2008/10/25 日本選手権リレー
男子4×100 mRは早大がV奪回
「新たな連覇の第一歩にしたい」

個々の成長と意気込み、リラックスが適度に融合か?

 男子4×100 mRは早大が1走の江里口匡史(2年)でリードすると、2走・木村慎太郎(3年)、3走・楊井佑輝緒(4年)、4走・木原博(3年)と、危なげないバトンパスと走りを見せ、38秒97での大会新で快勝。2位・中大に0.52秒差をつけた。

 インカレよりも重点を置かない大学が多いなかで、早大は日本選手権にも全力投球する。一昨年までは10連勝。4走の木原は次のように説明する。
「早稲田にとって日本選手権リレーは特別な意味があります。去年、連覇が途切れてしまいましたし、このメンバーで走れるのも今回が最後です。なんとしても38秒台で走りたい気持ちが大きかった」
 38秒97は早大歴代2位。早大記録は38秒91(穴井・中川・田村・小島)で、2000年9月の日本インカレで出したもの。4走の小島が爆発的な走りを見せた。
 2走の木村が昨年の敗戦からの流れを説明する。
「今回は連覇が途切れた去年のリベンジをして、新たな連覇の第一歩にしたいと思っていました。それを38秒台で飾りたかった。4月の東京六大学でバトンを落としてしまいましたが、そこまでは昨年の日本選手権からの流れを引きずっていました。でも、その後は個人の走りも良くなって、今季は全員が自己新を出しましたし、バトンの精度も高めてきた。(38秒台に)届きそうな自信を持って走ることができました」

 今季、エースの江里口は日本インカレ2連勝を達成し、前中学記録保持者・楊井が復調した。だが、箱根駅伝記事風に“学年”の成長にスポットを当てるなら、早大4×100 mRの原動力は間違いなく、木村・木原の3年生コンビの成長だ。
 後半型の木原は関東インカレで3位となり、学生トップスプリンターの仲間入りを果たした。スタートから前半に強い木村は日本選手権で3位となり、関係者をあっと言わせた。木原も日本選手権の決勝に残り、北京五輪代表争いとは別のところで、陸上ファンの注目を集めたのだった。

 客観的に見て、今大会の早大には“力み”の生じやすい要素が多かった。伝統を重んじる早大の校風が、日頃のトレーニングにプラスとなっているのは間違いのないところだが、その大学が前年に連覇が途切らせてしまったことで、選手たちは「リベンジ」を口にしていた。
 選手個々に見ても力みやすい要素はあった。江里口は昨年も日本インカレに優勝していたが、日本選手権リレーは走れなかった。「昨年はケガなどの悪い流れもありましたが、全員の失敗。完全に力不足です」と木村は言ったが、江里口不在による戦力ダウンは明らかだった。
 楊井はインターハイまでは入賞しているが、早大入学後はまったく良いところがなかった。4年生になりキャプテンを務め、自身も自己記録を破って復調したが、卒業後は一般企業に就職する。今大会が現役最後となる可能性が高い。周囲も楊井自身も、花道を飾ろうと考えて不思議はない状況だった。

 その2人にも4×100 mRに対する強い思いはもちろんあっただろう。だが、変な力みがなかったように見えたのだ。
 江里口は来季のナショナルチーム入りを意識していた。
「今日は、ただ1走をこなすのではなく、日本代表を考えたときにポジションを広げる意味もありました。それに、200 mを見据えての1走でもあるんです。これまで100 mに固執してきましたが、スプリンターとして幅を広げる意味でも、カーブも直線も走れるようになりたいと。今まではカーブで右肩がかぶさった走りになって、脚がバタバタと空回りしていました。国体が200 mだったので(2位)その前から練習していましたが、今日は1段、2段とレベルを上げて走れたと思います」
 より先にある目標を意識することで、目の前の大会で力まなくなる。絶対にそうなるとは言い切れないが、よく見られるのは確かだ。オリンピックで戦うことを考えている選手は、日本選手権で力んだりしない。インターハイで優勝を狙っている選手が、地区インターハイで自己新記録を出したりする。
 楊井は経験から自然と、力まないことを考えていたようだ。
「ずっと38秒台を狙って4年間やってきました。しかし、これがラストチャンスと考えると力が入ってしまいます。テンションを上げまくると良くないのはわかっています。最後だということは極力考えないようにしました。実際に1・2走がしっかりと走ってくれたので、僕はリラックスして走りました」
 キャプテンのこのスタンスが、チームに良い形で作用していた可能性は高いのではないか。

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