・ケベデは2分58秒ペースを意識しているようだ。そのペースだと中間点が1時間02分35秒となる。5km毎に換算すると15分00秒と14分50秒。この10秒が微妙な違いであり、場合によっては大きな違いとなる。
 モグスもハーフマラソンで59分台を3回も走っている。駅伝でも1人で、速いペースで走ることには慣れている。3分00秒ペースでも遅いと感じることもあるのではないか。上田監督もそこを慎重に見極めたいという。
「モグスも遅すぎるのは嫌がります。こちらが3分00秒が良いと思っても、モグスは遅いと感じることもあります。どこまでが速いのか、(指導者と)感覚のズレがあったらいけない。当日の状況を見ながら話し合って決めます」
 慎重に「63分」と話すモグスが、62分30秒のツェガエ・ケベデについて行く可能性もあるのだ。

 日本選手の招待選手は佐藤智之(旭化成)ただ1人になってしまった。外国勢に包囲される形で走ることになるが、そのなかでどう対応するか。佐藤自身は「ハーフを63分くらい」と、モグスと同じ数字を口にしている。佐保希が97年に2時間08分47秒を出したときの中間点が1時間03分33秒である。ツェガエ・ケベデが2分58秒ペースで抜け出しても追わないのではないか。
 だが、モグスがツェガエ・ケベデと一緒に行った場合にどうするか。気象コンディションが良くて全体がハイペースになるのか、モグス個人のコンディションが良いのかを見極めて、走りながら判断していく必要がある。また、当日のレース直前に決まる三津谷のペース設定も考慮する必要がある。


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