2008/9/20 鴻巣ナイター
ポイント練習数回で復帰した絹川
「距離走をやらないと走れない、という考え方は捨てないといけない」(渡辺コーチ)

 絹川愛(ミズノ)が鴻巣ナイター女子3000mで実業団初レースに臨み、9分11秒61の好記録をマークした。レース出場は昨年11月の国際千葉駅伝、トラックは左足腓骨筋の痛みのため途中棄権した昨年10月の神戸女子選抜長距離5000m以来である。
 渡辺高夫コーチはまず、「スタートラインに立てたことが、絹川本人も、コーチの私も最大の喜び。去年の12月からここまで、10カ月間耐え抜いたのはただ者じゃない」と、復帰できたことを最大評価した。
 昨年11月に体のあちこちに痛みが出始め、風邪のような症状も頻発。12月には右大腿骨に疲労骨折まで見つかった。1月に少し良くなって走り始めたが、2月頭には左大腿やひざを悪化させてしまった。渡辺コーチによれば一番ひどいときは100 m歩くことが困難だったという。3月は卒業式中に倒れてしまうなど、疲労性の故障とは考えにくい状況に。血液検査の結果、ウイルス性の体調不良だと判明した。
「免疫力を高めることに努めました。食べ物とか静養の仕方など」

 6月から水泳とジョッグができるようになり、7月にはジョッグの時間を40〜50分まで伸ばした。
「時間はあったので、7〜8月は筋力をつけるために蔵王、会津、宮城、秋田と山を転々としました。最初は2〜3時間、延々と山を歩きました。とにかくリハビリ。そして、リハビリをしながら下半身を強化しようという狙いです」
 8月中旬の田沢湖合宿中に初めて1000mタイムトライアルを行ったところ、3分10秒で走ることができて絹川もビックリしていたという。9月には北海道千歳で8日間の合宿。1000m6本を3分15秒設定で行い、すべて3分10秒を切った。最終日の4000m−2000m−1000mは「世界選手権前くらいの走り。最後の1000mは3分2秒」(渡辺コーチ)だった。
 鴻巣ナイター前日の1000mを2分57秒で行けたため、3分10秒ペースだった設定を3分05〜06秒に変更した。
 持っている身体能力の高さがあるとはいえ、これだけ少ないスピード練習で復帰できるのは驚きである。「ヨソより1〜2カ月は早いでしょう」という渡辺コーチに、それを可能とする要因を聞いた。

「クロカン効果というのはあると思う。山歩きも後半は、途中で走ったりします。特に上りがポイントです。クロスカントリーをやることで、トラックに匹敵する心肺機能や、脚筋力が養成でき、バランスが良くなる。その間、トラックのスピード練習はやっていませんが、効果は絶大だと思います。使う筋肉は違いますが、水泳をかなりやって肩の筋肉はもりもりになりました」
 秋に走れていた選手が冬場の駅伝で走れなかった場合、夏場の走り込みが不足していたから当然だ、という分析をよく聞く。それに対して渡辺コーチは疑問を呈する。
「道路の距離走をやらないと駅伝やマラソンを走れない、という日本の考え方は捨てないといけないでしょう。夏に故障で走れなくても、クロカン、山歩き、水泳をやって箱根駅伝を走れている選手はいると思いますよ」
 要は、何をもって基礎とするか。絹川のような例が多くなり、さらに成績も安定するようになれば、スピードはあるが故障も多いという選手を生かせない日本の長距離界に、選択肢が増えることになる。


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