2008/4/20 日本選抜和歌山大会
対馬、小池、河北が激突
男子ヨンパー“3人目の代表”の行方は?


@記録は50秒台も対馬がライバルたちに先勝
 男子400 mHは為末大(APF)と成迫健児(ミズノ)の2強がエントリーしなかったが、3人目の代表候補が多くいる種目。49秒台の自己記録を持つ対馬庸佑(アスレティクス・ジャパン)、小池崇之(チームミズノアスレティック)、河北尚広(石丸製麺)の3選手の勝敗、記録がともに注目を集めた。
 5レーンから対馬、小池、河北の順に並んだレースは、前半13歩のインターバルの対馬と14歩の小池が、バックストレートを並走しながら河北との差を詰めていく。実質的には徐々に河北が遅れていった。4コーナーを出たところでは対馬が僅かに出ていた。そこからさらに対馬が差を広げて50秒29の大会新でフィニッシュした。
 ホームストレートでは河北が追い上げ、最後は2位の小池に0.01秒差まで迫った。2人の記録は50秒52と50秒53。

 優勝した対馬のハードル間の歩数はこの日、5台目まで13歩で7台目までが14歩、8台目以降が15歩だった。
「これまで弱かった5〜8台目、200〜300mの強化を冬からずっとやってきました。5台目を跳び終えた後の流れがスムーズに行きました。(タイムが50秒台にとどまったのは)前半の向かい風の影響だと思いますが、それを理由にしていたらいつまでたっても出せません。(北京五輪代表になるためには)まずはA標準(49秒20)を切らないと話になりませんが、49秒を切らないと代表はないでしょう。勝つことは大切だと高野(進)先生にも日頃から言われています。今日の勝利は大きいですけど、結果に一喜一憂せずにしっかりと調整していきたい」
 社会人5年目となるハードラーは、冷静な分析と地に足の着いた考えを話したが、口調には熱いものが感じられた。

A対馬復調の背景
 対馬の自己記録は49秒79で、4位だった昨年の日本選手権で出したもの。それ以前のベストは東海大4年時の2003年に出した50秒22。184cmの長身で、400 mでも翌年46秒32を出すなど、その時点では将来を期待されるポジションに躍り出た。ところが、自己記録を更新するのに4年の歳月を要した。
「新しい部分に目を向けなかったからです。大学4年時の50秒22は、今から考えれば何もわからずに出した記録です。その後の練習は“なんとなく”という感じで進めてしまって、“これをやらなきゃいけない”“これが不足している”という部分から目を逸らしていました。400 mもそうですが以前は200 mまでガツガツ飛ばして、後はどれだけリードを守れるか、というパターンでした。昨年からレースをトータルで考えるようにしました」
 その具体的な解決策の1つが、和歌山でもポイントとなった200 mから300 mの流れをスムーズにすること。練習でも5台目以降を意識したメニューをこなした。第2コーナーから300 mを走ってフィニッシュ地点まで着いたら、120mほどウォーキングでトラックを移動し、ハードルを4台目から10台目まで跳ぶというのが一例である。

 かといって、元の前半型を大きく変更したわけではない。「1〜3台目、1〜5台目のアプローチがベースとしてある上での話です」と対馬。スピードが特徴であることに変わりはないからだ。
「ただ、そのスピードが落ちていたんです。自己記録が46秒前半で、いつでも47秒くらいでは走れると勘違いしてしまった。昨年など、400 mを走っても48秒が切れませんでした。5台目まで13歩で行けないこともありましたが、ハードルでの“走り方”が間違っていると受け取ってしまいました。そこを、“走力強化”からもう一度やって、それが今年はハードルと噛み合ってきた手応えがあります」

B13歩ハードラーか、14歩ハードラーか?
 今大会2位の小池崇之は、対馬とは対照的だった。3〜4コーナーを対馬が上手く走ったのに対し、小池は「6台目以降がまったく上手く行かなかった。15歩に切り換えた後に色々としたのですが、まとめきれませんでした」と敗因を分析した。
 インターバルの走りも、5台目まで13歩の対馬に対し、14歩で刻む小池と対照的だ。
「14歩を7台目まで伸ばす試みを冬の間にしましたが、15歩でも回転速度を上げた方がいいという結論になりました。6、7、8台と回転を上げられるとスーッと行けるんです」
 それが成功したのが、49秒23を出した2005年の日本インカレだった。
「そこがちょっとできると49秒は出ますし、上手くいけば48秒台も行けると感じています」

 小池とは反対に、対馬は13歩を6台目まで伸ばすことを検討中だ。
「日本選手権では6台目まで行って、7・8台目の14歩も考えています」
 練習でもミニハードルを2m50〜3m00の間隔でセットし、脚が残らない動きを意識したドリルを行なっているという。この練習がうまくできるようになれば、さらに押し進めたプランも温めている。
「3mの広さが楽に動ければ、7台目まで13歩で行くことも可能です。僕が48秒台に行くには、そこまで13歩を伸ばすか、最後まで14歩を維持するか、どちらかだと思っています」

 14歩選手の回転数を上げる試みと、13歩選手の13歩台数を伸ばす手応え。和歌山ではそれらが、微妙に絡み合っていた。

CA標準の49秒20ではなく48秒7〜8が条件か?
 3位にとどまった河北は「7台目で来られてしまって、8台目で浮いてしまった」という。13歩で5台目までというのは一般的だが、河北が他のハードラーと違うのは、14歩を8台目までと3台入れること。9・10台目が逆脚踏み切りになるが、利き脚との違いをそれほど感じていない河北だからできるのだろう。だが、この日はその8台目を失敗した。今後の戦略をどうするかが注目される。
 だが、走りに関しては手応えを感じている。
「去年ダメだったのは、上半身と下半身の動きが噛み合っていなかったから。色んな人に見てもらって、修正する方法もわかって、少しずつ良くなっています」
 記録会の400 mでも、この時期にしては良いタイム(47秒7台?)で走れているという。

 その河北が3人目の代表に選ばれる条件を「A標準だけではダメかもしれません。48秒7〜8台を出さないと」と話す。JOCの示してくる陸上競技の派遣枠次第では、3人目が出られない可能性が高くなる。そうしないためにも、準決勝進出が可能な48秒台後半を出しておく必要があるのだ。
 ベスト記録では河北が、昨年の記録と今年の勝負では対馬がリードしているが、昨年の世界選手権代表だった吉形政衡(三洋信販)を含め、代表の可能性は全員にあるだろう。

 小池が興味ある事実を指摘してくれた。日本歴代上位10選手のうち、半分の5人が前半14歩の選手だという。山崎一彦や為末が世界選手権で活躍し、13歩選手が大々的に報道されているため、“400 mH=13歩”のイメージがあるが、現実はそこまで単一的ではない。
歴代順位 記録 選手 前半の歩数
1 47.89 為末 大 13
2 47.93 成迫健児 13
3 48.26 山崎一彦 13
4 48.34 苅部俊二 13
5 48.64 斎藤嘉彦 14
6 48.65 千葉佳裕 14
7 48.66 吉形政衡 14
8 48.84 河村英昭 14
9 48.85 吉澤 賢 13
10 48.95 庄形和也 14
11 49.17 河北尚広 13
14 49.23 小池崇之 14
19 49.79 対馬庸佑 13

 和歌山の優勝争いは、13歩対14歩の争いでもあったわけだが、どちらが有利とは必ずしもいえない。48秒前半の争いとなれば、データ的には13歩選手が有利といえる。だが、“3人目の代表”が48秒台後半の争いならば、14歩選手にも十二分に可能性がある。


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