2008/6/24
日本選手権2008日付別展望
第1日・6月26日(木)
■男子10000m
有力選手のほとんどが、大会初日の1万mで代表を狙ってくる。
松宮隆行が5月に27分41秒75とA標準を突破。「他の選手の脚の状態を見ながら」(酒井勝充監督)となるが、終盤で何度も仕掛ける得意の展開に持ち込みたい。
大野龍二が好調で27分台を連発。ラストの強さも折り紙付きだ。 B標準選手でも優勝すれば、連続代表の可能性は十分ある。
三津谷祐もB標準だが、A標準の5000mではなく1万mに懸けている。森下広一監督は「気持ちよく行かせたい」と言い、A標準を狙うレースをする可能性もある。
A標準の竹澤健介は「戦える状態でスタートラインに立てそう」(渡辺康幸監督)という。入船敏、大森輝和も不気味な存在。
=陸上競技マガジン7月号記事。以下同
というのが陸マガに書いた記事(以下同様)。
極論すれば、得意とする後半の揺さぶりでリードを奪えば松宮隆行(コニカミノルタ)が勝つし、残り400 mを切って大野龍二(旭化成)がついていれば、大野が勝つということになる。
が、ことはそう簡単に運ばない感じもする。
春季サーキットに出なかった三津谷祐(トヨタ自動車九州)が徐々に状態を上げてくる予感がする。大森輝和(四国電力)はかつて、先に標準記録を破ることを優先して日本選手権で失敗したことがある。今季の大森の試合選択を見ていると、その反省から日本選手権にじっくりとピークを合わせてきている感じもある。A標準未突破だが、ことこの種目に関しては、B標準でも勝てば代表入りの可能性がある(一般種目よりは高いだろう)。
そして、ダークホースとして木原真佐人(中央学大)が浮上してきた。ハイペースで突っ込んでも粘れる能力は、兵庫リレーカーニバルと札幌国際ハーフマラソンで実証済み。11日前の札幌に出たということは、そこまで真剣に五輪代表を狙っていないのかもしれない。だが、そのくらい気持ちに余裕があった方が、結果が良くなることが多いのも事実。
ただ、各選手がこちらが予想する状態でスタートラインにつくかどうかは、実際のところわからない。どうしても我々は、この手の展望記事では“良い状態”を想定しがちになるのだが。
日本選手権を10倍楽しむページ2008の“優勝者予想”は3連勝のかかる松宮隆行。日本選手間では05年10月を最後に負けていない。他の選手に、それを押しのけるだけの“強さ”は現時点では感じられない。強いて言えば木原がどうか。
■男子十種競技
田中宏昌の自己記録は7803点だがセカンド記録は7656点。北京五輪B標準の7700点が現実的な目標だ。4月の日本選抜和歌山では7428点で2位と敗れたが、「悪い点がわかっても修正できなかった。詰めた練習をやれば行けるはず」と自信を失っていない。
優勝記録が7600点以下になるようだと、勝負に焦点が移る。和歌山では最終種目で右代啓祐が田中を逆転した。その右代に関東インカレできっちり雪辱したのが池田大介。大島雄治も復調すれば7500点前後の力がある。
8・9種目めの棒高跳とやり投は田中の得意種目。和歌山のように最終種目での逆転例は少ない。7種目目の円盤投までに何点リードするかがポイントになりそう。
田中宏昌(モンテローザ)が自己ベストの7803点を出したときの前半は以下の通り。今季日本リスト上位3選手の内訳も紹介しておく。
|
田中宏昌 |
|
2006日本選手権 |
100 m |
10秒87(+1.2) |
走幅跳 |
7m16(+2.5) |
砲丸投 |
12m07 |
走高跳 |
1m87 |
400 m |
49秒85 |
110 mH |
15秒06(+2.3) |
円盤投 |
40m21 |
棒高跳 |
5m10 |
やり投 |
63m94 |
1500m |
4分38秒22 |
得点 |
7512 |
7497 |
7428 |
選手 |
右代 啓祐 |
池田 大介 |
田中 宏昌 |
所属 |
(国士大) |
(日 大) |
(モンテローザ) |
日付 |
4.20 |
5.18 |
4.20 |
大会 |
日本選抜和歌山 |
関東学生 |
日本選抜和歌山 |
100 m |
11.42 |
10.98 |
10.84 |
|
1.5 |
1.9 |
2.8 |
走幅跳 |
6.79 |
7.16 |
7.08 |
|
2.9 |
0.8 |
3.6 |
砲丸投 |
12.89 |
12.82 |
12.38 |
走高跳 |
2.02 |
1.85 |
1.84 |
400 m |
51.49 |
49.90 |
50.76 |
110 mH |
15.67 |
14.74 |
15.52 |
|
1.3 |
0.1 |
1.3 |
円盤投 |
42.87 |
40.73 |
40.37 |
やり投 |
4.40 |
4.00 |
4.80 |
やり投 |
66.96 |
59.45 |
61.13 |
1500m |
4.39.71 |
4.32.48 |
4.59.29 |
●女子棒高跳
昨年、4m30の五輪B標準を3人がクリアしている。その状況から抜け出すには4m45のA標準が必要。と、意識しすぎているのか、今季は好記録が生まれていない。
織田記念は近藤高代が4m20で優勝。4m35の自己タイを、世界選手権本番で成功するなど、国際舞台での実績もある。
錦織育子は06年に日本記録(4m36)を跳んだ硬いポールを、シーズン当初から使うなど積極的に挑んでいる。それが空回りしている部分もあるようだが、噛み合えば4m40台も望めそうだ。
もう1人の中野真実が、なかなか調子が上がってこない。代わりに、4m10、15と学生新に2回成功した我孫子智美が好調。3強の一角を崩しそうな勢いだ。
と書いた陸マガ記事から、変更すべき状況は判明していない。補足すべき点も特にないと思われるが、4m30を2人以上の選手がクリアしたときに、次の高さをどうするかが少し気になるところ。4m40で優勝を決める勝負をするのか(日本新でもある)、4m40は相談してパスをして4m45のA標準に上げるのか(バーの上げ方を4m25、35、45として行く計らいを期待したいが)。
4m40なら昨年の世界リストで40位。4年前であれば代表入り可能なレベルだが、現時点での枠を考えたとき、他種目との椅子の取り合いに絶対的に優位に立つとは言えない。
●女子三段跳
吉田文代が4連覇に意欲を見せている。「連覇すること、順位をしっかりと取ることの大切さは、インカレでも感じていましたし、今後のキャリアにもプラスになるかもしれません」
昨年は地元枠で世界選手権にも出場。外国選手の跳躍を間近に見て、ホップで距離を稼ぐ自分らしさを保ちつつ、「ブレーキをかけない跳躍」を目指している。13m50の自己記録(日本歴代2位)は「軽く跳べるよ」と越川一紀コーチからは言われている。
2年連続2位の三澤涼子は、2月末の豪州遠征で12m89。打倒・吉田の一番手に変わりはない。昨年3・5位の藤田弥生・奈保子の、姉妹連続入賞がなるかどうかも話題の1つ。
北海道教育大岩見沢1年の竹田小百合を見落としていた。中村宏之監督門下で、織田記念のときも同監督の話に“有望”というニュアンスで出てきていた。昨年12m92を記録し、5月の北海道インカレでも12m92。吉田に勝つのはまだ難しそうだが、12m97のジュニア日本記録(村山梢・97年)更新は可能性がある。
中村門下ということでスプリント能力が高いのかと思って調べると、100 mのベスト記録は手元のデータで確認できなかった。走幅跳も5m78がベスト。スピードよりもバネが特徴の選手といえそうだ。
●女子ハンマー投
01年以降、女子ハンマー投の優勝者は綾真澄と室伏由佳によって占められている(日本記録更新も2人のどちらか)。だが、05年以降はどちらかが万全でなく、両者による1・2位は04年が最後。
だが、今季の2人はがっぷり四ツに組んでいる。織田記念は室伏、大阪GPでは綾が勝ったが、ともに1m前後の差。シーズンベストも室伏64m61、綾64m20とほぼ同じ。特に綾は、7試合中3試合で64m台という安定ぶりだが、後半2試合は動きを大きく変えているという。
2人揃って65m以上を投げ合えば史上初の快挙。勝った方が(もしくは2人とも)五輪B標準突破、または日本記録更新という“結果”がついてくるとベストである。
と陸マガ記事に書いたが、本サイトでは優勝者予想をしなければいけない。本当に迷ったが、室伏由佳(ミズノ)は円盤投で予想するので、ハンマー投は綾真澄(丸善工業)とした。綾のブログを見ていると、新しい動きを試して、それが安定しつつあるように見受けられる。我々レベルで明確な差など判断できないのだが。
山城美貴(中京大)が60mを投げれば3人が同一大会で60mオーバーとなり、史上初となる……かどうかは調べきれなかったが、日本選手権では間違いなく初めてである。
●女子やり投
06年アジア大会代表の海老原有希と、07年世界選手権代表の吉田恵美可。ともに社会人1年目の2人の対決が予想される。
兵庫リレーカーニバル、静岡国際と日本人トップを続けたのが海老原。静岡では6投目に56m26と五輪B標準を突破した。それでも、「その1投以外は正しい位置で離せなかった」と反省する。07年に右ヒザを痛めて以来の課題が、完全に解消されていない。
一方の吉田は兵庫では42m47という低調さだったが、静岡では51m58で日本選手2位。昨年も兵庫の記録から4m以上も伸ばして日本選手権に優勝している。ピーキング能力は高い。
日本学生個人選手権に53m00で優勝した延味由起も注目株。
本サイトの優勝者予想は海老原有希。安定度もあり、アジア大会で自己新を投げた勝負強さも印象深い。右ヒザの故障後は明らかに助走スピードが落ちているが、静岡国際のB標準突破は、故障後の状態で模索する技術に光明が見えてきた証し。ただ、再現性にはまだ難があるようだ。使用するかどうかは未定だが、カーボンやりも用意している。
吉田恵美可の日本選手権での強さも侮りがたい。昨年の日本選手権での突出ぶりだけでなく、大学1年時にもジュニア日本記録を投げている。陸マガ記事にも書いたように、春季サーキットで低調だったからダメとは予想できない選手である。
5月17日の長崎県選手権で高卒3年目の松本百子が55m48と自己新を投げてきた。高2、高3と54m台をマークしながら、卒業後1年目は53m台、2年目の昨年は52m台がベスト。それをここで持ち直してきた。海老原、吉田の優勝争いに加わる可能性も。
●女子七種競技
中田有紀の七種競技シーズン第1戦。1月末に踏切脚である左ふくらはぎを痛めたのがその原因。五輪イヤーは試合だけでなく、本格練習への復帰も焦りがちになるが、2月、3月と慎重な練習に徹した。4月に練習強度を上げ始めるのと並行して、動き始めの身体の使い方などを変更している。
5月からは単独種目の試合に積極的に出場。記録的にはまだまだのレベルだが、日本選手権にはまとまってきそうだ。優勝すれば7連勝。記録的には昨年B標準を突破済みだが、中田の悲願は6000点突破。五輪A標準でもある。
急成長の浅津このみが関東インカレに5374点で優勝。4月に5200点を超えた伊藤みのり、田村彩湖らとの2位争いが予想される。
中田有紀の今季初戦だが、個々の種目には中部実業団や中京大記録会などで出場している。自己新記録が出ているわけではないが、“いい感じ”で状態が上がってきているのがわかる。
中田有紀の日本記録時の内訳と、今季上位3パフォーマンスの内訳を紹介しておく。
|
中田有紀 |
|
2004日本選手権 |
100 mH |
13秒97(−0.2) |
走高跳 |
1m75 |
砲丸投 |
11m74 |
200 m |
25秒02 |
走幅跳 |
6m41(+2.9) |
やり投 |
43m16 |
800 m |
2分19秒67 |
得点 |
5374 |
5267 |
5218 |
選手 |
浅津このみ |
伊藤みのり |
田村 彩湖 |
所属 |
(中 大) |
(小島プレス) |
(中京大ク) |
日付 |
5.25 |
4.20 |
4.20 |
大会 |
関東学生 |
日本選抜和歌山 |
日本選抜和歌山 |
100 mH |
14.47 |
14.20 |
13.94 |
|
-0.7 |
1.7 |
1.7 |
走高跳 |
1.60 |
1.60 |
1.51 |
砲丸投 |
11.83 |
10.68 |
10.93 |
200 m |
25.30 |
25.64 |
25.38 |
|
-1.7 |
2.7 |
2.7 |
走幅跳 |
5.64 |
5.45 |
5.62 |
|
0.4 |
0.8 |
2.3 |
やり投 |
41.73 |
42.77 |
43.58 |
800 m |
2.23.70 |
2.23.89 |
2.30.59 |
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