2008/7/25 トワイライト・ゲームス
17m84の日本歴代6位
自己記録30cm更新の背景はストレッチ
166cmの体格を克服する大橋の特徴

 自己記録を30cm更新した大橋忠司(チームミズノアスレティック)の話を聞いていてビックリした。練習で変えたところが何かあるのか、という話題になったときに「アップでストレッチをやるようになりました。以前はまったくやらなかったんです」という話が出たのだ。アップ自体、ほとんどやらなかったという。日本のトップレベルでそんな選手がいるのかと驚かされた。
 学生(国士大)時代は投てきブロック全体でアップを行っていたが、3・4年時には「なくてもなんとかなるのでは?」と感じていた。しかし、大学卒業後に諏訪中(多摩市)の特別支援学級の補助員の仕事をするようになり、状況が変わった。知的障害者や肢体不自由者の生徒たちを相手に、1時間目から6時間目までみっちり仕事をする。その足で国士大の練習に駆けつける。
「面倒くさがりという性格もあるのかもしれませんが、身体は十分温まっていると思っていました。アップまでやったらその分、疲れてしまうと考えていましたから、いきなり投げていました」

 しかし、6月頭に右脚のハムストリングを痛め、日本選手権(17m18)、南部記念(17m16)と不本意な結果に終わった。それまで、大きなケガはまったくなかっただけに、戸惑いもあったのだろう。南部記念でMTC岩本広明トレーナーの治療を受けると痛みも引いた。同時にストレッチや練習後のアイシングの重要性、そのやり方を教わった。その後の状態が「鰻登り」になったという大橋は、「岩本さんのおかげです」を繰り返した。
 この日の投てきを技術的に振り返ると、大橋には不満が残る。「突き出しが横に行ってしまった。勢いだけでした」。その勢いは、南部記念後の短い期間ながら、ストレッチやケアという当たり前のことをやった成果だったのかもしれない。

 大橋の元々の特徴は並はずれた筋力にある。その一方で、投てき選手としては小柄(166cm)というハンディも抱えている。
「身長がありませんから、力とスピードで投げるしかありません。そのためには、(ウエイトトレーニングの)どの種目というのでなく、まんべんなくやる必要があります。ただ、そのなかでもベンチプレスは砲丸投と同じ突き出す動きなので重視しています」
 ベンチプレスのMAXは250kgで、日本記録保持者の畑瀬聡(群馬綜合ガードシステム)の190kg、日本歴代3位の村川洋平(スズキ)の160kgを大きく上回る。畑瀬、村川が18m50前後を投げていることを考えると、大橋の場合投射高はいかんともしがたいが、まだまだ動きの部分で工夫する余地がありそうだ。
「最近少し良くなっていますが、(グライド後の接地時に)右足が砲丸の下に来ないんです。上体も早く左に開いてしまいます。修正点はたくさんあります」

 だが、大橋の感覚では、なんとかなりそうな手応えもある。
「たぶん、18mを投げられたら、記録はポンポンと出るような気がします。神経がわかってくるというか、自分の中ではすぐ行くような気がするんです」
 どんな種目でも、しっかりした型(技術)が定着すれば記録は伸びる。その型が定着しないと、記録にも壁が生じてしまう。大橋の場合、その目安が18mということなのだろう。
 元々のキャラなのかもしれないが、淡々とした話しぶりだった大橋。30cmの自己記録更新にも、喜んでいる素振りをあまり見せない。
「これで終わりじゃないんです。明日からまた練習します」


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