2008/6/29
日本選手権2008日付別展望
第4日・6月29日(日)
■男子100 m
ベテランの朝原宣治と2連勝中の塚原直貴がV候補の双璧。朝原は初戦の織田記念で10秒17と快走したが、その後の大阪GP、プレ五輪と低調な記録が続いている。一方の塚原は3月の故障の影響で大阪GPが初戦。東日本実業団までは精彩を欠いたが、プレ五輪では日本選手で唯一決勝に進出した。対照的な軌跡を描いている2人だが、調子が合えば見応えのあるレースが期待できる。
菅原新、上野政英、小島茂之らが2強の一角を崩せるか。東日本実業団を制した菅原はダッシュが武器。上野は大舞台でも安定してきた。小島には8年ぶりの五輪代表がかかる。“総合的に強い”タイプが多いため、レース展開の予想は難しい。
=陸上競技マガジン7月号記事。以下同
<3日目の予選結果・取材を踏まえて>
「出力のある走りができた」(朝原)
「ここで勝つための練習をしてきました」(塚原)
◆朝原宣治
「織田記念のあときれいに走れていませんが、体調は織田記念くらいには戻っています。大阪GPも北京(プレ五輪)も、上げようと思っても力が入りませんでした。立ち上がりから30〜40mまで出力を出す走りの練習をしてきました。今日は江里口(匡史)に出られても、立て直すことができたので、出力があるということ。(準決勝と決勝の間が1時間半と短く)おっさんいじめと言ったらいけないのでしょうが、上手く走らないと。極力、回復を早くするようにします」
◆塚原直貴
「僕はここで勝つために練習してきました。そういうイメージを持って1回1回、練習してきました。春先のケガで出遅れましたが、そのツケはしっかりと、この舞台で払いたい。四肢が大きくなりパンプアップした充実感があります。(今日が)明日につながらないレースもバツです。トラックの感触や、(それに対する自身の)動き具合を確認できました。条件にもよりますが、最低でもA標準を切って北京につなげたいです」
◆日高一慶
2005年ヘルシンキ世界選手権代表だった日高は、06年の年次ベストは10秒31だったが、昨年は10秒47と右下がり状態。しかし、今季は織田記念で10秒38と持ち直し、今大会の100 m予選3組も小島茂之(アシックス)を抑えて1位通過。
正式採用された2006年は仕事に比重を置き、大阪GPで試合を切り上げ、練習量も一気に落ちた。昨年から徐々に仕事にも慣れて練習も「与えられた環境の中でできることをやる」と考えられるようになった。
「決勝には残りたいと思っていますし、昨日為末さんが言ってらしたように、決勝になれば何が起こるかわかりません。(レースパターンなど)やっている意識も、練習も変えていません。スタートでリードして、後半で来られても落ち着いて、周りを気にせずに行きたいですね。良い風に乗ったらB標準の10秒28を切ってみたい(自己記録は10秒29)」
■男子400 m
静岡国際で45秒21、関東インカレで45秒47。ともに圧勝した金丸祐三だが、関東インカレの200 mで太腿を肉離れ。4連勝はその回復次第になった。
金丸不在なら堀籠佳宏が有力。静岡で金丸に敗れた以外は日本選手には全勝。佐藤光浩は昨年12月の故障で1カ月ほど本格練習が滞った。シーズンの出だしに影響したが、プレ五輪では堀籠に0.11秒差と迫った。
石塚祐輔は静岡で堀籠に続いたが、そのときもふくらはぎが気になっていた。大阪GP、関東インカレを欠場。その回復次第だ。
金丸が200 mまで飛ばし、300 mまでに堀籠が並びかけ、最後の直線では佐藤も追い込んでくる。そんな展開が予想される。
<3日目の予選結果・取材を踏まえて>
故障明けの金丸が46秒40の予選最高タイム
「為末さんに続いて僕も復活したい」
堀籠は全体での好記録狙いを明言、石塚も復調
晴れた3日目はホームストレートが向かい風ということが多かった。だったら、バックストレートは追い風で走りやすいはずと思われたが、男女400 m予選を走った選手たちは「ずっと向かっていた感じ」だという。
天気予報では雨が予想されている最終日。雨が降ってコンディションが良いわけはないが、バックが追い風、あるいは周回がずっと追い風になれば、45秒台を3人が出しても不思議ではない。
◆金丸祐三
「(肉離れをした)関東インカレ後、2週間は何もしませんでした。幸い、軽めの肉離れで回復が早く、ここまで来られました。300 mを中心に2回ほど強めの練習をして、スピードも出ていたので、何とか行けると判断しました。でも、思ったより疲れました。調整が短かったので(序盤のスピードの乗せ方など)少しずれているのかもしれません。ラスト100 mで来ましたね。ほとんど流していたのですが、それでもきつかった。今日1本走って、明日にはしっかり上がってくるはず。最低でも45秒台は出せると思います。先輩の為末さんがビックリするような復活をされたので、僕も続いて復活したい。(A標準を破っているので回避する方法もあったが)間に合うと感じたことと、昨年まで3連勝と積み上げていて4連勝が欲しくなったことで出場を決めました。何より、もしも回避して家で観戦していたら、悔しさでいっぱいになると思ったから。そういう気持ちになるのは嫌でしたから」
◆堀籠佳宏
「通ることだけ考えていました。前半楽に行って、1位を取れればいいと。46秒54はタイム的には良くありませんが、感覚的には良い走りでした。決勝では着順よりもB標準の45秒台を目標にします。順位はその後について来るでしょう。マイルのためにも、みんなで良いタイムを出したい。(レース展開は)レーン順を見てから決めたいと思います」
◆石塚祐輔
「(日本選手権に間に合って)幸せです。初めての大きなケガで程度がわかりませんでした。助けていただいた人たちにここで恩返しがしたい。言葉じゃなく、競技で戻って来たと示すことで恩返しをしたいんです。(故障は)両脚のハムストリングに張りと痛みがあって、それを押して静岡国際に出場しました(46秒83)。どこかかばった走りになっていたらしく、大阪GPで足底損傷になってしまいました(レース当日の朝に欠場決定)」
■男子1500m
ゴールデンゲームズで渡辺和也が3分38秒11の日本歴代2位。日本記録保持者の小林史和も自己2番目の3分38秒53で続き、2選手がB標準を突破した。だが、日本選手権でA標準(3分36秒60)を破るのは厳しい。“強さ”を見せることが五輪代表につながる。
ゴールデンゲームズでは最後の直線で前に出た渡辺だが、日本選手権がスローペースになれば、渡辺はロングスパートに出るかもしれない。小林も本来は同じタイプだが、日本選手間では最後の直線勝負でも強い。
ゴールデンゲームズで3分40秒台の田子康宏と村上康則が2強に続く存在。スローならば昨秋の国体優勝者の佐藤健太にもチャンスが出てくる。
<2日目の予選結果・取材を踏まえて>
「ベテランの味を出して勝負したい」(小林)
「自分の勘でスパート地点を決めたい」(渡辺)
「残り300 mを切って上手く切り換えたい」(村上)
「行かれてから反応するより自分で行きたい」(田子)
◆小林史和
「予選は予定通り、決勝につながる動きができました。若いライバルが伸びていて、例年以上に勝つのが難しいメンバーです。ですが、(大学を卒業後)自分も1500mを6〜7年やってきているので、ベテランの味を出して勝負をしたい。駆け引きが注目されると思いますが、そういうところの経験を僕が積んでいます。(渡辺和也と2人で3分38秒台を出した)ゴールデンゲームズinのべおかでは、渡辺は勝つことを、僕は記録を出すことを狙っていて、結果的に2人とも目標を達成できました。今回はしっかりと勝ちをとりたい」
◆渡辺和也
「今日は刺激代わりですから、こんなものでしょう。決勝のスパート地点はどこでと事前に決めず、レースの状況を見て判断していきたい。自分の勘で決めるつもりです」
◆村上康則
「決勝はたぶんスローになると思います。去年はラスト1周になってから動きがありました。残り300 mを切ってから上手く切り換えたいですね」
◆田子康宏
「3周目かどこかで56秒とかにペースアップしたいですね。最後までスローにすると、スパート力を持っている人がついてきます。(小林)史和さんも村上(康則)も、スパートできる距離を把握しています。172(渡辺のナンバー)を阻止したいです。誰が最初にガツンと行くか。行かれてから反応するよりも、自分で行きたいですね」
■男子3000mSC
昨年A標準を突破している岩水嘉孝が、今季もニューヨークGPで8分29秒78とB標準を上回っている。2年前の優勝者の篠藤淳は、箱根駅伝9区で区間新。3000mSCでの北京五輪に意欲を見せていたが、故障の影響で出遅れている。
クロスカントリーから好調で、5000mでも快走している梅枝裕吉、兵庫リレーカーニバルで岩水に2秒35差と踏ん張った菊池昌寿の2人が、どこまで迫れるか。
岩水がハイペースに持ち込むにしても、兵庫のように1000mを2分48秒で入るのは無謀。2分50秒ちょっとで通過した後のペースアップだろう。終盤で行けると思った時点でスパートする可能性もある。確実に勝てると岩水が判断した方法を選ぶ。
6月8日のPREFONTAINE CLASSIC(ユージン) では岩水が8分30秒94で2位、菊池昌寿 が8分57秒24で13位。岩水の優位は動かない。菊池がユージンで岩水に完敗していることから、梅枝の方が岩水に迫る可能性が高くなった。クロスカントリーから好調を持続しており、走力アップは3000mSCの選手達のなかで現在一番だろう。
岩水1人がA標準突破者で、B標準がいない種目。岩水が力む必要はない状況だが、他の選手たちの頑張りと走り方次第では、2年前に岩水を破った篠藤淳のようにプレッシャーをかけることができる。
■男子走高跳
日本記録(2m33)保持者の醍醐直幸が今季は静岡国際、大阪GP、東日本実業団と主要大会で3連勝。日本選手権の連勝も「4」に伸ばす可能性は高い。
舞台となる等々力競技場は04年に、故障もあって低迷していた醍醐が5年ぶりの2m20に成功した会場。それ以来となる等々力で、昨年の大阪GP以来となる2m30をクリアできれば理想的だ。
土屋光が好調で日本選抜和歌山に2m21で優勝すると、静岡国際では2m24の自己タイで2位。「助走が安定してきた」と自己分析するように失敗試技が少ない。2m27を先に跳べば、醍醐にプレッシャーをかけられるだろう。
久保田聡にも2m20台後半を期待したい。
6月15日の日体大競技会で醍醐直幸が2m20。最終調整の試合としては、かなり良い出来といえるだろう。
2008年日本上位選手
1 |
2.27 |
醍醐 直幸 |
81 |
(富士通) |
5.03 |
静岡国際 |
2 |
2.24 |
土屋 光 |
86 |
(モンテローザ) |
5.03 |
静岡国際 |
|
2.21 |
土屋 光 |
86 |
(モンテローザ) |
4.20 |
日本選抜和歌山大会 |
|
2.20 |
醍醐 直幸 |
81 |
(富士通) |
4.04 |
東京都高校第1支部春季競技会 |
3 |
2.20 |
国本 拓志 |
87 |
(竜谷大) |
4.19 |
京都学生対校 |
|
2.20 |
醍醐 直幸 |
81 |
(富士通) |
5.25 |
中国オープン |
4 |
2.18 |
久保田 聡 |
82 |
(モンテローザ) |
4.20 |
日本選抜和歌山大会 |
|
2.18 |
醍醐 直幸 |
81 |
(富士通) |
5.10 |
国際グランプリ大阪大会 |
5 |
2.16 |
戸辺 直人 |
92 |
(専大松戸高) |
5.17 |
千葉県高校 |
■男子三段跳
藤林献明の16m30が今季最高。(06年を除き)03年以降は16m70以上の優勝記録で五輪・世界選手権の代表を出している種目だけに、優勝記録が注目される。
前回優勝の杉林孝法が唯一人B標準を跳んでいるが、織田記念で右脚大腿を痛め3回で試技を中止。その後は腰痛も出て、今季は15m37にとどまっている。
石川和義は織田記念で16m17。自己記録の16m98とは開きがあるが、アキレス腱を痛めた06年以降では最高記録。「間違いなく仕上げて行ける」と手応えを得た。
東日本実業団優勝の梶川洋平と、関東インカレ優勝の十亀慎也も将来性を高く評価されている。日本学生個人選手権で16m26の花谷昴も注目株。
2008年日本10傑選手
1 |
16.30 |
-0.4 |
藤林 献明 |
(鹿屋体大) |
広島広域 |
4.29 |
織田幹雄記念国際 |
2 |
16.26 |
1.8 |
花谷 昴 |
(阪 大) |
平 塚 |
6.06 |
日本学生個人選手権 |
3 |
16.17 |
0.8 |
石川 和義 |
(三洋信販) |
広島広域 |
4.29 |
織田幹雄記念国際 |
4 |
16.16 |
1.9 |
角山 貴之 |
(長門市陸協) |
下 関 |
5.04 |
山口県選手権 |
5 |
16.13 |
1.2 |
松田 晋治 |
(天理大) |
平 塚 |
6.06 |
日本学生個人選手権 |
6 |
16.09 |
2.0 |
梶川 洋平 |
(M&K) |
熊 谷 |
5.17 |
東日本実業団 |
7 |
15.96 |
1.7 |
佐藤 賢一 |
(信州大) |
富山総合 |
5.11 |
北信越学生 |
8 |
15.94 |
-0.5 |
十亀 慎也 |
(法 大) |
国 立 |
5.18 |
関東学生 |
9 |
15.87 |
2.0 |
塩見 将輔 |
(東海大) |
東海大 |
5.04 |
東海大競技会(第1回) |
10 |
15.86 |
2.0 |
村上 智史 |
(日 大) |
国 立 |
5.18 |
関東学生 |
■男子やり投
大学3年(2000年)から勝ち続けている村上幸史の連勝が、“8”にまで伸びている。今季も日本選手間で負けなし。北京プレ五輪では78m25をマークした。今季のテーマは「世界で戦うために必要な部分」という理由で、やりの軌跡の“高さ”を求めている。そのためには「脚の使い方」が重要になってくるという。
だが、それが安定せず、左に早く開くクセが出ることが多い。そうなると、75mにも届かない試技になる。荒井謙や山本一喜、種本祐太朗らにチャンスが生まれる。いずれも今季、村上を追い込んだことがある。
東日本実業団優勝の荒井は、「右脚が伸びきらず、開きを抑えられれば70m後半は行く」と手応えを感じている。
村上の8連勝の記録と、2位選手との差
年 |
優勝記録 |
2位記録 |
1・2位差 |
2位選手 |
2000 |
74.97 |
70.67 |
4.30 |
白岩志朗 |
2001 |
77.22 |
72.35 |
4.87 |
宇戸田実也 |
2002 |
78.22 |
71.65 |
6.57 |
白岩志朗 |
2003 |
75.38 |
74.04 |
1.34 |
藤原康喬 |
2004 |
79.00 |
74.52 |
4.48 |
山本一喜 |
2005 |
79.79 |
74.15 |
5.64 |
荒井 謙 |
2006 |
78.54 |
73.02 |
5.52 |
室永豊文 |
2007 |
79.85 |
75.67 |
4.18 |
荒井 謙 |
●女子100 m
織田記念で好記録が続出した。北風沙織と石田智子がスタートでリードしたが、福島千里もそれほど遅れずに追走し、後半に入って間もなくトップに立った。福島が11秒36の日本タイで北風と石田が11秒4台。大阪GPでも福島が日本人1位。
この3人が中心の展開が予想されるが、今季進境著しい渡辺真弓と、前回優勝者で後半の爆発力がある高橋萌木子にも可能性はある。
4×100 mRの五輪代表権を得るため、6月に予定外のヨーロッパ遠征が入った。その疲れがどう影響するか。5月上旬に軽い故障をした北風は不参加だったが、状態的には遠征できたという。コンディション的には遠征組より良いかもしれない。
<3日目の予選結果・取材を踏まえて>
福島、圧勝の気配だが…
予選1組・信岡沙希重 11秒92(−1.7)
予選2組・須田香織 11秒90(−0.2)
・北風沙織 11秒91(−0.2)
予選3組・高橋萌木子 12秒12(−1.9)
予選4組・石田智子 11秒89(−1.0)
予選5組・福島千里 11秒53(−0.4)
・渡辺真弓 11秒99(−0.4)
風が異なるので単純比較ができないが、福島千里(北海道ハイテクAC)のタイムが抜き出ている。春季サーキット、大阪GP、東日本実業団、北京プレ五輪、ヨーロッパ遠征2試合と続いたが、動きを見ても、本人のコメントからも、それほど疲労は感じられない。ただ、3日目の女子100 mHや、2日目の男子200 mなど、予選(準決勝)で良かった選手が決勝で崩れている。絶対とは言えない。特に今回は、準決勝と決勝の間隔が1時間半ほどしかない。“回復”度合いも重要な要素になる。
◆福島千里コメント
「気持ちよく走れました。予選は(1日)1本だけなので、抜かずに、でも楽に、でも緩めずという感じで走りました。タイムは設定していませんでしたが、自分のコンディションが良い状態であるのは間違いないと思います。明日がどうなるか、ですね。このまま、もっともっと上げていきたい。こっちに来てゆっくり生活ができているので、疲れているとは思いません。記録も狙わないといけませんが、順位も取らないといけません。(11秒36を出した)織田記念はそれほど狙っていませんでしたが、この大会はいい意味で狙ってきました。(北京五輪は)練習の力を全て出し切ったら、もしかしたらが起きるかもしれません。北京がある限りは狙っていきたいと思います。自分の力でなんとか頑張らなきゃ、と思いますが、欲を言えば風にも協力してもらいたいですね」
◆高橋萌木子コメント
「風がちょっと気になりましたが、自分らしい走りができました。今日はスタートの改良点を確認しました。1歩目の接地を速く(早く)着くイメージに変えました。まだまだですが、今までの自分と比較して良かったと思います。スタートの速い北風さんや福島さんの近くで出られれば、後半に勝負できるのではないかと思います。優勝しか考えていませんが、相手とか考えず、自分の戦いと思っています」
◆石田智子コメント
「明日の刺激のつもりで最初だけ行きました。数字よりも向かい風がきつく感じました。ヨーロッパから帰国して、心身とも、なかなか疲れがとれませんでした。あとは、どれだけとれるかが勝負です」
◆北風沙織コメント
「後半、流れてしまっています。1カ月練習ができず、(練習を本格再開して)2週間しかたっていないので、不安はあります。キレが出てきていません。でも、今回の日本選手権は自分の中で、結果やタイムを気にしないでやろうと思っています」
●女子400 m
丹野麻美が静岡国際で51秒75の日本新。冬期に積極的に取り組んだ筋力強化の成果で100 mまでのストライドが大きくなった。その分、前半200 mの通過タイムも上がっている。
優勝は間違いないところで、丹野自身、0.20秒と迫ったA標準の突破を最大目標に掲げている。大阪GP、北京プレ五輪、ユージーンGPと、52秒台中盤は確実に出せるようになっている。条件さえ整えば、A標準突破と44年ぶりの女子400 m五輪代表が実現する。
静岡国際では木田真有が53秒05、堀江真由も53秒10と日本歴代3・5位の好タイム。同一レースで2人が53秒を切れば史上初の快挙。五輪出場が有力な4×400 mRにも弾みがつく。
<3日目の予選結果・取材を踏まえて>
予選から記録を狙った丹野だが53秒23
予選からA標準突破を狙った丹野麻美(ナチュリル)が、200 mまでは24秒9(手元の計時)と飛ばしたが、日本記録のときより若干遅め。後半は動きがやや重く、最後の直線はやや力を抜いたようにも見えたが微妙なところ。最後は体がかなり揺れていた。記録は53秒23。
「なんでこんなに悪いのかな」が、テレビ・インタビューでの第一声。
「納得行くレースができませんでした。記録を狙いすぎて、上手くできなかったのかもしれません。コンディションは悪くありません。明日に向けてしっかりやっていきます。風は全体的に向かい風ですが、明日は頑張りたい」
何度も「明日は」という言葉が発せられ、意気込みの強さが伝わってきた。力みにつながらなければいいが、“記録を狙いすぎた”という反省も出ているので大丈夫か。気持ちを切り換えれば、動きも一気に変わるだろう。
◆木田真有コメント
「風は最後は向かっていましたが、楽に走ったからか、きつくは感じませんでした。(目標の52秒台は)予選から狙っていく予定でしたが、思ったよりも記録が伸びませんでした。決勝は丹野に置いていかれないように、前半から積極的に行きます」
●女子1500m
1500mと5000mの決勝が同じ最終日。小林祐梨子は1500mの標準記録を破れなければ、A標準を破っている5000mに絞る予定だ。
小林欠場なら吉川美香の3連勝が濃厚。貧血と体調不良(食中毒のような症状)で4月の練習が積めず、5月の東日本実業団がシーズン初戦。それでも、4分13秒99で快勝した。練習は5000mも意識した内容で、ゴールデンゲームズの5000mでは15分42秒10。スタミナ面は心配はないだろう。
神奈川県出身。「地元なので1500mで戦っている姿を見せたい」と、気持ちの面も充実している。
桑城奈苗も好調で、東日本実業団では吉川と0.61秒差。2人で上手くペースメイクができれば、4分10秒を切る可能性もある。
<2日目の予選結果・取材を踏まえて>
小林欠場、吉川が標準記録を狙う?
日本記録保持者の小林祐梨子は欠場(おそらく5000mに絞っての出場)。予選1組は好調の桑城奈苗が4分21秒43で1位、2組は昨年の世界選手権代表の吉川美香が4分22秒21で1位。
吉川が記録を出すときは小林や外国人選手が引っ張るレースだったが、今季は自己新こそ出ていないが、5000mの走力もアップしている。東日本実業団では4分13秒99。五輪標準記録(A4分07秒00、B4分08秒00)は簡単ではないが、決勝では挑戦するという情報もある。桑城も積極的なレースをするので、吉川が行けば2人でハイペースをつくっていくだろう。
●女子5000m
A標準を突破しているのが福士加代子と小林祐梨子の2人。小林が1500mで、福士が3000mと5000mで日本記録を持つ。キック力の強い小林に対し、重心移動がスムーズな福士と、動きは対照的。2人の対決は初めてで、関心の集まるレースとなりそうだ。
5000mのスピード持久では福士が上手だが、小林も3000mで8分51秒85の日本歴代3位で走るなど、長い距離にも対応しつつある。
ラスト勝負はどうか。福士も最後1周なら68秒前後でカバーするが、200 m〜100 mのスプリントでは小林に分がある。福士としてはハイペースで振り切りたい。
渋井陽子が肩の力が抜けた感じで良い走りを続けている。5000mにも参戦してくるかもしれない。
<2日目の1万m結果・取材を踏まえて>
福士&小林が注目だが、渋井&赤羽も要注意
絶対とは言えないが、1万mの上位選手は5000mにも出場してきそう。女子長距離(5000m&1万m)枠がいくつ割り当てられるか予測が難しい。“4”ならば1万m3位の福士加代子も大丈夫だが、“3”となった場合、5000mで小林祐梨子が優勝すれば自動内定で、福士は外れてしまう。元々、2種目で連勝している選手なので、出場の可能性が高い。
福士が1万mのラスト2000mからスパートしたとき、400 m毎のタイムは75秒5から71秒9に上がっていた。それに追いついた渋井陽子と赤羽有紀子が強かったのか、福士のスパートに以前ほどの力がなかったのか。小林は3000mでも8分51秒85とスピード持久力に成長を見せている。スパートまでのペースにもよるが、福士といえど簡単に振り切れないかもしれない。
気持ち的にゆとりのある渋井と赤羽は、思い切ったレースをしやすい。スピードでは上述の2人に劣る栃木コンビだが、福士、小林がガチガチになると、思わぬ展開もあり得る。
●女子円盤投
室伏由佳の7連覇は確実で、問題は記録ということになる。昨年は4。5月に58m台の日本記録を連発したが、B標準の59m00には届かなかった。
今季は抑えめにスタートし「牛歩のように(技術を)上げていく」のがテーマ。織田記念、大阪GP、中部実業団と3試合連続でハンマー投と2種目をこなした。大阪GPが雨だったこともあり、織田記念の54m21が最高だが、本人の中では細部を1つ1つ確認して来ているはずだ。
一昨年、昨年と年次ベストが51m前後にとどまっていた山口智子が、織田記念で52m15と復調。2位に返り咲きそうだ。鈴木鶴代、敷本愛らが確実に50m台を投げてくると、上位の層が厚くなるが。
<1日目のハンマー投結果・取材を踏まえて>
大会前の腰痛で苦しんだ室伏由佳(ミズノ)だが、ハンマー投で逆転V。腰への負担が比較的小さくなる円盤投では、2番手との差が大きいこともあり、優勝の確率は高い。気持ち的にも良い状態と思われる。
室伏由佳の6連勝の記録と、2位選手との差
年 |
優勝記録 |
2位記録 |
1・2位差 |
2位選手 |
2002 |
52.42 |
51.11 |
1.31 |
成瀬美代子 |
2003 |
54.24 |
51.90 |
2.34 |
山口智子 |
2004 |
56.36 |
51.41 |
4.95 |
山口智子 |
2005 |
54.88 |
51.46 |
3.42 |
敷本愛 |
2006 |
53.77 |
50.83 |
2.94 |
山口智子 |
2007 |
53.81 |
49.38 |
4.43 |
林田真那美 |
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