2008/11/16 東京国際女子マラソン
尾崎の勝因は呼吸が回復する特性と
上りを平地と変わらない感覚で走れたこと

35-40kmを17分14秒でカバー
金メダリスト2人に続く好タイム


 マーラ・ヤマウチ(英国)が25km手前で尾崎好美(第一生命)に追いついたとき、「呼吸が私と比べてかなり速かった。失速すると思った」と振り返っている。
 それに対して尾崎は次のように答えている。
「きつかったんですが、いつも呼吸は荒くなるんです。練習でもレースでも。荒くなってから粘るとまた楽になってきます。今日もそういう感覚があったので、マーラさんにつかせてもらいました」
 今レースの尾崎は加納由理(セカンドウィンドAC)にもいったん離されながら、30km以降で差を詰めている。

 第一生命の山下佐知子監督は“中だるみ”だと厳しい評価だ。
「どのレースでもそれが課題です。今日はたまたま優勝できましたが、渋井さんがあのまま行っていたら1分半差でゴールしていた感じです。トラックの日本選手権など、2番手集団でトップとかいうレースが多いんです。『それでいいの? 満足しているんじゃないの?』と注意することもありますね」
 しかし、ハイペースの前半について行った上でその展開ができるのは、並の選手にできることでもない。山下監督もそれは認めている。
「普通なら嫌になってしまうところ。大崩れしないのはすごいことだと思います。そういう特性があるのかもしれません」
 今回は結果的に、それが勝因の1つになった。我慢すれば回復すると積極的に考えられれば、武器になることは確かである。

 もう1つの勝因が、上り坂での強さである。
 30km付近から前との差を詰め始め、35〜40kmの5kmを17分14秒でカバーし、先行する加納と渋井を一気に抜き去った。尾崎のこの5kmは17分14秒。加納が17分57秒、渋井が19分02秒だったことを考えると圧倒的だ。
 下の表からもわかるように、東京で2時間30分を切ったパフォーマンスの35〜40kmのタイムでは歴代で3番目。上位2人が五輪金メダリストの野口みずき(シスメックス)と高橋尚子(ファイテン)ということを考えると、その価値がわかる。
 上述の“呼吸を回復させる”能力があったことも影響していると思われるが、上りへの適性もあったように思う。

東京国際女子マラソン2時間30分未満全パフォーマンスの35-40kmスプリットタイム
35-40km フィニッシュ 順位 選手 所属
0:16:56 2:21:37 2007 1位 野口みずき シスメックス
0:17:09 2:24:39 2005 1位 高橋尚子 ファイテン
0:17:14 2:23:30 2008 1位 尾崎好美 第一生命
0:17:21 2:25:24 1987 1位 カトリン・デーレ 東ドイツ
0:17:32 2:25:08 2001 1位 デラルツ・ツル エチオピア
0:17:36 2:27:45 1997 1位 伊藤真貴子 第一生命
0:17:36 2:28:50 1995 3位 原 万里子 富士銀行
0:17:40 2:28:02 1997 2位 ジョイス・チェプチュンバ ケニア
0:17:41 2:25:15 2005 2位 ジビレ・バルシュナイテ リトアニア
0:17:42 2:24:59 2002 1位 バヌーエリア・ムラシャニ タンザニア
0:17:42 2:25:02 2002 2位 松岡理恵 天満屋
0:17:43 2:25:29 2001 2位 イリーナ・ティモフェエワ ロシア
0:17:45 2:28:46 1995 1位 浅利純子 ダイハツ
0:17:45 2:28:48 1995 2位 ワレンティナ・エゴロワ ロシア
0:17:46 2:25:35 2001 3位 ブルーナ・ジェノベーゼ イタリア
0:17:48 2:28:49 2000 6位 アリナ・イワノワ ロシア
0:17:53 2:28:23 1997 3位 ヤネ・サルマエ エストニア
0:17:54 2:24:02 2000 1位 ジョイス・チェプチュンバ ケニア
0:17:54 2:26:34 2004 1位 ブルーナ・ジェノベーゼ イタリア
0:17:55 2:22:12 1999 1位 山口衛里 天満屋
0:17:55 2:26:43 2004 2位 嶋原清子 資生堂
0:17:57 2:28:56 1995 4位 吉田直美 リクルート
0:17:57 2:24:27 2008 2位 加納由理 セカンドウィンドAC
0:17:58 2:24:47 2000 2位 土佐礼子 三井海上
0:17:58 2:26:45 2002 3位 イリーナ・ティモフェエワ ロシア
0:18:02 2:23:31 2007 2位 サリナ・コスゲイ ケニア
0:18:03 2:27:57 1987 3位 ゾーヤ・イワノワ ソ連
0:18:06 2:26:34 1987 2位 カーラ・ビュースケンス オランダ
0:18:06 2:27:52 2000 4位 マルゴルザタ・ソバンスカ ポーランド
0:18:10 2:27:01 2001 5位 マルゴルザタ・ソバンスカ ポーランド
0:18:10 2:28:29 1998 1位 浅利純子 ダイハツ
0:18:10 2:28:29 1998 2位 市橋有里 住友VISA
0:18:11 2:26:55 2005 4位 スベトラーナ・ザハロワ ロシア
0:18:13 2:29:37 1995 5位 後藤郁代 旭化成
0:18:15 2:26:39 2001 4位 ディタ・コンスタンティナ ルーマニア
0:18:17 2:26:40 1993 1位 ワレンティナ・エゴロワ ロシア
0:18:19 2:28:20 2000 5位 片岡純子 富士銀行
0:18:20 2:25:03 2008 3位 マーラ・ヤマウチ
0:18:23 2:27:28 2004 5位 ジビレ・バルシュナイテ リトアニア
0:18:24 2:28:22 1993 2位 谷川真理 資生堂
0:18:26 2:26:50 2005 3位 エルフィネッシュ・アレム エチオピア
0:18:28 2:28:39 2007 4位 尾崎朱美 セカンドウィンドAC
0:18:30 2:27:38 2005 5位 マーラ・ヤマウチ
0:18:32 2:24:47 2003 1位 エルフィネッシュ・アレム エチオピア
0:18:32 2:27:38 1992 1位 リズ・マッコルガン
0:18:33 2:27:35 2007 3位 ブルーナ・ジェノベーゼ イタリア
0:18:34 2:26:38 2000 3位 デラルツ・ツル エチオピア
0:18:34 2:26:58 2004 3位 エルフィネッシュ・アレム エチオピア
0:18:36 2:27:05 1999 2位 ファツマ・ロバ エチオピア
0:18:38 2:26:15 2006 1位 土佐礼子 三井住友海上
0:18:40 2:27:02 2004 4位 千葉真子 豊田自動織機
0:18:46 2:28:58 1996 1位 藤村信子 ダイハツ
0:18:47 2:28:52 1993 3位 カトリン・デーレ ドイツ
0:18:48 2:28:56 1999 4位 ヤネ・サルマエ エストニア
0:18:51 2:28:51 2000 7位 山内美根子 資生堂
0:18:53 2:27:15 1986 1位 ロザ・モタ ポルトガル
0:19:00 2:28:51 2006 2位 尾崎朱美 資生堂
0:19:02 2:25:51 2008 4位 渋井陽子 三井住友海上
0:19:06 2:28:13 2001 6位 赤木純子 積水化学
0:19:08 2:28:06 1999 3位 ワレンティナ・エゴロワ ロシア
0:19:14 2:29:32 1996 2位 マヌエラ・マシャド ポルトガル
0:19:15 2:28:22 2001 7位 後藤郁代 旭化成
0:19:26 2:29:24 2004 6位 孫 英傑 中国
0:19:52 2:29:18 2001 8位 市川良子 東京陸協
0:20:01 2:29:31 2002 4位 エルフィネッシュ・アレム エチオピア
0:20:12 2:29:00 1999 5位 千葉真子 旭化成
0:20:17 2:27:21 2003 2位 高橋尚子 スカイネットアジア航空
※注 2時間30分00秒以下の記録では、94年に2時間30分09秒で優勝したワレンティナ・エゴロワ(ロシア)が17分08秒。2時間30分30秒で2位の盛山玲世(芙蓉)が17分19秒。

 尾崎は自身の上りの走りにピンと来ていない様子だった。
「上りの苦手意識があったので…。上りのコースとしてはタイムが良い方だと思います。想像していたよりも急な坂とは感じませんでした。まあまあです」
 それに対して山下監督は、驚きを隠そうとしない。
「35kmからあんなに行くとは思いませんでしたね。他の選手より落ち幅が少ないだろう、くらいは考えていましたが。まさか、こんなに上がるとは思いませんでした」

 推測の域を出ないが、箱根駅伝5区区間記録保持者の今井正人(トヨタ自動車九州)のように、平地に近い動きを上りでもできたのかもしれない。
 山下監督によれば、苦手意識を克服するためにボルダーでも上り坂ダッシュを多く行なったという。阿蘇合宿でもアップダウンを多用した。今回の東京に向けての練習が功を奏したのか、継続してきた成果なのかはよくわからないが、上りの動きが以前と変わった可能性はある。


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