2008/4/20 日本選抜和歌山大会
右代が最終種目の1500mで田中を逆転!
7512点の大幅自己新&学生歴代8位
9種目めのやり投終了時点でトップの田中宏昌(モンテローザ)は6830点で、記録的には厳しい状態に。その代わり勝負が面白くなっていた。34点差で国士大4年の右代啓祐(うしろ・けいすけ)が迫っていたからだ。アナウンサーが「1500mの記録なら約5秒50の差です」と場内を盛り上げる。
スタートすると196cmと長身の右代が3番手、田中はちょっと間をおいて4番手で続く。400 m通過は右代が1分08秒36(寺田手動計時。以下同)で田中は2秒18差。後方の田中が良い感じで走っているようにも見えたが、そこから差は開いていく。800 mでは7秒42差。1070m付近で右代は2番手に上がると、残り1周の1100mでは田中に10秒89差、1200mでは13秒(この地点だけ通告)差に広げた。
「最後のストレートで、気になって後ろを見てしまいました」と言うが、もう勝敗は決していた。フィニッシュでは19秒58で、総合得点は7512点と7428点。田中が日本選手に負けたのは、2006年のこの大会以来2年ぶりのことだった。
最後の最後で後ろを振り返った右代だが、それまでは記録だけを考えていた。
「昨シーズンは7300点を目標にしていて7166点(昨年の群馬リレーカーニバル)。冬期はトレーニングもケガなく継続できましたし、初戦で7300点を取りたい気持ちがありました。(勝ちたい気持ちは?)その辺はまったくなくて、着実に7300点を、それができそうになったら7400点をと考えながらやっていました。(1500mの前は)7500点を取りたいと。7500点を取るには順位も1位にならないといけなかったわけですが、とりあえずはタイムを出したくて、1500mを思い切り行くことしか考えていませんでした。(1500mのレース中も)前の選手に置いていかれないことだけを考えていました」
346点の大幅な自己記録更新だった右代。実に6種目で自己記録を更新した。
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大会前 |
2008和歌山 |
100 m |
11秒45 |
11秒42(+1.5) |
走幅跳 |
6m75 |
6m79(+2.9) |
砲丸投 |
13m68 |
12m89 |
走高跳 |
2m04 |
2m02 |
400 m |
51秒34 |
51秒49 |
110 mH |
15秒84 |
15秒67(+1.3) |
円盤投 |
42m68 |
42m87 |
棒高跳 |
4m30 |
4m40 |
やり投 |
65m19 |
66m96 |
1500m |
4分33秒** |
4分39秒71 |
走幅跳は追い風2.9mで公認記録とはならないが、追い風4m以内なら総合得点は認められる。混成選手としての感覚では「自己新」だという。過去にこれだけ多種目で自己新を出した試合はなく「よくて3種目」だった。
躍進の秘密は冬期練習の“やり方”にあった。
「1年前の冬期練習は、とにかくガムシャラにやっていました。この冬期はただ思い切りやるのでなく、走り方でもなんでも、十種につなげることを意識しました。投てきにしても今までは練習で思い切り投げて、試合ではばらつきがあった。それをこの冬は、松田先生(松田克彦混成部長)をはじめとする先生方の指導で、60〜80%の力でも、技術を意識できる練習をするようにしました」
それでも、今回の大幅自己新は本人も予想していなかったようで「夢のようです。コンディションも良かったのでしょうが、本当にビックリ。素直に嬉しいですし、目標にしていた田中さんに勝つこともできました」と、興奮冷めやらぬ表情で話す。
「まず7300点を出して、そのあとに7500点を出すのが今シーズンの目標でした。7500点を超えちゃって動揺しているので、今すぐ何点を目標にとは言えませんが、これに満足せず関東インカレ、日本インカレ、日本選手権というチャンピオンシップでも、7500点を出したいと思います」
幸いといったらおかしいかもしれないが、同学年には池田大介(日大)というライバルがいる。インターハイは2位だった右代だが、高校新で優勝した池田とは「500点の差があった」というし、7166点の自己新を出した昨年の群馬リレーカーニバルでは、池田も7609点の学生歴代3位を出している。
「あのときは突き放されたというか、まだ遠い存在だと感じてしまいましたが、今回の記録でだいぶ近づいた感じがします」
その池田は今大会、4種目目の走高跳で足首を負傷して途中棄権。形の上では初めて勝利を収めたが、右代に勝ったという意識はない。「次はちゃんと10種目を戦って勝負をしたい」
学生記録は今大会も、現場で戦況を見守った金子宗弘氏(現ミズノ、当時順大)の7916点で、日本記録も金子氏の7995点。特に学生記録を出すには時間に限りがあり、簡単に出せるものではないが、いずれは、おのレベルに達してほしい2選手である。
田中宏昌コメント
「くやしいのですが、負けたことに対してではなく、やりたいことが何もできずに終わったことがくやしいです。あれだけベストを更新したのだから、右代はすごかったと思います。
最初の1本で悪い点がわかっても、修正できないことが多かったのですが、動き自体は悪くありません。練習で2カ月、詰めた部分ができなかったのが、そのまま出てしまいました。それと最後の走り込みができず、その辺が400 mや1500mに現れてしまったと思います。どうしようもないというわけではないので、日本選手権まで2カ月、詰めた部分をやって調整すれば、試合はこなせるようになると思います。
2年前もこの大会で負けたんです。そのときは1点差だったのでくやしい思いもしましたが、そのときは日本選手権で自己ベスト(7803点=日本歴代3位)が出ています。今回も刺激になったというか、もう1回しっかりと、今まで以上にやっていかないといけません」
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